〈大災害〉
誤って完成前のものを一時的に公開してしまいました。申し訳ありません。
寝起きの感覚に似ている覚醒だった。目を開けてみると青空が見え、その青空は蒼空と云っても差し支えない綺麗さだった。
ぼーっとしていると再び眠くなってきた。日差しは少し強いが、涼しい風が顔をくすぐるように吹き、地面はベッドと比べると些か硬い感触であったが適度な硬さであり、昼寝をするのには最適な状態であったからだ。フジナミは再び覚醒前の状態、二度寝をすることに決めた。
しかし、頭の片隅で異常を訴えていた。__何故外にいるのかと。
今の今まで〈エルダー・テイル〉の12番目の拡張パック、〈ノウアスフィアの開墾〉の適用を待っていたはずだ。それも暑くも寒くもないように適切な温度に設定したエアコンと高性能なデスクトップ型パソコンが置いてある快適な部屋の中で。付け加えるなら、夜中の12時ごろであったはずであり青空が広がる昼まではなかったはずである。
そこまで考えると、フジナミはもう1度目を開ける。そこには見知った天井ではなく、青空が広がっている。嫌な汗がじわりと噴き出て肌に纏わりつく。もしかすると誘拐されてしまったのか。いや、誘拐なら部屋に閉じ込めるはずだろう。ならば天国か……。などなど頭の中がこんがらがり、何分か掛かった末に出たこととは。
__一旦、起き上がろう。そして周りを確認してみよう。という普段ならばすぐに思いつくであろうことであった。
思い切って起き上がる。フジナミの目の前に現れたのは、緑に閉じ込められたビル群であった。またもや身体が動きを止め、この状況を把握することに努めることになった。
(なんでこんな場所に僕はいるんだ。ビル群が緑に閉じ込められているということは何年、何十年も整備する人がいなかったから? いや、世界でそんな場所などどこにもない。チェルノブイリはこんな都会じゃあないし……)
ここまで考えていると見ている風景がどこか見たことがある気がしてきた。でも、現実世界で目の前に見たことは絶対ない。写真かそれとも画像か__。
「画像…………? あっ!」
それをどこで見たか思い出すとフジナミの顔は大きく変化をする。目は大きく見開き、青ざめる。勢いよく立ち上がると、周りを見渡し呟いた。
「〈エルダー・テイル〉だ……」
自分の服装も〈エルダー・テイル〉でプレイしているキャラクター、フジナミそのままの狩衣の姿であり、右手には笏も持っている。
呼吸が早くなる。心臓が太鼓を叩くが如く音を鳴らす。気持ちが悪くなり胃の中のものを吐き出そうと身体が行動を起こそうとするが、手を口に当て気合で吐き出すのを寸でのところで止めさせる。それでも気分は悪くその場でうずくまる。
数分後何とか動けるまでに体調を回復させたフジナミは自分がいるのが廃ビルの屋上だと気づき、下にいる冒険者たちを見る。
「なんだよ……っ」
「お、俺っ。おかしい、なんだコレっ!?」
「だ、誰か出てこいよっ! 責任者、おいっ! 聞いてるんだろうっ!!」
地面に這いつくばって独り言を叫ぶ人もいれば、転げまわってこの状況への理不尽さを吠える人もいる。逆に地面を見つめただただ俯いたり、顔に手を当ててめそめそと泣いている人もいる。中には隣にいる人に掴みかかり、殴り合いに発展しているところもある。
眼下ではざっと100人程度がそのような無目的で現実を逃避するかのような行動をとっている。彼らの行動はまっとうなものであろう。突然今まで画面を見つめてプレイしていたゲームの中、もしくはそのゲームによく似た世界に放り投げられれば理不尽さを嘆くのは当然の権利だ。
だからこそ周りがそのような状況であるがゆえに目的を持って行動している人は目立つ。白いローブを羽織り、右手には趣向を凝らした杖を持っているその人は空中で何かを動かすように手を動かしていた。
いったい何をしているのだろうか。フジナミは、この状況下で不自然な動きをしている白いローブの彼に興味を持った。しかし何かを確認し終えるとすたすたとどこかへ去ろうとする。
フジナミは彼を追いかけようと急いで廃ビルの階段を使って駆け下りようと階段のある方向へ走る。しかし現実世界ならばあったはずの階段はそこにはなく、踏み出した階段へと踏み出した足はそこにあるはずの床を見失い、下の方へと吸い込まれる。何とか身体が落ちるの防ごうとするが奮闘むなしく直下へと落ちていく。
