第18話 キノコ狩り!(終)
2章のヒロインはエミネルちゃんなので大丈夫(?)です
森人族。
彼等は鉱人族と同じく、亜人種でありながらも人族・亜人族・モンスターのどの勢力にも属さない、いわゆる中立種族だ。
彼等は清浄な魂を愛し、清浄な魂を尊ぶ。
それ故に閉鎖的であり、俗世とは殆ど接点を持たないらしい。
そんな彼等が住むエルフの森は、ここから歩いて一週間程度の距離にある。
彼等は長い生涯をその森の中だけで過ごし、知識と技術を後世に伝え、死んでいくという。
そんなエルフが、何故こんなところにがいるんだ?
俺の疑問はもっともなものだった。
なぜなら、エルフやドワーフと聞いてははしゃぎ回る俺に、スカルおじさまが口を酸っぱくして言ったからだ。
「短い一生においてエルフと会うことなど、まずないと思った方がいいですよ」
と。
しかし、こうも言っていた。
「もしもエルフに会ったのなら、恩を売ることです。逆に、最もやってはいけないのは、敵視されることです」
今がその、恩を売るときなのではないだろうか。
とりあえず、何故ここにとか、そういうのは置いておこう。
もう一度、改めてエルフの少女を見下ろす。
先程からエミネルちゃんがツンツンと頬をつついているが、エルフは全く起きる様子がなかった。
それどころか、衰弱しているようにも見える。
一つ、心当たりがあった。
エミネルちゃんに、エルフ少女を抱いて運んで貰うように頼む。
俺の顔を見て神妙に頷いたエミネルちゃんが、エルフ少女をお姫様抱っこにし、俺はさっき倒した巨大キノコの方へと這い始めた。
後ろから来るエミネルちゃんが歩きやすくなるように、『ウォーターカッター』で周辺の低木をカットし、小さな道を作っていく。
やがて巨大キノコを倒したところまで戻ってくると、エミネルちゃんにエルフ少女を地面におろすように頼んだ。
ん?
なぜ、戦闘後に何度も『思念伝達』するほどの精神力が余ってるのかって?
それは、あの巨大キノコのおかげだね。
なんとあのキノコ、大量の魔素が含まれているからか、食べると精神力が回復するのだ。
チートアイテムだよね。
そのおかげで戦闘後の俺の精神力は全快していたのだ。
「ミミズさん、このお姉さん大丈夫なの?」
地面にエルフ少女をおろしたエミネルちゃんが心配そうに聞いてくる。
安心させるために頭を尻尾で撫でてやった。
多分、大丈夫だ。
俺はこのエルフの状態に心当たりがある。
それは、魔法を覚えた狩りに行った次の日。
俺はハッキリ言って、馬鹿だった。
うん。
調子に乗ってしまっていた。
スキル上げと称して、誰もいないところで魔法を使いまくったのだ。
いやね、だってさ。
おじさまに狩りは当分駄目って言われちったからさ。
仕方ないよね。
結果、精神力を使い果たしてぶっ倒れた。
使い果たしたって言っても、多分0にはなってないけどね。
しかも、実戦じゃないからか熟練度は殆ど上がらなかった。
踏んだり蹴ったりだよチクショウ。
まぁ、俺が言いたかったのは精神力を使い果たしてぶっ倒れた時のことだ。
俺の場合は、生命活動に魔素、つまりは精神力を使わないからなんとかなったものの、エルフは違う。
菜食主義者である彼等は、偏った栄養を補う為に魔素の力を借りているのだ。
しかもこの少女、よく見れば少し痩せている。
多分、少し前から飯なんて食ってなかったんだろう。
遂には生命維持の為の精神力消費量が精神力の自然回復量を上回ってしまったんだろうな。
んで、ぶっ倒れたというのが俺の予想だ。
ここにいたのは、生存本能的な何かなんじゃないかな。
周りの魔素が濃ければ濃いほど、精神力の自然回復量は高まるらしいし。
まあつまり、このキノコを食わせればなんとかなると思う。
ということで、【水魔法】で作り出した水弾に、微塵切りにしたキノコを入れた物をエルフの少女に飲ませる。
エルフ少女の顔色が少しだけマシになった気がした。
ホっと一つため息をつく。
「ねえ、ミミズさん。そろそろ帰る?」
《うん》
空を見上げれば、太陽が西に傾き始めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それじゃあね! ミミズさん!」
手を振るエミネルちゃんに、尻尾を振り返す。
山分けしたキノコとエルフ少女を担ぎながら、俺はおじさまハウスへと這い戻っていった。
帰り道を急ぎ、俺は少ししておじさまハウスに辿り着いた。
ちなみに、余ったキノコとエルフ少女は巨大キノコのツルのムチで俺の体にぐるぐる巻きにされている。
俺がどうしようか困っていると、何かを思いついたかのようなエミネルちゃんがテキパキ作業してくれたのだ。
エミネルちゃんは天才なんじゃないかな。
俺が馬鹿なだけでしたね! すみませんでした!
まぁ、今日のキノコ狩りは大成功だったんじゃないかな。
怪我することもなく経験値と熟練度とキノコと、エルフ少女にも借しができたんだし。
俺はほくほく気分でハウスの扉をノックする。
少しして、眼鏡をかけたスカルおじさまがドアを開けてくれた。
「おや、おかえりなさい」
《ダル、帰ったかァ》
グルートさんが念話を繋いでくれる。
《ただいまです》
もちろん、この念話はおじさまとも繋がっている。
グルートさんは、ある程度の距離なら離れていても念話が可能らしい。
《んで、ソイツはなんだァ?》
多分、『魔力感知』でもしていたのだろう。
エルフ少女の魔力もキノコパワーで少しは回復しているはずだしね。
「とりあえず、中に入ってからにしましょうか」
おじさまの提案に、俺は『ウォーターボール』で体を洗い【焦熱魔法】で乾かしてから、おじさまハウスに入っていった。




