第11話 留守番
ある大雨の日のこと。
留守番を任されたB君は、自室でスマホを弄っていた。すると突然、家の固定電話が鳴った。しばらく無視をしていたが、電話は一向に切れる様子がなかった。
B君は面倒くさそうにしながらも、固定電話の置かれている玄関へと向かった。
「はい、もしもし?」
B君は受話器の向こうに呼びかけた。しかし、返事はない。
「もしも~し」
再度呼びかけてみるも、返事は返って来なかった。
イタズラ電話だと思い、B君は受話器を戻した。そして、自室へ戻ろうと受話器に背を向けたその時。再び電話が鳴った。
「はい、もしもし」
しかし、またしても返事はなかった。溜息を吐き、受話器を戻そうとした。すると微かだが、電話の向こうから何か聞こえて来た。
『ズル ズル ズル ズル』
耳を澄まして聞いていると、それは何かを引きずるような音だった。聞いている内に、それはだんだんと大きくなっていく。
『ズル ズル ズル』
そして、電話は唐突に切れた。
B君は気味が悪くなり、自室へと戻ろうとした。しかし、途中で足を止める。
雨の音に混じり、家の外から奇妙な音が聞こえて来たからだ。その音は、電話から聞こえて来た音とよく似ていた。
ズル ズル ズル
それはだんだん玄関へと近づいて来る。
音は玄関のすぐそこまで来ていた。
B君は反射的に玄関の鍵を閉めた。その瞬間。
玄関のドアが激しく揺れた。それは一度のみならず何度も何度も繰り返される。その度にドアは耳障りな騒音を辺りに撒き散らす。
B君は腰を抜かしながらも、玄関から離れ、急いで家中の戸締りをする。
次第に玄関の揺れは弱まっていき、そして完全におさまった。B君が安心したのも束の間。
またしても、電話が鳴った。
電話は鳴り続ける。まるでB君が出るのを待ち望むかのように、電話の音は、永遠と響き続けた。