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第22話 暴走と呪い

 うおぉ……。 

 なんだあの紫のモクモクは。

 って、家が! 穴が空いてるぞ!


 やっとのことで村に着いた俺は目を見張る。

 村のあちこちでは紫煙が漂い、木々で作られていた家々は破壊されていた。


 これって完全に戦闘の跡だよね……。

 しかもどれだけ激しい……。


 村の中に入ってみれば、あちこちに蛇の死体が転がっていた。

 大きさはまちまちで、俺と同じくらいの奴から二倍近いサイズの奴までいる。


 これを全て、エミネルちゃんがやったのか……?

 わからん。


 そんな風に周りを観察しながら村を這っていると、村の反対側の方から何かの破壊音が聞こえてきた。


 行くしか──ない。


 そう決めた俺は、音が聞こえた方向に向かっていく。


 畑を走り抜けて、角を曲がって、後少しで──え?


 何かが風を切る音が聞こえる。

 その直後、視界の端で木の家が音を立てて崩壊した。

 家が崩れた影響で砂埃が舞う中、数メートル先の角から大きな蛇が現れる。


「ギュロロロロ、貴様のような餓鬼が本気でこの私を倒せると?」

 

 蛇が喋っているのかと思えば──違う。

 蛇の後頭部から人間の頭が生えていた。

 キモっ。

 何アレキモい。


 俺の三倍ほど、一階建ての一軒家ほどの体長を持つ、その二頭蛇の視線の先には、先程崩れた家。

 そしてそこから──白い人型が飛び出してきた。


 あれはおじさまの眷族──否、違うな。

 

 俺は、直感的にそう感じた。

 

 あれは──エミネルちゃんだ。

 あの姿は多分、『呪骨仮面グロルバイン』の影響だろう。

 それにしても何だ、あの雰囲気は。

 禍々しすぎる。


 骨の鎧を纏っているエミネルちゃんの身長はおじさまと同じ程度には伸びており、そして何より雰囲気が違っていた。

 

 何でだ……。

 何か、わからないけど、禍々しい。


 そんな違和感に俺が動けないでいると、飛び出してきたエミネルちゃんは、既に二頭蛇に殴りかからんと肉迫していた。

 が、二頭蛇はしならせた尾でこれを迎撃。

 太い尾による横撃でエミネルちゃんが再度吹っ飛んだ。


「うぐッ、うおぁぁぁ──!!!」


 と、思えばエミネルちゃんが受け身をとって大地を蹴る。

 またもや蛇に突っ込んだ。


「やれやれ……何度やればわかるのですか?」


 そう言いながら二頭蛇が蛇のほうの口を開け、エミネルちゃんに向けて紫煙を噴射した。

 エミネルちゃんは紫煙に触れるギリギリの所で跳躍し、空中に逃げる。

 そして──空を蹴り、二頭蛇に接近した。

 

「んなっ──」


 予想外の動きだったのか、二頭蛇が目を見開く。 

 蛇頭への殴打。

 エミネルちゃんの右の拳が紫色の頬に向かって振り抜かれた。

 が、これで攻撃は終わらない。

 体を回転させての回し蹴りが、人頭に綺麗にヒットする。


「グボァ……」


 仰け反る二頭蛇。

 が、目をカッと見開き踏みとどまった。


「この、餓鬼がァ──ッ!!!」


 二頭蛇がそのままの体勢で尻尾を唸らせ、エミネルちゃんに叩きつける。

 今度は空を蹴って避けることはされず、直撃。

 地面に叩きつけられたエミネルちゃんが血反吐を吐く。 


 二頭蛇は倒れたエミネルちゃんに近づき、長い尻尾でしめあげた。


「う、うぐがぁぁあぁぁぁ!」


 エミネルちゃんの叫びで、放心していた俺はようやく我に返った。


 くそっ!

 何をやってるんだ俺は!

 魔法の構築開始!

 気の集中も開始!


「ギュロロ、捕まえましたよ……。よくも手こずらせてくれましたね。このまま……ん?」


 此方を向いた二頭蛇に向かって尾針を向け、口を開く。

 構築した魔法を発動し、周りに滞空させる。


「なんだ貴様は──ッ!!!」


 尾針の先から『衝撃掌』を放ち、開いた口から『低級ブレス』を放つ。

 同時に展開していた五つの水弾を射出した。


 全て──直撃。


 〔熟練度上昇 『低級ブレス』 2/30→3/30〕

 〔熟練度上昇 『ウォーターボール』 29/30→30/30〕

 〔熟練度上昇 『並列構築』 4/10→5/10〕

 〔SLv上昇 【魔道】 Lv3→4〕


 あの巨体だ、避けようがない。


 締めつけていた尻尾の力が弱まったのか、エミネルちゃんが跳んで抜け出した。


 よし!

