表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

◆02 「主犯より重い罰は止めてよ?」

まえがき


・登場人物

ボク:自称“普通の男子高校生”。

祖父:女ダークエルフで魔王。


・前回までのあらすじ

 死んだ“ボク”の祖父が、異世界の女ダークエルフに転生して魔王になった後、前世の世界に戻ってきた。

 祖父がセーラー服を着ていた。

 別に昔海軍さんだった、とかそういうわけではない。

 田舎の県立高校であるボクの学校はいまだに男子は詰め襟、女子はセーラー服なのだ。


 もっとも、ボクの通う高校はそこそこレベルが高いことになっている。

 なので、古めかしい制服を馬鹿にされるよりはむしろ憧れられることの方が多い……気がする。


 なんで祖父がボクの通う高校の女子制服を着ているのか?

 それは祖父が女ダークエルフだからである。


 ……説明になってないか?


 色々あって異世界のダークエルフにTS転生した祖父が前世の世界に戻ってきて高校に通うことになり、セーラー服を着た。

 ……端折りすぎてわかりにくいかもしれないが、そういうことなのだ。


 季節は夏。

 もう少しで夏休み、というこの時期に転校を?

 そう思ったが、祖父はずいぶん楽しみにしていたようで反対できなかった。


「祖父ちゃん、高校には行ってないからなあ……」


 そういう言い方をされるとボクは弱いのである。

 しかたがないので、ボクは明日から学校で過ごすための設定を反芻した。



    ◇    ◇    ◇



 異世界から帰還を果たした祖父は、あれよあれよという間に日本での生活基盤を整えた。

 帰還翌日には密林的な通販会社から山のような荷物が届き……。

 三日後には「来週にはお前の学校に転校するから」と言い放った。

 どうやったか知らないが、クレジットカードや戸籍などを手に入れたらしい。


 祖父に方法を聞いたら「知らない方がいいよ?」と良い笑顔で言われた。

 それ以後は追求していない。


 書類ごとだけでなく、リアルでの生活基盤確立のためにご近所回りもすませた。

 彼女は「祖父の知人の娘で留学生として我が家にホームステイに来た」という設定。

 祖父曰く「だって日本人には見えないだろ?」。

 いや、それ以前に人間に見えないのでは?


