ススム、湖畔でデート……ではない
全改稿(2014/10/18)
さぁ、皆で考えよう。
問い一、もし、目が覚めた時、目の前におっぱいがあったらどうしますか?
A.眺める
B.つつく
C.もむ
D.だからお前は、ロリなのだぁ!(cv秋○)と自分を戒める
正解は、貴方の心の中にあります。
「おーい、ドラ子。起きろー」
「ふぬ……?」
俺は、覆いかぶさっていたドラ子をペシペシと叩いて起こした。
ちなみに、ここは竜族の集落ではなく、領地の外れにある湖畔である。
位置的には内海を中心から見て西南らしい、人間領にも比較的近い場所だとか。
何故、こんなところにいるのかというと、竜族の長の“本当の頼み”のひとつだからである。
竜族と人間が、あまり友好的な関係にはないらしいとは既に聞いての通りだが、何でもそれ以上に単純明快な問題もあるようで……。
どうも、人間の生産する武具や道具にとって、竜族の身体というのは格好の素材の的らしい。
例えば、強靭な角や牙、そして爪は強力な武器を作れるし、鋼よりも硬く丈夫な鱗は頑丈な盾や鎧を作れる――と、そういうことだ。
RPGや某狩猟ゲームに違わない、お約束である。
かく言う俺も、ゲームにおいてはせっせとハントしたし、竜に対してそれを申し訳ない――なんて感じたことはない。
装備を作る為に狩るのが当たり前だと思っていたからだ。
つまり、竜族と接点の少ない人間というのは、ゲームとの差異はあれど同じ考えを持っているのではないかと、俺は推測している。
現に、今の俺には竜族に対してそんな悪意のある感情は微塵もないし、この世界の人間たちも竜族のことを知ればそれが分かってくれるのではと思っているのだ。
今日は、その第一歩を踏む為に、こうして竜族の湖畔にやって来ている。
説明は分かるが、湖畔やって来た理由に繋がっていないとお思いのことだろう。
これに関しては、説明を受けた俺もちんぷんかんぷん――とまではいかないが、ふーん、そういうことなのか――程度にしか理解していない。
順を追って説明していくと、まず、いくら竜素材――失礼ながら説明の為にそう言わせて貰う――が貴重とはいえ、普通の人間に手出しを許すほど竜族も甘くはないらしい。
集団的自衛権ってのもあるくらいだし、それは当然だろう。
というか、一介の人間では、幼竜ですら勝負にならないほどの力の差があるというのである。
つまり、この世界の人間も、俺が居た世界の人間も、基準的な能力はそう変わらないのだろうと判断していいだろう。
もっとも、それは俺の暮らしていた平穏な都会ではなく、もっと高地や山地、平原での生活を基礎とした人間と比較した場合の話なのかもしれないが……馬鹿にしている訳ではなく、それは、この世界の文明に触れてみるまで何とも言えない。
ともあれ、そういった理由で、竜族を狙う人間というのはごく一部の存在に限られているらしい。
有り体に言えば、腕に自信のある連中ということだ。
そういった理由も相俟って、潤沢に流通しない竜素材というのは余計に希少価値が付いてしまうらしい。
ちなみに、人間の強さといってもピンからキリまであるようで、一番下まで見れば戦いをまるで知らないような者もいるし、上を見れば人間を守護するというかの神直属の尖兵までいるようだ。
まぁ、そういった人間が攻めてくることはまずない――というより起こったら最もマズいらしい。
何せ、神とやらと間接的に相対する形になるわけだしな。
話が反れたが、要は腕に自信のある人間が、金や地位を目的に竜族を狙う。
そして、その竜族が力を失う時こそが、最も狙われ易いのだという。
その力を失う時と場所というのが、ここ竜族の湖畔なのだ。
何故、この場で竜族が力を失うのか――は、俺も口頭でしか聞いていないので、これからこの眼で確認できるだろうと思われる。
ちょうど、湖畔を見ると一匹……いや、ひとりか?
