ススム、新たな出会いを得る
全改稿(2014/10/18)
湖の竜が脱皮を始めて数時間――。
最後となった尻尾をずるりと抜いた主は、湖水で身体を流した後、のっしのっしと歩いて去っていった。
去り際にこちらを一瞥したのは、礼なのか邪魔者扱いをされたのかよく分からない。
帰りに翼を使わなかったのは、しっとりとした翼膜がまだ完全に乾いていないせいだと思われる。
そのまま、竜族領の森の奥深くへと消えていったので、人間に追撃される心配はなさそうだった。
そうして、竜のいなくなった湖畔をみると、そこには確かに脱皮した形跡が残されていた。
見事な抜け殻である。
規模は、蛇の抜け殻の竜版――と言っても伝わりにくいだろうが、これを見た俺は、某漫画の人造人間を思い出してしまった。
実際は、殻というより抜け鱗と呼んだ方が適切かもしれないが……魚の鱗を集めて接着剤で模型を作ったようなイメージだろうか。
ともあれ、これはこれで素材としての価値は高そうだった。
何せ、五メートル級の竜まるまる一体分の竜鱗である。
最も素材消費の多そうな鎧に加工したとて、どれだけの数が仕立てられることやら。
その重厚さに反して、実際の重量はそれほどでもないのは、触ってみて初めて分かったことだ。
まぁ、鱗が重かったら、飛ぶのにもそれだけ苦労するだろうし当然なのかもしれないが……。
「いやぁ、しかし、こうして間近で見ると立派なもんだ……」
正直な感想が、口から零れてしまった。
それを耳にしたドラ子が、
「気に入ったのなら、ススムが持っていってもいいぞ」
「へ?」
思わぬことを言ってきたので、俺は、間の抜けた返事をしつつ、改めてそれをしげしげと眺めた。
抜け殻は、寝そべった形で脱ぎ捨てられているので、博物館の恐竜のような襲いかかってくる印象は薄いのだが……まるで金属で作られた全身竜の模型は、さながらに芸術的な出来栄えまでも感じさせる。
触れてみても質感は全く損なわれておらず――それでは防具として成り立たないわけだが――これを並べて展示しておくだけでも、閲覧料が取れそうだった。
まぁ、それが加工される竜鱗と比べてどっちが儲かるのかは分からないが。
「いや……持っていくにもちょっと大きすぎるな。記念に鱗一枚くらいなら貰ってってもいいかなーとは……」
「ここに残してもずっとそのままになるだけ」
「あ、やっぱりそうなんだ……」
ドラ子が言うには、やはり竜鱗は風化して消えるようなものではないらしく、放っておけばずっと残ってしまうようだ。
確かに、集落に落ちていた鱗や爪なども、水晶や鉱石などと混ざって違和感はなかったのだが、どれもが磨耗や損傷しているような様子ではなかったのを思い出す。
もしかして、集落で脱皮をしないのは、抜け殻が里にゴロゴロと転がるのが嫌なのではないか――なんて考えもが頭を過ぎった。
「いずれ、竜族領に侵入した人間が気付いて持っていく」
言われて周囲を見ると、風化しないはずの竜鱗の類が湖畔に一切見当たらないことに気が付いた。
上手いこと掃除屋としても機能をしているのかもしれないが、
「なるほど……あんまり友好的と言えない相手に持っていかれるのも……」
竜族にとっては、複雑な思いがあるのかもしれない。
もしそれが、同胞を攻撃するための武具に仕立て上げられるのだとしたら猶更だろう。
「そういうことなら、俺が貰っていってもいいのかもしれないが……」
「ドラ子もその方が嬉しいし、皆も喜ぶ」
俺は、ドラ子の言葉でふと思いついたことがあった。
「ちょっと、こいつを利用させて貰うとするか」
悪い笑いを浮かべる俺に、ドラ子は意味が分からないのか、斜めに俺を見上げていた。
●
時刻は、深夜――。
二つの月――赤と青の二つの正円が夜空を照らし、湖面を神秘的な光で彩っている。
月光を浴びているのは、湖だけではなく、そこにある抜き出た存在感を伴った大きな影もが不思議な色を帯びて輝いていた。
――竜の抜け殻だ。
その周り、それよりもさらに小さな影がせわしなく動き回っている。
その影は、抜け殻の傍にふたつ。