 ……というほどではないか。

 そもそも「エルフだろう?」と疑う人はそうはいまい。


 結果からいうと、ご近所のみなさんはほぼツッコみなしだった。

 祖父曰く「認識阻害の魔法を使ったからな」とのこと。

 便利だな、魔法。


 ただひとり、もの凄い目でにらみ付けてきたのがお隣さんの家の女の子。

 ちなみにボクの幼なじみで通称は“姫”。

 ボクに対して祖父の正体を根掘り葉掘り訊いてきた。

 危うくボロが出かかってしまった。


「なんであんなにしつこくツッコんできたんだろ?」


 帰宅後にボクがそう言うと、祖父は「お前は女心がわからんやつだなあ」と笑われてしまった。

 女子歴二〇〇年の祖父にそう言われたら、肩をすくめるしかない。



    ◇    ◇    ◇



 初登校を果たした祖父は、当たり前のようにボクのクラスに転入してきた。

 これも“魔法”によるものなのだろうか。


 突然の転校生。

 加えて美少女。

 教室はお祭り騒ぎになった。

 ことに男子はあからさまに目をギラつかせていた。こわい。


 担任からの説明が終わった後、転校生(という設定)の祖父は自己紹介をすることになった。

 あらかじめ決めておいた「南アジアのとある国の出身」設定を解説。

 これまたあらかじめ設定しておいた長い長い名を名乗った後。

 「『ジィ』と呼んでください」と宣言した。


 同級生の美少女を他人の前で「ジィちゃん」と呼ぶのに支障がなくなった瞬間である。


 ボクの心配をよそに、祖父は割とすんなりクラスメイトたちに溶け込んでいた。

 先日もの凄い形相でにらみ付けたボクの幼なじみも同じクラスにいる。

 だが、彼女とも友好的な関係を築けたようだ。


 さすがは女子生活二〇〇年。

 すごいコミュ力である。


 むしろ「あんな美人の留学生と同居だと!」と、クラスの男子から詰め寄られるボクの方がヤバかった。

 お前らその美少女の正体を知ったら腰抜かすぞ。

 そう思いつつ適度にやり過ごす。

 男のやっかみは面倒くさい。「触らぬ神に祟り無し」なのだ。



    ◇    ◇    ◇



 そこそこのレベルの学校にはそこそこ勉強ができる連中が集まる。

 なので、公立の中学校までに比べれば、問題のある生徒は淘汰されている。


 それでも極たまーにいるのだ。変に不良を気取るやつが。


 放課後、同学年の男子生徒がボクに「話があると先輩が呼んでいる」と言ってきた。

 男同士の話なので、ひとりで来てほしいとのこと。

 もう祖父とふたりで帰るつもりだったのだけれど、仕方がないので呼びに来たパシリ君の後を付いていった。


 どうもこれが罠だったらしい。

 それがわかったのは、突然空き教室に蹴り入れられボクが閉じ込められたあとだった。

 ボクを閉じ込めたパシリ君が「今ごろ、お前が呼んでると先輩が彼女を連れ出している」とニヤニヤ笑いながら教えてくれたのだ。

 彼はボクを見おろしつつ、「身の安全を保証して欲しければ抵抗をするな」という意味のことも、もっと下品な口調と言い回しで言った。


 なかなかの知能犯じゃないか。

 根本的な危険には気付きようもないわけだけど。


 この後の展開について考えこんだボクを見て、パシリ君はなにかを勘違いしたらしい。

 いかにジィちゃんが性的暴行を受けるかについて大変下品な口調でまくし立てていた。

 どうもお裾分けにあずかれない分、妄想で補っているっぽい。


 彼の発言をそのまま再現すると、ボクに下品がうつるような気がするのでしたくない。

 そう思うくらいには不愉快な言い回しだった。

 念のために言っておくと、ボクは彼が思っていたようなことを心配していたわけじゃない。

 ボクが案じていたのは彼が想像もできないことだ。


 そうしているうちに、ふっと風を感じた……。

 次の瞬間。

 ボクをあざ笑っていたパシリ君は金属が打ち付けられたブーツで蹴り飛ばされていた。


 もちろん蹴ったのは、激怒したダークエルフの美少女だった。

 セーラー服姿でなく魔王軍総司令官たる鎧姿。

 ヤバい、完全に殺る気だ!


 床に転がされた後も、パシリ君は事態に反応できなかった。

 無理もない。

 転移魔法で突然現れたダークエルフの美少女に蹴飛ばされて、すぐに反応しろというのは要求レベルが高すぎる。


 パシリ君が事態を把握する前に、祖父が指で印を結ぶような動作をした。

 すると、彼の身体に“漆黒のイバラ”のようなものが巻き付き行動の自由を奪った!

 アゴも口も固定したので、しゃべることさえでないだろう。

 これも魔法か。


「下郎……よくも我が孫を傷つけてくれたな……」


 ドスの効いた声に、部屋の温度が急撃に低下したような気がした。

 ダークエルフさんは完全に魔王モードだった。

 それはそうと、ひとつ確認しておかなければならないことがある。


「ジィちゃん。えっと……彼の先輩は?」

「あの小僧なら、蹴り飛ばした上で“制約”の魔法をかけてきた」


 よかった。殺してはいなかった。

 ところで“制約”の魔法って?


