第24話 対『二頭蛇』①
俺が目を開けてみれば、視界の端に半透明の文字が表示されていた。
しかも、大量に。
〔スキル獲得 【視覚強化】 Lv1〕
〔熟練度上昇 『視力強化』 1/10→5/10〕
〔SLv上昇 【視覚強化】 Lv1→2〕
〔技能獲得 『視界拡張』 1/20〕
〔スキル獲得 【呪法】 Lv1〕
〔熟練度上昇 『毒呪』 1/20→20/20〕
〔SLv上昇 【呪法】 Lv1→4〕
〔技能獲得 『催眠呪』 1/20〕
〔レベル上昇 『ドラゴニックパラセクト』 レベル16→31〕
お、おい……。
なんだよこれ。
こんなの、巨龍さんの中にいたとき以来だぞ。
〔熟練度上昇 『催眠呪』 1/20→20/20〕
〔SLv上昇 【呪法】 Lv4→7〕
〔技能獲得 『麻痺呪』 1/20〕
そんなことを考えている内にも、視界に表示される文字は次々に増えていく。
〔熟練度上昇 『麻痺呪』 1/20→20/20〕
〔SLv上昇 【呪法】 Lv7→10〕
〔技能獲得 『解呪』 1/10〕
んなっ!?
これって……。
〔熟練度上昇 『解呪』 1/10→10/10〕
〔スキル派生 【呪術】 Lv1〕
〔スキル獲得 【呪仙者】 Lv1〕
……これで終わりか……?
うん、終わったみたいだ。
これは、どう考えても“寄生”の効果だよね。
つまり、これはグルートさん、もしくは──
──いや、やめておこう。
なぜそんなことをしたかなんて、考えている時間は無いしね。
兎に角、今はこの状況を打開することだ。
他のことは後で考えればいい。
さっき手に入れた技能の中に、この状況を打開できそうなものがあった。
俺はエミネルちゃんの動きを警戒しながらも、技能の詳細を開いていく。
ーー解呪ーー
・対象にかかっている呪いを解く。
・熟練度が上がるほど効果上昇。
ーー呪視ーー
・呪いを視覚化できる。
・熟練度が上がるほど効果上昇。
これだ。
ちなみに『解呪』は【呪法】スキルの技能で、『呪視』は【呪仙者】の技能。
ひょっとすると、これを使えばエミネルちゃんを正気に戻せるんじゃないのか……?
そんな内にも骨を纏った魔人はジリジリと間合いを詰めてくる。
考えてる時間はないってことか。
いいよ。
やってやる。
どうせ、やらなきゃやられて終わりなんだ。
まずは──『呪視』を発動!
エミネルちゃんの方に視線を向けたところ、彼女を覆うように、黒いモヤモヤが蠢いていた。
あのモヤモヤが呪いなのか?
わからん。
とにかく、あれを消せばいいんだろ?
やってやる!
『魔法系スキルには、明確なイメージがねェと発動しねェ。自分の操る魔素でも、魔法自体のイメージでもいい。とにかくイメージしろ』
魔法を教えて貰ったときのグルートさんの声がフラッシュバックした。
俺はその教えに従って、黒いモヤモヤを散らすイメージを、頭の中で組み立てていく。
『解呪』!!!