黙々と作業をするそのふたつの影は、抜け殻に縄のようなものを巻いて固定したり、或いは切り分けて大袋の中に収めようとしているようだった。
見事な手際である。
そのまま放っておけば、やがて抜け殻は跡形もなく、その場から消えることになるだろう。
だから、俺は茂みの中から進み出た。
「やぁ、いい夜だな」
言葉が通じるのか分からないが、俺は気さくに声を掛けてみた。
ふたつの影に動揺が走る。
月光に照らし出されたのは、男の姿だった。
「なっ……!」
「……て、テメェ、どこに潜んでやがった……!」
どうやら言葉は通じるらしい。
見ると、どちらも三〇を過ぎるかといったくらいの風貌だった。
ぼさぼさの髪に、無精ひげを濃く生やした顔は、人相を悪くさせると同時に素顔をぼやけさせている。
腰には曲刀――シミターと呼ばれる刀剣だろうか――が、各々一本ずつ下げており、今まさにそれを抜かんとするばかりだ。
「まぁ、落ち着けって。綺麗な月夜が台無しだろう」
俺は、両手を軽く出して、ふたりを宥めた。
竜族領に踏み込んでくるくらいだから、どれほどの人間かと思ったのだが、このふたりからは大した気配は感じなかったせいだ。
……それゆえに、竜本体ではなく、抜け殻の方を狙ったのかもしれない。
そんなこちらの行動に、てっきり激昂するのかと思いきや、
「……は? なんだ、子どもじゃねぇか」
「あん? …………って、本当にガキだな……」
この態度には、俺も少々憮然としてしまうのも已む無しだ。
手荒なことは好きではないが、話は早い方がいいだろう。
俺はゆっくりと、握り締めた右拳を男たちに向ける。
「?」
男たちが充分に注視した頃を見計い、それを右手側に向かって内から外へ“思い切り”振り抜いた。
叩かれた空気の壁が、湖まで突き抜ける。
スガァン! と轟音を上げて、水柱が斜めに立ち上がった。
「………………」
男たちは、ゼンマイ人形のような動作でそれを見たあと、ゆっくり、ゆっくりとこちらに向き直った。
適当な間を空けて、俺が告げる。
「……誰がガキだって?」
「そ、そんな、滅相もない……お坊ちゃま!」
「あんま変わらねぇだろ!」
げしっ! と、勢い余って、ひとりを吹き飛ばしてしまった。
茂みを突き抜けて転がっていく仲間を尻目に、もうひとりが「ひぃ!」と悲鳴を上げて駆け出した。
「ドラ子ー」
俺が、声を上げると遠くの方から「ススムー」という反応が返ってくる。
別に名前を呼び合っているつもりはないのだが、彼女はしっかり役目を果たしてくれたようだ。
ばさばさと空を飛んで現れた彼女の両手には、先ほど逃げたシミターのおっさんがしっかりと握り締め――というか、ぶら下がっていた。
ぱっと見る限りでは、宙吊りで首が絞まっているようにも捉えられるそれは、既にぐったりと力を失っていた。
俺は、慌ててドラ子と地面へと誘導した。
とりあえず、捕縛した――そこまでするつもりはなかったのだが――男たちから、色々と話を聞くことにした。
面倒は御免なので、それによる男たちに対する報酬は、身柄の無事はもちろん、既に権利は俺にあると思っている抜け殻を指差した。
すると、男たちの口はこちらが思っていたよりも饒舌になったようだ。
自分たちは、リベア内海の北岸にある街から船でやってきたということ。
竜の領地にある湖で、素材狩りをしにきたということ。
そして、自分たちは、大陸ギルド――と呼ばれる組織に所属するハンターだということ。
ギルド……商工会か互助会のようなもの――それの大陸規模のものだろう――と判断し、自分の意識は船と北岸にあるという街に向いた。
つまり、男たちに同行すれば、人間の街に行くことができる、と。
「という訳で、俺は、人間の街に行きたいんだが……どうだろうか?」
「どうだろうか……と、言われやしても……」
俺の提案に、男たちは言葉を濁している。
しかし、このおっさんコンビ、どう見てもハンターというよりは山賊である。
不精によって個性が消えている為、見た目の区別も付きにくい。