「女に狼藉をはたらこうとすると、性的に達する呪いをかけた」


 ……もうまともな生活は無理だな、その先輩。


 もちろん、祖父を襲った男に同情なんかしない。

 ただ、優しい祖父がこれ以上他人を傷つけることで自分も傷つくところは見たくない。

 さて、そうなるとパシリ君の処遇ってことになるわけだが……。


「主犯より重い罰は止めてよ?」

「こやつはお前に乱暴をはたらいた。その罪、万死に値する」


 パシリ君に突き飛ばされて転んだときに切った額の傷から流れるボクの血を見ながら、魔王さまが判決を下した。


 パシリ君が事態を理解しているとは思えない。

 けれども、魔王の美しい切れ長の目でにらまれて無事で済むとは思っていないようだ。

 ガタガタと震えながら、しきりになにかを言おうとしている。


 魔王さまは「言いたいことがあるなら言ってみよ」といい、パシリ君の顔の戒めを緩めてあげた。

 優しいねぇ。

 その前に、「大声を出したら殺す」とも言っていたけれど。


「お、俺はやりたくなかったんです! 先輩に命令されて、逆らえなくて!」


 必死の形相で弁明するパシリ君。

 繰り返し、「先輩が悪い、先輩に命令されて逆らえなかった」と繰り返す。

 逆効果なやつだな、これ。


「ほう……先輩に言われたから……か……」


 にぃ、とダークエルフの美少女がサメのように笑った。


「お主、そんなにあの男に従いたいのか?」

「いや、そんな……」

「ならば、思いを遂げさせてやろう」


 そう言うと、祖父は腰に佩いていた細身の剣を抜いた。

 剣身が輝き、僕たちがいる部屋一杯のサイズで見知らぬ文字と幾何学模様が踊る。

 これって、いわゆる魔法陣?

 よくわからないけど、それまで使った魔法よりも強い力を駆使していることだけはわかる。


「生々流転! 一成不変! 願いをかなえ、存在の根本を変えるがよい!」


 展開した陣がパシリ君を中心に収束する。

 強烈な閃光!


 そして……光が収まったあとには、詰め襟を着崩した頭の悪そうな男子はいなくなっていた。

 その代わりにいたのは、艶やかな長い黒髪と気弱そうな表情のひとりの女子生徒だ。

 祖父のように蠱惑されるような麗しさには乏しいが、儚げな美少女である。


「因果律改変の術式だ。こやつは元から女子だったことになった」


 いまだ魔王口調から戻らない祖父がボクに説明してくれた。


「そして、こやつはあの先輩とやらに従属せねば気がすまない気性と成した。あの男と離れてはいられぬようにな」


 えーと。

 先輩氏の方は、女子になんかしようとすると大変なことになるんじゃなかったっけ?


「どうなるか見物だのう」


 悪魔だ! ……いや、魔王か。


 元パシリ君の美少女は、しばらくキョトンとして床にへたり込んでいた。

 だが、祖父がうながすと教室の扉を開けてどこかに去った。

 多分、先輩のところ……なんだろうなあ。


 この後どうなるか気にならなくもないが、ともかくそっちは後回し。

 ボクには、怒りのあまり魔力を使い果たし、今にも倒れそうなダークエルフの少女を抱きとめることの方が重要だった。


「……ところで祖父ちゃん制服は?」

「い、異空間にしまってある。後で……取り出す」


 やっぱり便利だな。魔法。

 こうして……。

 ボクは鎧姿のダークエルフの美少女を抱きかかえながら、空き教室でしばらく過ごすことになった。



    ◇    ◇    ◇



 その後、しばらく経ってから元パシリちゃんが妊娠したとかで、先輩ともども学校を辞めたと噂を耳にした。

 先輩氏はすっかり落ち着いたいい人になったとかで、ふたりとも幸せそうとのこと。

 そう聞いたときには、自分でも意外なくらい複雑な心境になったボクであった。


―続く―

あとがき


孫:そういえばよく鎧に着替える時間があったね。

爺:あれはそういうマジックアイテムで、〇.〇五秒で着用できる。

孫:それは便利。

爺:問題は脱ぐ方でな。

孫:…………。

爺:こちらは、異空間にある“見えない倉庫”に服を瞬間移動させている。

孫:……ということは。脱いでから着るまでに、タイムラグがある?

爺:問題ない。〇.〇五秒のラグを埋めるために、身体を“暗闇”の魔法で覆っているからな。

孫:魔法って細かい!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