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第2話 地獄ではないっぽい

 面倒くさ……。


 正直な感想は、それだった。


 ただでさえ生きるのは常にダルいというのに、この状況。

 はっきり言って、人生でも一、二を争うレベルのダルさ。

 思わず現実逃避したくなっちゃう。

 いや、この思考が既に現実逃避か。


 まあ、でもあれだ。

 俺は死んだんだろう。

 で、地獄っぽい場所に来たと。


 でも待てよ?

 目を覚ましてから割と時間はたったけど、まだ鬼っぽいのが迎えに来てないぞ?

 割と現世のイメージとは違ったりするのかな?

 

 まあ鬼どころか俺以外の生物を見かけてすらいないんだけどさ。

 

 うーむ、とりあえず動いてみるか。

 動き回ればなにかわかることがあるかもしれないしな。

 

 でも手足の感覚が無いんだよな……。

 あ、あれか、シャクトリムシみたいに動けばいいのか。


 えーと、こうか?

 よしっ、動けた動けた。

 うわっ、床がなんかべちょべちょしてて気持ち悪いな。

 我慢我慢と……。

 

 おっ、ここが角か。

 よっと。

 よし、上手く反転できたな。

 これで部屋中を見渡せるぜ。


 ふむふむ、部屋は四角形か。

 んで、一つだけ扉のない入り口があると。


 ……狭いな。


 大体二メートル四方だろうか。


 ん? あれ? それだと俺の身長に合わないな。

 あ、もしかして体自体が変わってるのかな。

 地獄に落ちると子供になって身長が縮むとか、そういうので。 


 でもそれだと手足の感覚がない説明にはならないな。

 うーん、わからん。


 ん?

 よく見たら壁からへんなべちょべちょ出てるなオイ。

 きもちわる。

 うわ、シューっとか音たててる! きもい!


 まあ、それはおいといて。


 行くかね。外の世界に。

 いや、別に理由なしにってわけじゃないんだ。

 じつは……じつはさ、さっきから腹が減って仕方がないんだよ。

 運動したからか? 引きこもりが運動するもんじゃないよね。


 まあなんにせよ、ここ出ないと話にならないでしょ。


 体を曲げて、伸ばして這い始める。


 よいしょ、よいしょっと。

 ふう、部屋の外だ──


 ──え?


 部屋から出た俺の視界に飛び込んできたのは、何かに群がる細長い虫達。

 その見た目は白いミミズに紅い両目と鋭い尾針を付けたようなものだった。


 奴らは一瞬だけ俺に顔を向けるも、すぐに視線を切り離し何かを貪り始めた。


 いやいやいや、え?

 いや、なんだよあれ。

 きもいわ。さすがにきもいわ。


 おぞましい光景に俺が呆然と立ち尽くしていると、ぎゅるるる、とお俺の腹が鳴った、気がした。 

 俺の視線が虫達の貪るナニカに向かう。

 

 いやいやいや、あいつらの中に割り込めと?

 でもこのままだと餓死……。

 いやいやいや、でもあんな気持ち悪い奴らの近くに……。


 ……背に腹はかえられぬ、か。


 苦渋の判断を下した俺はゆっくりと虫達に近づいていく。

 数分の格闘ののち、俺はなんとか割り込むことに成功した。


 っしゃあ! 俺の勝利だぜ!


 お、これかなりグチャグチャだ。

 よかった、よかった。

 ぶっちゃけ心配だったんだよな。

 すげぇグロいもの、例えば虫とかだったらどうしようって。

 これなら原型がわからないから大丈夫そうだ。


 じゃあ、いただきまーす。


 がつがつ、むしゃむしゃ、ぼりぼり。

 がつがつ、むしゃむしゃ、ぼりぼり。


 ふむ。悪くない。

 いや、悪くないもなにも味がわからないんだけどさ。

 

 がつがつ、むしゃむしゃ、ぼりぼり。


 さて、腹も膨れたことだし部屋に戻るか。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 さて、愛しのマイルーム(悲)に戻ってきたわけだが。

 戻ってきた理由は三つある。 


 一つ目は、腹が膨れて眠くなってきたから。


 二つ目は、部屋の外のあの空間が突き当たりが見えないほどに長い廊下のようなものだったということ。

 まあつまり、この部屋から出ても外の世界に出ることは叶わないってわけだ。


 そして、三つ目は。


 気付いてしまったからだ。


 さすがにさ、あれだけたくさんの虫達を見たら気付くよね。

 あいつら皆、食事を終えたらそれぞれの壁の横穴に戻っていったんだぜ?


 ははは、つまりさ。


 俺が体を曲げて後ろを向けば──俺の意に従うように、白いウニョウニョが蠢いていた。


 俺、あの虫になってたんだよ。

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