まぁ、竜族領で遭遇した得たいの知れない子ども――自分で言うのはいい――が、いきなり同行を申し出たとして快諾する者なんて稀だろうか。
「別に断ったからって文句は言わないが……」
「いや、文句言わないと言いつつ、拳をぎりぎりと握られてもまるで説得力がないっすよ!」
まぁ、俺としてもこの絶好の機会を逃す手はないので、手段は惜しんでいられない。
「……そうだな。この抜け殻にはどうも鱗しかないようだが?」
「へ? そりゃまぁ、抜け殻っすから……」
「爪――とかもあると、もっと助かるんじゃないのか?」
ぴくん――と男たちの眉が釣り上がったのを、俺は見逃さなかった。
しかし、それも一瞬の出来事で、
「でも、了承したら――『ははは……それは、お前たちの爪だぁ!!』――なんていうオチが付くんすよね?」
「どこの悪魔だ、俺は!」
思わず、地盤を踏み抜いてしまった。
ほら、やっぱり!――なんて悲鳴は聞こえなかったことにして、
「いや、まぁ、確実とは言えないが……竜族に頼んで貰ってきてやるよ」
集落に落ちてるのは好きに持っていっていいって言ってたし……たぶん大丈夫だよな?
「それって……もしかして、あそこにいる彼女の……とか?」
男が指差す方向を見ると、そこには首を傾げる彼女の姿があった。
「……うん? ドラ子に何か用?」
眠いのか、彼女は「くあぁ」と欠伸をしながらうつらうつらとしている。
「……お前らを竜のど真ん中に置き去りにして、船を拝借してもいいんだぞ?」
「じょ、じょじょじょ、冗談ですってば! 本当に! 本気で!!」
拳をバキバキと鳴らすと、男は腰を地に降ろしたまま後ずさりをしていった。
詳しい理由は分からないが、一応は竜族領に出入りしているせいなのか、男たちはドラ子が竜族だと認識できているらしい。
「そ、率直に、自分らはその……同行というか、雑用的な立場なもんでして……決定権がないんすよ」
「……雑用?」
「へ、へぇ。カイ――旦那は、その……船の方に居やして……俺らは、独断で出てきたといいやすか……」
「なるほど、上手い手だな。そうやって、船にもっと上の人間がいると思わせておけば、俺が船を強奪できないと?」
「ほ、本当っすよ――!!」
しどろもどろになる男たちを睨みつけるが、反応は変わらない。
どうやら嘘を吐いている様子はない。
となると、やはり、本当にリーダー的な者がいるのだろうか。
確かに、拾い物集め程度とはいえ、竜族領を訪れるのにこのふたりだけでは些か心許ないような気もする。
功を焦って先走ったとか、そういう類なんだろうか。
「よし、分かった。俺をそいつのところに連れていけ」
「えぇぇぇ!?」
全力で突っぱねるような回答に、俺が不満を露にしたその時――
「その必要はないさ」
「!」
何時の間にか現れた男が、こちらとふたり男たちとの間に割り入った。
その手は、腰にある剣の柄へと伸びているが、触れているだけで抜く様子はない。
威嚇の為か――と、思って新たに現れた男の背後を見やると、ふたりを捕縛していた縄――抜け殻に使われていたものだ――は既に切られた後だった。
「いつ抜いた……?」
男は、油断なく柄に手を掛けた姿勢を維持しているが、先の抜刀ですら見えていない俺に、次の抜刀が見えるかというと……確実なことは言えない。
先の男たちに対し、今、対峙する相手の技量は桁違いだ。
「納めた、の間違いかな。剣自体は割り込む前から抜いていた」
「なるほど……ね」
揚げ足を取られたような気分だが、どちらにしても縄を切って納剣した動作が見えていない以上は大差ないだろう。
後ろにいるドラ子が心配だが、この男から目線を外すのはもっと危険だった。
「そんなに心配をしなくてもいいさ。夜遊びは感心しないが、守りこそすれ、子どもを手に掛けるつもりなんて全くない」
「その言葉が本当なら、いい加減、柄から手を離したらどうだ?」
「うん……? あぁ、失礼」
言うと、男は柄から手を離し、両腕を真っ直ぐに下げた。
そこで初めて気が付いたのだが、男の剣は両腰に一対――つまり、二本下げられていた。
二剣使いか――!