とにかく、竜が水に浸かっている姿が見えるのだが、それが今回の護衛対象という訳だ。
この竜、何でも“脱皮”の為にここに来ているらしい。
竜の脱皮というのは、生涯に渡って繰り返し行われ、身体を覆う鱗を大きく、そして強くしていくらしい。
聞いた話では、だいたい一〇年周期くらいで脱皮を行い、最初の脱皮を終えて幼竜を卒業する。
そして、二度目の脱皮で成竜――つまり、一人前と認められるわけだ。
ここまで二〇年と考えれば、ちょうど人間と同じ頃合いである。
だいたいこの辺りで身体の成長は緩やかなものとなり、以降の脱皮は、余程のこと――例えば鱗の大きな破損など――がない限り遅れていくんだとか何とか。
あの金竜クラスの竜になると、既に一〇〇年周期くらいになっていると。
そして、問題はその脱皮の直後だ。
脱皮という行為には、相当に体力を消費するらしく、竜とはいえ満足に戦えるような状態ではないらしい。
また、鱗も完全には乾いておらず、強度もかなり下がっている。
加えて、生まれたて卵肌のような鱗は、付加価値も見出されているとのことで、まさに狙い目なのだ。
逆に、こういうレアなケースでもなければ、竜族を直接攻撃できるような人間なんてほんの一握りだそうだ。
黒歴史に指定したいくらいだが、幼竜でもあの強さだからな。
よって、普段は領地の浅いところに侵入してきた人間も、爪や鱗など、竜が自然と落としたものを戦利品として持ち帰っていくだけなんだと。
もちろん、これでも充分以上な価値があるようで、人間に出回っている武具の大半の出自はこれだ。
竜族も、その辺りは寛容で、よほど深いエリアに侵入しない限りは黙認している。
むしろ、それを取り締まることで変に被害が増えることを避けているというのだから賢明だと思う。
ばったり出くわした時は、その竜の些事加減次第というので命の保証はないそうだが……。
とまぁ、こんな感じで入れ知恵によるススム先生の講釈は終わり。
退屈もいくらか潰せたところで、同じように退屈そうにしている隣人――ドラ子に、俺は目を向けた。
彼女が指で弄っているのは、贈った学年章だった。
よっぽど気に入ってくれたらしい。
「それ、好きなのか?」
「うむ、宝物だ」
嬉しいことを言ってくれる。
頭を撫でてやろうか――と思ったが、それはちょっと失礼だろうか。
視線を外して前に向けると、大きな湖が広がっている。
周囲が浜になっているので、泳ぐこともできそうだ。
「ここで竜族が脱皮してるんだよな?」
「そうだ。ドラ子は経験ないが、いずれ来ると思う」
「経験がない……あぁ、そうか。ドラ子も幼竜だったな」
「うむ」
ドラ子本人から聞いたわけではないが、彼女もまだ幼竜だという話は長から聞いている。
鈍色の竜は金竜の末っ子らしいので、彼女の方が姉だ。
「というか……竜族の女も脱皮するのか?」
ドラ子の身体を見るが、鱗――と呼べるような場所はほとんどない気がする。
「もちろんする。こことか――」
ドラ子が差したのは、翼と尻尾、そして手首や足首に少しだけ生えている鱗だった。
やはり、人間と同じような肌をした部分が剥けたりはしないらしい。
逆に、それだとこうして陽光に当たっていたら日焼けをしてしまうのではなかろうか。
「へぇ……。あと、聞いていいのか知らないが……何で、脱皮するのにここに来る必要があるんだ?」
これについての説明は受けていないので、彼女に尋ねることにした。
ただ、脱皮を経験していないドラ子が知っているのかどうかは怪しいが。
「長老の話では、湖底に地脈が流れているらしい」
