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第11話 おや、俺の様子が……

 この世界には、大きく分けて三つの勢力があるらしい。


 一つは前世の俺の種族、人族。

 寿命は短く、戦闘力も低いものの、圧倒的な繁殖力による数で今も尚世界の大部分を掌握しているらしい。

 スカルおじさまが言うには、弱い癖に神様に贔屓されてるとかなんとか。


 二つ目に、人間に程近い見た目ながらも少し違った特徴を持つ、亜人族デミヒューマン

 彼等は全体的に寿命が長く、戦闘力も高いものの、繁殖力が低く絶対数が少ないらしい。

 森人族エルフや、鉱人族ドワーフに代表される彼等亜人種はファンタジーの鉄板中の鉄板なので、さすがに少し興奮した。


 三つ目に、我らがモンスター。

 この世界のモンスターは、その半数ほどがある程度かそれ以上の知性を持っているらしく、一勢力にも数えられるらしい。

 

 と、この知識は全て、スカルおじさまから教えてもらったものだ。


 実は昨日おじさまに、“寄生”させてください、と頼み込んだところ「アンデット系モンスターに“寄生”はできませんよ?」と返答されたのだ。

 その後、まさかの欠陥に愕然とした俺を見かねて、おじさまがこの世界のことについて色々教えてくれた。


 おじさまマジイケメン。

 俺が女だったら落ちてるわ。

 ……女ってか、雌じゃ、ないよね? 

 確認のしようがないんですけど。

 くっ、こんなことなら巨龍のところでもっと同種を観察しておくべきだった……。

 

 まあいい。

 それより今はやるべき事がある。

 いや、性別は大事だけど。


 空を見上げれば、さんさんと輝く太陽は真上まで来ていた。

 周りを見渡すが、人はいない。

 

 俺は今、一人でおじさまハウスの裏庭にいた。

 何のためかって?

 おいおい、もう忘れたのかい?

 進化だよ。

 し・ん・か!


 そう、あの大量レベルアップの日から、待ちに待って……待ちに待って……何日かはわからないけど!

 楽しみにしていた進化の時間だよ!

 くぅ!

 ドキドキとワクワクが止まらねぇよ!


 よし、早速行くぜ。

 ポチッとな。

 

 〔進化確認〕

 ーーグレーターホワイトパラセクト

 ーーアクロバティックパラセクト

 ーードラゴニックパラセクト

 ーースモールポイズンサーペント

 

 お、おう……。

 条件を満たせば満たすほど進化先が増えていくってのはスカルおじさまから聞いてたけど……。 

 四つもあるんだな。


 ど・れ・に・し・よ・う・か・な。


 あ、これ、サーペントっての、寄生虫じゃないよね。

 蛇じゃん。  

 俺もうさ、寄生虫であることに誇り持ってるんだよね。

 寄生虫万歳! みたいな?

 なんで、蛇は却下。


 うーん、グレーターホワイトは単に上位種っぽいよね。

 アクロバティックは『軽快』を持ってるからかな?

 多分そうなんじゃないかな。   

 名前的に。

 そうなると、ドラゴニックは【下位竜法】の影響かね。


 アクロバティックはなしかな。

 俺の『ステイタス』は魔法寄りだからな。

 あと、名前的にもなし。

 とてもダサい。


 そうなると、グレーターホワイトかドラゴニックか。

 どうしようかね。

 ドラゴニックだと竜方面に行くのかな?

 あの巨龍みたいな感じかね。


 ……あいつは、圧倒的だったな。

 俺もいつか……あんなのになれるのだろうか。

 

 ……うん。

 決めた。


 〔進化先を確認 進化開始〕

 

 視界の隅に半透明の文字が表示されるのと同時に、俺の体が輝き出した。


 え? なに、これ?

 ちょ、知らないんですけど!

 聞いてないんですけど!


 予想外の現象に動揺する俺を余所に、輝きは段々と広がっていく。

 やがて体が完全に白い光に覆われると、俺の視界は暗転したのだった。


 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 俺が何かの温もりを感じて目を覚ますと、太陽はもう沈みかけていた。

 結構寝てしまったようだ。

 って、なんだ?

 腹の上にに違和感が、


「あ! 起きた!」


 体を曲げてみると、俺の体の上に女の子がまたがっていた。


 年は、まだ5、6歳だろうか。

 子供らしくシミ一つない肌と、サラサラとした短い髪はきれいな翠緑色に染まっている。角の生えた白い頭蓋骨をヘルメットのように被っており、耳は人のそれより少し尖っている。

 正真正銘、ようじょだ。

 

 彼女は俺に馬乗りになったたま、ぱっちりと開いた紅緋の双眸はこちらを捉えて離さない。


 困った。

 さすがにこの体勢は不味い。

 なぜか全く興奮しないんだけど、誰かに、骸骨おじさまなんかに見られたら、やばい。


 てかなんで興奮しないの?