「ははっ……これじゃ、警戒されて当然だったか……すまない。何せ、いつ襲われるか分からない、亜人領の只中だからな」
亜人領……?
そういえば、ドラ子が、内海を挟んで南側には竜族や精霊族以外にも多くの種族が暮らしていると言っていたか。
「………………」
しばらくの間、男を睨みつける。
少なくとも、男の言葉に嘘はないようだ。
こちらに対する敵意が微塵も感じられない。
だからといって安心できるものではないが……。
「おかしいな……さっきはもっと気安い空気だったのに、ここまで警戒されるなんて……」
「そりゃ……するだろう」
ここまで実力が見えない相手が敵か味方か分からないのだというのだ。
むしろ、勝ち負け度外視できっちりケリを着けてしまった方がすっきりするか?
負けたら相手の方が強いでいいし、勝てば安心もできる。
割と名案な気がしてきた。
「ちょっと待った! そんなにやる気を出されても困るって……こっちは本当に子どもに手を出すつもりはないんだ」
地に擦りながら右足を少し下げただけで、相手はすぐに察知したようだった。
「……本当に油断ならないヤツだな」
「ははは……よく言われるよ。まぁ、いきなりだったし、まだお互い挨拶もしてないから仕様がないのか……」
そこで、今更何かに気付いたかのように、男が咳払いをする。
「俺の名前は、カインだ。大陸ギルド所属のドラゴンハンターをやっている」
……ドラゴンハンター?
なるほど……おそらくだが、その大陸ギルドっていうのは、それぞれが何かの担当になっているのか。
適当に目星を付ける。
「ススムだ。訳ありで、竜族の世話になってる」
正直、名前以外紹介でもなんでもない内容なのだが、長い金髪のカインと名乗る男は、この場でそれ以上の疑問は持たないようだった。
「へぇ。それで、君のような子が、亜人領に――ね。事情は分からないが、君がドラゴン……竜族の方がいいのか? ――の肩を持ってるのは分かった」
「まるで様子を伺ってたみたいな口ぶりだな……」
「あぁ、しばらく様子を見ていたんだ。ふたりをどうするのかな、と」
「「ちょっ――!」」
それに反応したのは、予想外なことにふたりの男の方だった。
「といっても、途中からだけど。捕縛した上にさらに危害を加える様子もなかったし、話を聞いていたら人間の街に行きたいやら、俺に会いたいやらって聞こえてきたもんで……」
「見計らって、茂みから出てきた――と?」
「まぁ、そんな感じか」
カインは軽快に笑った。
「幸い、君とこっちの利害も一致しているみたいだ。問題はないだろう?」
「一致……してるのか?」
「してるさ。君は街に行きたい、俺たちは、そいつが欲しい――で、君は竜爪まで入手できるんだろ?」
「あぁ、確証は持てないが……おそらく大丈夫だ」
「加えて、俺としても、君を保護したいって思いもある。ほら、一致してるだろう?」
「いや…………なんか、胡散臭い……」
「ひどい言い草だな……」
苦笑を浮かべるカインを、俺はじと目で見やる。
「まぁ……街に行けるなら、願ったり叶ったりか。この際、細かい文句を言うのはやめるか」
「……そういうのは、本人の居ないところで言うべきでは」
などと言いつつ、カインから差し出された片手を、俺はぎっちり握り返した。
一応は、これで交渉成立といったところか。
「まぁ、詳しい話はあとで――そうだな、移動しながらでも聞かせて貰うとしようか」
「俺も聞きたいことは山ほどある」
そうして、カインたちが船に竜の抜け殻を引き上げる間に、俺は竜族の集落へと戻り、長からの承諾を得て彼らの合流した。
ちなみにドラ子はというと、どうやら俺たちが話し合っている最中、岩の上でずっと寝ていたようだった。
残念ながら、彼女とはここで一旦お別れだ。
寂しく思わないわけではないが、竜族と人間との関係を取り持つまでの、ちょっとした時間だと、俺は自分を元気付けた。
●
「へぇ……やっぱり、ススムは異世界からきたのか」
俺にそう言うのは、向かいに座るカインだ。
今、俺たち一行は、内海の北岸にあるという街を目指して船で移動している。
居るのは、その船室だ。