「地脈か……」
地脈……確か、風水でいうところの地中を流れるエネルギーとかその放出ポイント――ような覚えがある。
言い換えると、竜脈とも呼ばれてたり、身近なところではパワースポット辺りが典型的か。
「日当たりが良いと鱗が綺麗に乾燥して、脱皮直後の生まれたての鱗に純度の高い湖水がぴったりで、流れる地脈によって得られる効果は倍率どん! ……てな捉え方でいいのか?」
「難しいことを言うな……。倍率どん――はよく分からないが、大体はそんな感じで合ってる、と思う」
昔、イグアナを飼ってた時に得た知識なのだが、これは言わない方がいいだろう。
「あの、気を悪くしないで聞いて欲しいんだが……子どもを産んだりする時も、この湖でするのか?」
もちろん、それを干渉したいとかそういう不埒な想いは欠片たりともない。
「産卵は、集落で行う。だが、ドラ子にはまだ先の話だ」
「そ、そうか」
やっぱり産卵なのか……。
長の言っていた妙な台詞が脳裏に蘇る。
人間と交配して、それで卵が生まれるって……父親は一体どんな気分なんだろうか。
あなた、生まれましたよ――とか言って、まん丸のツヤツヤ卵を渡されても実感が薄い気がする。
なんか気まずくなりそうなので、話題を変えよう。
「……あの竜は、これで何回目の脱皮になるんだ?」
指差したのは、湖水に浸かっている護衛対象の竜だ。
あちらがこちらをどう思っているのかは知らないが、ドラ子がいるので大丈夫だと思いたい。
人間だけど、僕は味方ですよー。
「竜族でも、他者の脱皮回数まで分かる訳じゃない」
「あぁ……まぁ、そりゃそうか」
「だからたぶん――になるが、二回目か三回目だと思う」
「へぇ……じゃあ、これで成竜になるか、もう成竜になってるかその辺りってことか」
話の竜の大きさは、遠目なので確信は持てないが、鈍色の竜よりも一回り大きいくらいではないかと推測している。
さすがに、近くまで行って確認する気はない。
「そういや、ドラ子って……鈍色の竜の姉になるんだよな?」
「鈍色?」
「あぁ、俺が勝手に付けた呼称だった……。えーと、金竜の末っ子で、俺を集落まで連れてきてくれたヤツ――って言っても通じるのかな」
言って、現場に居なかったドラ子に伝わるような気がしない。
「金竜……ドラ子の父上のことか。それなら分かる。末っ子……あいつが鈍色だな? ドラ子覚えた」
「そうそう」
「それなら、ドラ子の弟になるな」
「あんまり……似てないよな」
「似てない?」
って、よくよく考えたら、竜と竜族の女――つまり、竜人が似る要素なんかないっての。
何言ってるんだ俺……。
「いや、その、あれだ! 金竜との話!」
「あぁ、父上か。人間にはそう感じるのかもしれない。が、鈍色と父上はよく似てるとドラ子は思う」
「そ、そうか?」
「色のことを言ってるなら、それはススムがまだ知らないだけだ。鈍色は、脱皮を繰り返せば、いずれ父上のようになる」
「え……そうなの? 色変わるのか?」
それだと、いずれ鈍色の竜って呼べなくなってしまうんじゃ……。
「うむ。折角だから、鈍色にもススムが名前を付けたらどうだ? ドラ子も鈍色はちょっと言いにくい」
「あー……まぁ、そうだな。ちょっと考えてみるか……」
「きっと、あいつも気に入ると思う」
確かに、今ここで付けておけば、脱皮で色が変わっても呼び名に困ることはなくなるよな。
ここでそのことを知ったのもいい機会だし、真面目に考えてみよう。
「………………ドラ吉」
我ながら、中々いいセンスではないか?