 これで二対一で戦える!


 俺は脱出してきたエミネルちゃんに近づいていく。

 


 そして、エミネルちゃんの蹴りが繰り出された。



 俺は咄嗟に【水魔法】『ウォーターシールド』を発動。

 空中に作り出した水の盾でガードする。

 さらに反射的にエミネルちゃんの足元に水弾をばらまき牽制すると、彼女は跳び下がって間合いを取った。


 なんで?

 なにが?

 状況が理解できない。


 俺はエミネルちゃんに対して『思念伝達』を発動する。

 が、エミネルちゃんの表情は変わらなかった。


 どういうことだ?

 なにが起こっている?

 なぜ?

 意味がわからない。


「ギュッロロロ! ソイツの仲間か何かでしたか? ギュロロロ、残念! ソイツは暴走しているのですよ!」


 視界の端で二頭蛇が嘲笑うようにして言った。


 暴、走?

 何故だ。  

 あの姿も、おかしい。

 技能で変わっているのか?

 技能──?


『『呪骨仮面グロルバイン』を使ったのですか……。あれは諸刃の剣だというのに』


 スカルおじさまの言葉と渋面がフラッシュバックする。


 そうか!

 諸刃の剣。

 『呪骨仮面グロルバイン』の効果で、我を失っているのか!

 くっ、だがどうすれば。

 

「そうですねぇ……貴方達が戦い、勝ったほうと勝負してあげましょうか。 コレは名案ですね! ギュロロロロロ!」

 

 そう言って二頭蛇がゆっくりと後退していく。

 エミネルちゃんの視界には、もう俺しか映らなくなった。


「うがぁっ!」


 エミネルちゃんが吠えながら、俺との間合いをジリジリと詰めていく。


 くそ! このままじゃあの二頭蛇の思い通りだ。

 例え俺が負けたとしても、エミネルちゃんが二頭蛇に殺されるだけ。

 畜生! 


 考えるんだ!

 考えろ。

 エミネルちゃんを救う方法を。


 何故暴走している?

 ──技能の効果で。


 考えろ。


 その技能についておじさまが他に言っていたことは?

 エミネルちゃんの姿は?

 その技能の名前は?


 名前? 


 技能の名前は──『呪骨仮面グロルバイン』だ。

 グロルバイン。

 呪いの──骨。


 そうか!


 あの姿は“呪いの骨”に包まれているものなのか!

 それなら、なんとかして呪いを解ければ。


 呪いさえ、呪いさえ解け──へっ?



 ──俺の背中を、何かぞくっとしたものが駆け巡った。


  

 心の中で間抜けな声を上げながら、俺はなぜか硬直してしまう。   

 視線だ。 

 何もいないはずの背後から注がれる、圧倒的な強者からの視線。

 さながら猫に睨まれる鼠のように、全身の毛が逆立つ。

 

 なん、だ……これは……。

 動け……な……い。


「ハァ? 何、止まっているのですか? 今更怖くなったのですか?」


 どこかで二頭蛇がわめいていたが、そんな声は頭に入らない。


 ドクドクと心臓が脈打つ。

 本能がのたくり回る。


 この視線の先にいる相手は、俺ごときの命など一瞬で消し去ることができるのだと理解した。

 理性ではない。

 本能で、理解した。 


 自分の心音がやけに大きく聞こえる中、俺はゆっくりと目を閉じる。


 ……起きたらなぜか寄生虫で、やっとのことで宿主から逃げ出して、いい人達と……いや、モンスター達か。彼らと知り合えて。

 なんだかんだで、楽しかったなぁ。

 もう少し、生きたかった。

 せめて。

 せめて、エミネルちゃんを助けたかった──




 


 ──ん? あれ? まだ生きてる。

 

 その絶対的な視線が消えるのを感じて目を開けてみれば、俺の命はまだ終わっていなかった。

 目の前の状況も、何も変わっていなかった。


 否。

 少しだけだが、確実に変わっていた。

 変わり始めていた。

 それは、視界に映る半透明の文字。


 〔スキル獲得 【視覚強化】 Lv1〕

 〔熟練度上昇 『視力強化』 1/10→5/10〕

 〔SLv上昇 【視覚強化】 Lv1→2〕

 〔技能獲得 『視界拡張』 1/20〕


 〔スキル獲得 【呪法】 Lv1〕

 〔熟練度上昇 『毒呪』 1/20→20/20〕

 〔SLv上昇 【呪法】 Lv1→4〕

 〔技能獲得 『催眠呪』 1/20〕

 〔レベル上昇 『ドラゴニックパラセクト』 レベル16→31〕


 その文字が、先程の視線の主を物語っていた。

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