呪いを解除しようと、エミネルちゃんに向かって技能を発動する。
途端、どす黒いモヤモヤを放ちながら、彼女が呻き、叫び始めた。
「う、うぐわ──ぁぁぁ!!!」
彼女は悲痛な声をあげながらも、頭を抱えてその場にうずくまる。
同時に、白い骨の鎧が剥がれ始めた。
あの骨さえ剥がれれば。
──いけるはずだ。
俺は黒いモヤモヤを晴らすイメージを続ける。
「あぁぁぁぁぁ、あぁ…………」
やがてエミネルちゃんの絶叫は止まり、骨の鎧も、頭のヘルメットを除いては完全に消えた。
少しして、安らかな寝息がすうすうと聞こえてくる。
……よかった。
これで、なんとかなった。
「……つまらない真似を……」
俺が彼女の寝顔を見てホッとしていると、怒りを、いや、呆れを孕ませた声が聞こえてきた。無論、声の主は二頭の蛇だ。
「まぁ……いいとしましょう。貴様を殺した後に、その餓鬼を殺す手間が増えただけですからね! ギュロロロロ」
やらせはしない。
できる限りの殺意をこめて、高らかに笑う二頭蛇を睨む。
「なぁに、あなたと戦っている間に、その餓鬼を攻撃するような真似はしませんよ? つまらないので、ね!!!」
そう言いながら、蛇頭が口を開けて紫色の液弾を発射してきた。
くそ!
いきなりかよ!
俺も口を開けて『低級ブレス』を放ち、迎撃する。
ニヤリと、二頭蛇が気色の悪い笑みを浮かべるのが見えた。
──炸裂音。
紫色の液弾と『低級ブレス』がぶつかり合い、相殺したのだ。
毒々しい色をした液体が全方向に飛び散る。
しまった──っ!
俺は咄嗟に、『ウォーターシールド』を発動した。
──エミネルちゃんの前に。
くそ!
『衝撃掌』!
此方に飛んできた液を『衝撃掌』で吹き飛ばす。
が、『衝撃掌』の規模は小さい。
吹き飛ばしきれなかった液が俺の皮膚を溶かしていく。
「──ッ!」
激痛が走る。
〔SLv上昇 【痛覚耐性(小)】 Lv1→2〕
〔SLv上昇 【熱耐性(小)】 Lv3→4〕
〔スキル獲得 【酸耐性(小)】〕
即座に『ウォーターボール』で傷口を洗った。
少しだけ傷口に染みて、顔を顰める。
周りでは、弾かれた液弾が土や木を溶かし、穴を大量に作っていた。
エミネルちゃんの方を見てみれば、無事だった。『ウォーターシールド』の水が紫っぽく濁っていたから、上手い具合に防いでくれたんだろう。
顔の向きを戻し、二頭蛇にキッと視線を向ける。
──なぜ、俺の前にも『ウォーターシールド』を発動させなかったのか。
それは、純粋に無理だからだ。
俺の持っている技能、『並列構築』は魔法系技能を同時に構築できるようになるというもの。
つまり、構築自体はできる。
だが、狙いを同時に定めるというのは中々難しい。
ある一つの標的に対しての『ウォーターボール』での同時攻撃や、直進し続ける『ウォーターカッター』を少し角度をずらして真横にズラっと並ぶ標的達に撃つ程度のことならば、難易度は高いが、できる。
さっきの二頭蛇への攻撃のときや、狩りでのときのように。
しかし、『ウォーターシールド』は違う。
魔法の過程はよくわからんから飛ばすとして、その過程の結果、浮遊する水の盾を作るというのがこの魔法だ。
この盾は、動かない。
固定式なのだ。
つまり、ピンポイントで、攻撃の来る位置に発動しなければならない。
一つを近くに発動するならば、問題はない。
しかし、同時に遠く離れた場所に、ピンポイントで発動するのは──難しい。
位置がズレてしまう可能性が高いのだ。
両方ともズレてしまう可能性が高いが、もしかしたら両方とも成功する可能性があるもの。
片方は確実にダメージを受けるが、片方にはほぼ確実に成功するもの。
俺はリスクの低い方を選んだというわけだ。
「ほう……その餓鬼を庇うとは……。次は貴方の番ですよ? ええ。私からは攻撃しませんよ? つまらないですか、ら!」
「──ッ!」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながらも、二頭蛇が殺気を放ってくる。
多分『威嚇』か何かなのだろうが……くそっ。
震えが止まらない。
奴の能力値は俺以上なんだろうな。
だが──負けるわけにはいかない。
頭を回せ。
考えろ。
見つけ出せ。
次は──俺の番だ。