ちょっとドラ猫っぽいイメージもあるが、ドラゴンであることと男であることは、初対面の相手にもきっちり伝わることと思う。
「ドラ吉だな。ドラ子覚えた。きっと喜ぶ」
「よし。じゃあ、ドラ吉で決定だな」
こうして、本人のまったく関知しないところで、新たに“ドラ吉”という名前の竜が誕生した。
ふと思ったのだが、ドラゴンと呼ばれるのは嫌がる癖に、それを文字った名前を付けられるのは平気なのだろうか。
そして、さらに。
湖の竜の脱皮を待つこと半日が経過した――。
隣に目の保養――もとい、話し相手がいるとはいえ、ただ待っているという行為は非常に退屈である。
Time is waste money――時は金の無駄遣い。なんじゃそりゃ。
「……なぁ、ドラ子。これって今日中に剥けるのか?」
我ながら新陳代謝のいい、日焼けした部活の男子生徒のような扱いをしたものである。
ちょっと茹で栗が食べたくなってきたな……。
しかし、ドラ子は気にした様子もなく、
「分からない。脱皮もそんなすぐ起きるものじゃない、と思う」
「…………そうなの?」
「ドラ子も……経験ない」
「あぁ、そりゃそうだな……すまん」
何かもう、脱皮の時期がきたら湖に走って、
『うほぉっ、脱皮キタキタキター! ぬぷりんっ! ゜+.つるぴかー゜+』。
……というように、日々のお通じのように済んでくれれば大変ありがたいのだが。
「あくまで聞いた話だが……早ければその日で終わるし、長い時は数日掛かる」
「す、数日っ――!?」
う……うわぁ……それは、ちょっと気が遠くなるぞ。
ま、まぁ、可能性の話だし? 今日中に剥ける確率だってゼロじゃない訳で……。
「参ったなぁ……」
「ススム、困るか?」
「や、別に他にすることもないからいいんだけど……」
一度、大元の目的を考えてみよう。
ここで、脱皮を控えた竜の護衛をする――それは、もちろんオーケーだ。
脱皮が無事に終わる――それも目的のひとつだとは思うが……ただ、この場を切り抜けただけで、それだと根本的な解決にはなってないよな……。
つまり、何事もないのが一番であって、そうではないという葛藤が生まれる訳か。
脱皮竜を狙う人間がいるなら、是非とも現れて貰って、そして丁寧に俺に取り押さえられて貰わなくてはならない。
もちろん、竜は無傷で。
……あれ?
これって、記念すべき初めて遭遇する人間が、まさかの敵対関係ってことになるのか?
「なんて皮肉な……」
「肉?」
「いや、その肉じゃなくて……」
「ドラ子、あんまり肉ないぞ?」
そうして、ドラ子がその均整の取れた身体を触っても摘めるような肉などあるはずもなく、その指がやっと見つけたお肉というのは――
「あ。あった」
「ぶほっ――!」
ぷるん、と現れたのは、まさに美味しそうなドラ子のお肉だった。
「ドラ子、しまってしまって!」
「む? 分かった」
「はぁ……びっくりした……」
まさか、その胸を隠してる鱗部分がそういう構造になっているとは……。
騒がしげなこちらを、鬱陶しそうに横目で見る湖の竜の視線が痛い。
というか、あちらさん――竜型ってことは男のはずだが……そういう感情もあったりするのだろうか。
でも、幼竜なドラ子じゃあやっぱりそういう対象にはならないんだろうか……うーん……。
あぁぁ、俺、フタヤみたいにロ○コンの気があるんじゃないだろうな……。
そう、無意識にぶつぶつと塞ぎ込んでいると、
「ススム、どうかしたか? 具合悪いか?」
すっ――と、ドラ子がこちらの顔を覗きこんできた。
その表情は、心配という感情を含んでいる。
「おっと……いや、大丈夫。何でもない」
「本当か?」
……まぁ、やっぱりドラ子はいい子だよな。
こうして見てても、外観年齢は自分と同じくらいだし、顔はいいし、スタイルはいいし、発育もいいし……よし、俺はロ○じゃない。
「あぁ、俺は正常だった」
「そうか、安心した」
そうして、近くにあったドラ子の頭を撫でてやる。
撫でてから気付いたが、無意識にやってしまったようだ――が、ドラ子は嫌がることもなく、気持ち良さそうに目を細めていた。
手に当たる角の感触が妹とは違うが、ちょっと哀愁を感じないでもない。
撫でながら湖を見ると、竜の様子に変化が起きたようだ。
その背中が大きく裂け、中から透けるくらいに美しい翼と鱗が姿を覗かせている。
竜の脱皮が始まったのだ。