 虫だから?

 虫だから?

 もう人には戻れないのかな?

 確かに巨龍の体内にいた頃は他の虫を見て興奮してたけどさぁ。

 もう嫌だよ……。


 数分の睨めっこの後、俺はなんとか抜け出すことに成功した。

 が、抜け出したそばから彼女が近寄ってきた。


 庭の中をぐるぐると回ると、興味深々に付いてくる。

 段々とスピードを上げていく。

 そして、急停止。

 スピードが上がっていた緑幼女は勢いよく俺に突っ込んできた。

 だが、俺の防御ステイタスは三桁レベル。


「ぎやっ!」

 

 ダメージを受けたのは、幼女の方だった。

 ふふふ、子供は可愛いな。

 

「ミミズさんひどい!」


 涙を滲ませながら怒る幼女。

 これには俺がダメージをくらった。

 いや、おま、ミミズさんって。

 

「でもよかった、ミミズさん元気になってて」


 ホッとしたのか無邪気な笑顔が花開く。 


 もう全部許せるわ。

 もうミミズさんでもいいよ。

 子供ってほんと癒やされるわ。


「……むむむ」


 と、いつの間にか俺の後ろに回っていた緑幼女が呻き始めた。

 俺は首を上手くねじって後ろを向く。

 

「ミミズさんって、こんなの付いてたっけ?」


 幼女が凝視しているのは俺の背中の、小さな羽だ。

 ふふふ、これこそ進化の賜物よ。

 我は先程までの我とは一味違うぞ?

 ……多分。


 あれ、この子はなんで俺の元の姿を知っているんだろう。

 今度は俺が視線を向ける番だった。


「ほへ?」

「ギャオッ!」


 あ、声出せたわ。

 うーん、でも、言葉は喋れないかな。


「ギャルギャルギャオ!」

「ミミズさん何言ってるの?」


 俺の声に、幼女は首を傾げるだけだ。

 ふたりで首を傾げていると、少しして骸骨おじさまと緑のおばさまが談笑しながらやってきた。


 おばさまの身長は低く、隣を歩くスカルおじさまと頭が三つ分くらいは違う。大体、小学校六年生くらいだろうか。身長以外の外見的には30歳を超えていそうだが。


「あ、お母さん!」


 どうやら緑のおばさまは緑幼女の母親だったようだ。

 まあ確かに、似ている。


 ん? 

 でもおばさまは頭蓋骨被ってないな。

 って、まさか……!

 スカルおじさま、さすがだわ……。

 

「違いますよ、ダル殿」

 

 何が違うというのだろうか。


「エミネルちゃんは突然変異というか、生まれながらの上位種なのですよ」

「そうなの! あたし“じょういしゅ”なんだよ! ミミズさん、すごいでしょ!」


 微笑浮かべたスカルおじさまと、胸を張る緑幼女──エミネルを見比べ、俺の視線はおばさまに移った。

 おばさまは苦笑しつつも口を開き、


「ええ、わたしの夫は普通のゴブリンですよ?」


 ふぅん、そうなのか。

 って、え?

 ゴブリン?

 ゴブリンってあのゴブリン? 

 なにかの間違いじゃ。


「カカカ、相変わらずダル殿は珍妙なイメージを持っていますな。この方々は、正真正銘ゴブリンですよ」


 うぅん……はっ。

 そうか、わかった!

 女だからだろ。

 男はもっと、こう、違うんだよ。

 多分。 


 まあでも確かに、背が低いのも、全身緑色なのも、耳が少し長いのも、ゴブリンだからって言われれば納得だな。

 ……顔以外は。


 じゃあもしかして。


「ええ、気絶していたダル殿を見付けたのはエミネルちゃんですよ」


 おお、まじか。

 ありがとうございます。


「ギャルル」


 エミネルちゃんに頭を下げる。

 

「いいよいいよ! ミミズさんも私と遊んでくれてありがとね!」


 エミネルちゃんは満面の笑みでそう言うと、彼女の母の方へ走っていった。

 ゴブリン?

 天使の間違いじゃないの?

 あんな純粋なゴブリンがいるわけがないじゃないか。


「じゃあまたね! ミミズさん、スカルおじさま!」

「ありがとうございました、スカル様、ダルさん」


 玄関で手を振るゴブリン母娘。


「ギャオッ!」

「ええ、また」


 俺はスカルおじさまとともに、手を振り、尾針を振り、彼女達を見送った。

 やがて二人の姿が見えなくなると、おじさまが口を開いた。


「ところでダル殿、進化後のステイタスはどんなものでしたか?」


 あ、え、わ、忘れてたぁぁぁぁ──ッ!!!


 おじさまは目を丸くして、そして細めて、苦笑したのだった。


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