この高さなら死ぬのは確実であろう。まだ下が草木ならば生き残る可能性はあったが現実は残酷で真下は瓦礫の山となっており、どこに落ちたとしてもその硬いコンクリートがフジナミの身体を受け止めバッドエンドであろう。フジナミは覚悟を決めた。
フジナミが落ちた瞬間砂埃が立ち、辺りを隠す。幸い周りのプレイヤーたちは自分のことで手いっぱいで気づくことはなかった。
「いてててて。あれ!? 何で生きてるん!?」
フジナミは自分の身体がほとんど無傷であることを確認する。落ちた瞬間の痛みはそれほどでもなく、むしろ死んだと思って気絶しそうになったぐらいである。
「どうやらゲームのときのように強靭な身体を持っているみたいだな。ってことは!」
ステータスが開けるはずと思った途端、目の前でゲーム時代と同じフジナミのステータスが開く。メイン職業〈神祇官〉、サブ職業〈星詠み〉のレベル90。それがフジナミのステータスである。
アイテム欄を開いてアイテムを確認する。どこにも前回見たときと比べて過不足がなく満足をする。
(先程の彼はステータスを確認していたんだな)
フジナミは彼の手の動きがステータスを確認するものであったことにたどり着く。そしてふとある欄が目に付く。
「…………ログアウト」
ログアウトをしようとするが押しても赤いバッテンが表示され、ログアウトができないことが証明されていた。ため息を大きくついて次の、GMコールをしようとその欄を触れる。ここも押しても弾かれてコールができない。
しかし1つだけ朗報があった。念話機能を立ち上げることができたのだ。すぐさまフレンドリストからある人物を選んで呼び出す。呼び出しの鈴の音が遅く感じられる。つながると同時に相手へ呼びかけていた。
「カグチさん!」
『およ? なんか俺を呼ぶ声が聞こえたような。はっ、まさか運命の人が俺を呼んでいるのか!』
「何言ってるんですか! 僕ですよ僕! フジナミですよ! 念話機能で話してるんです!」
『なんだお前か。お前今どこにいるんだ? ちょっとこの状況について教えろよ』
「僕にもわかりませんよ。〈エルダー・テイル〉をプレイしてたと思ったらいきなりこんな状況ですよ。僕にも何が何だか」
『ふうん。あっそ。じゃあギルドホールに来いよ。ここがゲームの世界だったならあそこもあるはずだし、集まるには最適だろ』
「集まるってなんですか!」
『ギルドメンバーを集めるに決まってんだろ〈禰宜・巫女さん連合〉の連中を。んじゃ』
「ああ、なるほど。ってまだ切らないでくださいよ! 絶対に!」
『にっひっひっひ。そういわれると切りたくなるってのが人の性っていうもんだよ』
そういって念話を切られてしまった。しかしこの世界に入り込んで以降初めて知り合いと会話をした。ただそれだけでフジナミは安心をした。
カグチとは現実世界で知り合った神職である。出会った当初は丁寧な言葉遣いをしていたが、慣れるにつれて段々と今のような砕けた言い方になっていったダメダメな神職だ。しかし〈エルダー・テイル〉では現実世界でいう日本列島である弧状列島ヤマトを共に駆け回った仲である。この世界においては1、2を争うほどの親しいプレイヤーである。
そのカグチともう1人のプレイヤーで作った〈禰宜・巫女さん連合〉というギルドがある。最初期から今にかけて常に雑談が多く、神社好きであるメンバーが一定数揃ったときのみ何かしらをやるという緩くそこまで大きくも小さくもないギルドである。メンバーは36名で、現実世界で神職になっているプレイヤーと一般のプレイヤーが半々で所属する。
「はぁ、わかりましたよ。行けばいいんでしょ」
とぼとぼとだがしかし、親しい仲間が集まれといったギルド会館の方へしっかりと大地を踏みしめて歩いていくフジナミであった。 その顔は先程の顔とは違い柔らかくなっていた。
初めまして、安藤図書頭です。『ログ・ホライズン』やその二次創作を見て書こうと思いまして投稿させていただきました。まだまだ未熟者で修正が多くなりますがよろしく願います。ぜひ、ご指摘等がありましたらズバズバとおねがいします。
5月17日、19日 諸々をストーリーに関わらない程度に修正。