「やっぱり……ってことは、気付いてたのか?」
「まぁ、薄々……だな。ススムのような子――少年が、亜人領にひとりで居る理由なんてそんなに思い当たるもんじゃない」
このカインや竜族の言から察するに、やはりこの世界では異世界という存在が、世間一般的に受け入れられているようだ。
「戻る……手段は知らないよな? さすがに」
「まぁ、そこまではちょっと――な」
苦笑いを浮かべるカイン。
行ったこともない世界に行く方法を尋ねられても困るだろう。
こうして改めて見ると、カインはハンターとは思えないほど、立ち振る舞いや容姿に気品が溢れている。
歳の頃は、二〇半ば――といったところか、身に着けた双剣も軽鎧も、それなり以上の業物なのが見て取れる。
……付き添いのふたりがあんな感じ――山賊スタイルだから、余計にカインが引き立ってしまうのかもしれないが。
「でも、まぁ、それで聖神に会おうっていうのはちょっと無茶がある……が、どうした?」
「なんでもない」
俺がカインを観察していたことを気付かれてしまったようだ。
「そんなに珍しいものでもないと思うが……って、あぁ。ススムは、俺たちがこの世界で初めて会う人間になるのか」
「正確には、あっちのふたり――だけどな」
俺が机に肘を突いたまま指差したのは、船室の外だ。
つまり、船の操舵を行っているカインの付き添いコンビ。
「それは災難……なんていうと、ふたりに申し訳ないか。あれでちゃんとしてる時は、頼りになるんだけどな」
「そうか……?」
さすがに、その意見には俺も同意できない。
まぁ、付き合いの長い人間にとっては、また違った一面が見えるのかもしれないが。
現に、カインがこうして船室で寛いでいる中、苦言のひとつも漏らさずに船の切り盛りをする姿は、その現れなのかもしれない。
「昨夜も言ったが……ススムは、ギルドに入るつもりはないのか?」
「あー、そういや保留してたっけか」
「どれくらいの滞在になるのか、目処も立ってないんだろう? ススムくらいの腕があれば、入って損はないと思うが……」
湖でのやり取りを見ていたのか、それともカインの直感によるものか、その程度の評価は受けているらしい。
「ありがたい申し出なんだろうが……あんまり組織に縛られるのって俺向きじゃない気がするしな」
「俺たちがそんなに縛られているように見えるか? ――といっても、異世界まで旅にきてしまうようなススムには、それでも堅苦しいのかもしれないな」
「好きで来たんじゃねぇよ……」
「ははは」
一晩が明けたせいか、カインとの仲もそれなりには打ち解けていた。
「それと……ススムがドラ――竜族に頼まれてる件だが」
「あぁ」
夕べ、カインに少しだけ話したのは、俺のもうひとつの目的についてだ。
彼は、俺が竜族と友好的――つまり、そこに相互の協力関係があると推察し、それについて尋ねてきたのだ。
その続きの話だろう。
「正直なところ……人は、人じゃないもの――特に大きな力を持つ存在を無意識に恐れている」
カインの言わんとすることは俺にも分かる。
「ドワーフやエルフ、獣人族ならまだしも、精霊族や魔族、竜族辺りは神の使途にも迫ると言われているからな。思うようにはいかないぞ?」
「分かってるよ。……でも、どっちにしたって神ってのには会わなきゃいけないんだし、話してみるだけ損にはならないだろ?」
「まぁ、それはそうかもしれないが……いや……」
カインは、そうなった時、変な反感を買わないかを気に掛けているのだろう。
「まぁ、いい。やるだけやってみればいいさ。そこに至るまでの協力は惜しまない」
「……助かる」
俺は、船窓を見た。
そこには、大海の何ら変わりのない青一色の景色が広がっている。
この船は、やがて俺たちを港のある大きな街へと運ぶのだろう。
そこから何が待ち受けているのか分からないし、カインの言うように苦難の道を歩むことになるのかもしれない。
だが、そんなものは楽しんだもの勝ちだ。
こうして、カインを加えた俺の新たな冒険が始まった。
そういえば、結構学校休んでるけど大丈夫かな……というの別の不安はあったりもする。