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恐怖確率未定  作者: 夢春
弐ノ部
13/19

第13話 見えるもの

 ある休日の午後、私は久しぶりに友人のSとドライブに出かけた。

「おっ、あの海岸って学生の頃よく遊びに行った場所じゃん!」

 Sが窓の外を見ながらはしゃいでいた。

なつかしいな。おい、ちょっと寄ってこうぜ!」

 Sは昔から言い出したら後に引かない。私は仕方なく、その海岸へと車を走らせた。


「おいおい、誰もいねーじゃんか。何だよ、せっかく水着姿のねーちゃん達が見られると思ったのによ~」

 海岸に到着し、車を降りたSの第一声がそれだった。やはり目的はそれか・・・。私は呆れて溜息を吐いた。そして、嘆くSを尻目に辺りを見渡してみる。確かにSの言うとおり、ここには私達以外に誰もいないようだ。

 眼前に広がる海は荒々しく波音を立て、その存在を主張している。空には薄暗い雲が広がり、今にもしずくが降りて来そうな雰囲気だ。

 私は妙な肌寒さを覚え、そろそろ車に戻ろうとSに声をかけた。しかし、なぜかSは無反応だ。

 私はSを見た。すると、彼の視線はここから少し離れた場所にある防波堤ぼうはていへと釘付けになっていた。しかし、防波堤は無人のうえ、気になるものも特にない。


「おい、さっきから何を見てるんだ?」

 私が尋ねると、Sはゆっくりと防波堤の先端を指差した。しかし、そこに目を引くようなものはない。もう一度、Sを見た。

 すると、突然Sはふらふらと歩き出した。それはまるで、何かに取りかれたかのような動きだ。Sは、服が濡れるのもお構いなしに、そのまま海へと入って行く。その進行方向には、彼を誘うかのように、ピンクのハンカチが浮かんでいる。


「おいS!戻って来い!!」

 私の声が聞こえないのか、どんどんそのハンカチへと近づいて行くS。そして、彼がハンカチを手に取った瞬間、その姿は忽然こつぜんとどこかへ消え去った。後には何事もなかったかのように、海は静かに波打っていた。

 私は怖くなり、その場を逃げ出した。


* * *

 あれから数年が経った。Sは今現在も行方不明のままである。

 今日私は再び、あの海岸へとやって来た。辺りにはあの時と同様で他に人はいない。私はSが消え去った海を見据える。

 もしあの時、私が意地でもSを止めていれば、逃げ出したりしなければ、彼は助かったかもしれない。それなのに私は――。

 すると突然、首筋に冷たいものが落ちてきた。何かと思い見上げると、それは空に広がる薄暗い雲からいくつもいくつも降って来た。その様子はまるで、私に助けを求めてSが泣いてるようだった。

 私は何気なく、あの日のSがそうしていたように防波堤を見た。先端に、女の子が立っていた。赤い服を着た女の子だ。

 女の子は何かを叫んでいる。私はその声に耳を傾けた。


『ワタシノ、ハンカチ取ッテ』

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