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◆01 「祖父ちゃんだ。帰ってきたよ」

まえがき


 皆さんが楽しそうに書いているので、自分もTSファンタジーものを書いてみました。

 高校生の“ボク”とそのお祖父ちゃんを中心にしたコメディです。

 ゆるゆる書いていくつもりなので、色々とご容赦を。

 あなたはダークエルフを見たことがあるだろうか?

 ボクはある。

 今、目の前にいる。


 時間は早朝。

 なんか、自宅の庭でもの凄い音がして、驚いて縁側の雨戸を開けたらそこにいた。


 褐色の肌。白いショートカットの髪。そして人間では考えられないほどの長い耳。

 太ももとか胸元とか、「それ防御力あるの?」とか思っちゃう鎧も含めて、コスプレだとしたらあまりにもよくできていた。


 見た目の年齢はボクと同じか、やや下くらい。

 身長は、ほぼ高校生男子の平均に近い僕と比べて頭ひとつ分低い。

 あ、顔立ちはちょっと目のつり上がった、「踏んでほしい」とか一部の人なら思うかもしれない感じの美少女です。

 はい。


 で、その美少女はボクに向かって、可愛らしい声でこう言った。


「祖父ちゃんだ。帰ってきたよ」


 ボクはとっさに反応できず、縁側で雨戸に手をかけたまま立ち尽くしちゃったけど……しかたないよね。



    ◇    ◇    ◇



 ボクは平凡な高校生だ。

 ちょっと普通と違うところがあるとしたら、中学生のときに両親が他界していることだろう。


 両親の死後、ボクは父方の祖父に引き取られた。

 親の死はこたえたけれど、田舎暮らしの方は性に合った。

 そこそこのレベルの公立高校に進学。

 適当に勉強しつつ祖父の農作業を手伝う。

 つい最近までのボクの生活はそんな感じだった。


 一緒に暮らしていた祖父が亡くなったのは一週間前。

 田舎道をかっ飛ばしていたトラックに轢かれたそうな。

 より正確には、轢かれそうになった女の子を助けて身代わりになったとか。


 トラックは結構大きな会社のものだったらしい。

 なので、ボクが普通に生活して進学しても困らないくらい慰謝料はでるそうな。


「幸か不幸か、遺産を争うような親族はいないからね。ゆっくり考えて進路を決めればいい」


 そう言ってくれたのは、亡き父の知り合いの弁護士さん。

 祖父もたびたび世話になっていて、結構親しいお付き合いをしてきた仲だ。

 もしボクが望むなら、保護者にもなってくれるという。


 もうひとり保護者を買って出てくれたのは、お隣さん。

 元名主の家柄でボクが生まれる前から我が家とはお付き合いがある。

 実は今年から我が家の農地の面倒をみてくれていたりする。

 賃貸扱いなのでそちらの方の収入もある。

 だから、色々な意味でボクは恵まれている方だと思う。


 祖父の死は、両親の死と同じくらいにはショックで、どうしても落ち込みはしてしまう。

 それでも人間は生きていかなくちゃいけないし、将来のことは考えないといけない。

 自分の中でようやく心の整理を始めたそんなとき……。


 祖父が美少女ダークエルフになって帰ってきたのだった。



    ◇    ◇    ◇



 しばしの時が過ぎ……。

 ボクはダークエルフの美少女と一緒に茶の間にいた。


 断っておくが、ボクだってすんなり目の前の美少女が祖父だと信じたわけじゃない。

 誰かにからかわれている可能性だって考えた。

 当然家に上げるのにも躊躇はあった。

 だが……。


「このまま庭先で騒いでいるわけにはいかんだろ?」


 などと言われては反論の余地もない。

 お隣さん(徒歩で一分くらい離れていたりするが)に気付かれるのも面倒だ。

 とりあえず、家に上がってもらうしかなかった。


 まあ、そのときに目の前の美少女ダークエルフの困ったような笑顔が、生前の祖父の表情とダブって見えたことも理由のひとつだけれど。


 靴脱ぎ石でブーツを脱いだダークエルフさん。

 勝手知ったる、という様子で家の中に入ると台所に行って冷蔵庫を開け、コップに麦茶をついだ。

 ついでにボクの分まで入れてくれるという落ち着きっぷりだった。


 で、居間に移動した彼女は次に何をしたかというと……その場で脱衣を始めた!


「なっ! なっ! な……」


 あんぐりと口を開けて呆然とするボクに彼女は艶然と笑いながら言った。


「鎧を脱ぐだけだ。着けたまま正座すると痛いんでな」


 彼女は「二〇〇年ぶりの正座か」などと言いながら、カチャカチャと音をたてて鎧を外す。

 するとそこには……ノースリーブで超ミニスカートの美少女が立っていることになった。

 十分に目の毒だ。


 居間には仏壇があり少し困ったような笑顔の祖父の写真が飾ってある。

 見事な所作で仏壇の前に正座したダークエルフは、その写真に向かって線香を上げて手を合わせた。

 自分が仏さんになって、それを拝むというのはどんな気分なんだろう?

 ……いや、まだ信じ切ったわけじゃないけど。


「さて……なにから聞きたい? なんでも言いたいことを言いなさい」


 仏様を拝み終わった美少女ダークエルフが、脚を崩してボクに向き直るとそう言った。


「そうですね……」


 ボクは天井の方に視線を向けながら言った。


「まず……その……下半身を隠していただけないでしょうか?」


 ダークエルフさんのスカートは現代日本基準でも超ミニにあたる代物だ。

 そんなものをはいて、ボクに向き直るときに脚を崩してあぐらになったものだから……もはや一大事である。

 彼女の足の付け根は、普通の男子高校生には大変な目の毒な状態になっていた。


「おお、すまんすまん」


 座布団に正座しなおしたダークエルフは、ボクにことの次第を語り始めた。


 まず、トラックに轢かれたとき「絶対に死ねない!」と思ったこと。

 ボクの将来を見定めないうちには死ぬわけにはいかない、そう強く念じたそうな。


「すると、どこからともなく声が聞こえてきてな……」


 なんでも、異世界の魔神が強い念を感知してスカウトに来たのだとか。

 その魔神の世界では勇者が大暴れしており、そのせいで魔神の配下である魔王軍は劣勢を強いられていたという。


「で、こちらの条件を飲む代わりに向こうの要求を聞き入れたってわけだ」

「条件って?」

「魔王軍が勝利したら、お前のところに戻れること」


 その条件を満たすために、長寿のダークエルフに転生させられたのだとか。


「女に転生したのは?」

「好みだ、って言ってたな」


 魔神はこういう美少女がお好みか!?


 ……ともあれ、二〇〇年に及ぶ戦いの果てに、彼女は勇者軍を撃破。

 魔王軍を勝利に導き、停戦協定が結ばれた……そうである。


「勇者と魔王って関係で停戦なんてできるの?」

「向こうの神と魔神の都合で、ときおりそういうこともあるらしい」


 お互いに相手の勢力を絶滅までさせるのは都合が悪いんだとか。

 出来レースか!?


「で、約束を果たしたということで、こっちの条件も履行してもらったわけだ」


 なかなかの大冒険だったようである。

 話し終えるまで結構な時間がかかったので、ちびちび飲んでいた麦茶もずいぶん減った。


「でも、よくこっちの世界に戻って来れたね。祖父ちゃんは魔王軍の偉い人なんでしょ?」


 自分より若い……というか、目の前の美少女に「祖父ちゃん」と呼びかけるのに抵抗はある。

 とはいえ、今の空気だとそう呼ぶ他はなかった。


「魔神様の神託があったからな。誰も反対なんぞできなかったぞ」


 神託? 神様からお言葉があったってこと?


「『次世代の魔王の子種を宿す者より、それをもらい受けよ』とな」



    ◇    ◇    ◇



「……えーと?」

「ああ、言ってなかったかもしんねーけど……祖父ちゃんいま魔王だから」


 ただのダークエルフじゃなかった!

 ……じゃなくて!

 なんかもっとヤバイことを言われている気がするぞ?


「そんなわけで、お前の子種を……」


 思わず手にしていた麦茶入りのコップをひっくり返した!


「祖父ちゃん! ボクたち男同士だろ!?」

「もう女として生きてきた時間が三倍にもなるし、慣れた」

「ボクまだ高校生だし!」

「別に今日明日の話じゃねぇんだ。祖父ちゃんダークエルフだからあと一〇〇年でも二〇〇でも待てるし」

「ボクの方の気持ちはどうなるの!?」

「その気になるまで待つから。一〇年でも一〇〇年でも」


 そう言って、彼女はボクににじりよると、身体を投げ出して抱きついてきた!

 結構軽くて……柔らかくて……なんだかいい匂いまでした。


「だって、二〇〇年……二〇〇年かかったんだよ?」


 柔らかな身体をボクに巻き付けながら美少女ダークエルフは言う。


「何度も死ぬかと思った。何人も何人も殺した。国だっていくつも滅んだ。大切な者たちも次々に死んでいった。大切な人に裏切られた。大切な人との約束を何度も裏切った。大事な人を殺した。寒くて震えながら寝た夜もあった。何日も餓えた日々もあった。渇えに耐えかねて泥水をすすった。死体の焼ける嫌な匂いを何度も嗅いだ。何十年も人を憎み続けた。したくもない残虐行為だってやった。死んだ方がましな屈辱も味わった……」


 長い長い凄惨な体験の告白はしばらく続いた。

 そして……。


「それでも、生き抜いて来れたのは……」


 完全に据わった目でボクを見つめて、ダークエルフの魔王さまは宣告した。


「お前にふたたび巡り会うため、なんだから!!」


 ……これはだめだ。

 元よりボクは「家族」というものに弱い。

 それが、こんな話を聞かされたら……反抗なんてできるわけがない。


 それでも、ちょっとした疑問を覚えたボクは腕の中の祖父に訊ねた。


「あの……口調が……」

「あ、ごめんなさい……じゃなくてすまん。なるべく前世みたいにしゃべろうとしたんだが。つい、な……」


 そう言って、少し困ったような笑顔を浮かべる彼女。

 あぁ……。

 参った……。

 ついにボクにはそのダークエルフが祖父にしか思えなくなってしまった。


 こうして……。

 日本のどこにでもあるだろう田舎の、ごく平凡な一軒家の茶の間で。

 ボクの主観では一週間ぶり、祖父にとっては二〇〇年ぶりの再会を果たしたのだった。


―続く―

あとがき


孫:そういえば、麦茶こぼしたままだった。

爺:では、異世界帰りを証明するために魔法で元に戻して見せよう。

孫:え、そんなことできるの!?

爺:できるぞ。「混沌の(略)」えい!

孫:うわぁ、動画の逆再生みたい! すごい!!

爺:このように、過去に起こった出来事をなかったことにする魔法がある。

孫:すごい! 魔法すごい!

爺:なので、異世界には「覆水盆に返らず」ということわざは、ない。

孫:えー!?

爺:その代わり、「覆水盆に返すには魔力消費が多いという……」

孫:祖父ちゃん! 何倒れてるの!? しっかりして! 祖父ちゃん!!

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