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破壊神って言うな!  作者: 柱乃 影人
異世界編
7/26

ススム、名前を付ける、そして竜族の長に会う

全改稿(2014/10/17)

 



 竜族の山道を歩く俺は、少し前を行く女の子の姿を見る。

 最初に目が行くのは、ゆらゆらと揺れる尻尾だ。

 小説などで『尻尾でなぎ払う』といった描写があるが、そういった力強さを感じさせる太いものだ。

 そして、その付け根を目で辿っていくと、そこにあるのは――


「……ごくり」


 一応、勘違いをされる前に言っておくが、竜族の女性は服を着ていないわけではない。

 厳密に服かどうかは不明だが、要所要所を鱗のような革のようなものが覆っている。

 従って、今俺の目線の先にあるのは、面積の少ないパンツような下地からはみ出たふにっと丸みを帯びたお肉、そしてそこから延びる太ももだ。

 その更に上、背中は完全に露出しており、肩甲骨の辺りから大きな翼が生えている。

 それがたまに動いたりしているのは、歩く際にバランスを取っているのだろう。

 翼の付け根あたりにも鱗のような部分があり、どうやら前面の方にまで繋がっているようだ。

 分かり易く言うなら、ビキニのような格好だろうか。


 はっきり言ってエロい。


「どうかしたのか、人間?」


 こちらの視線に気が付いたのか、前を歩いている彼女が振り向いた。

 鈍色の竜の言った通り、彼女はやや片言ではあるが、声自体は人間のものと何ら変わりはないようだ。

 こちらを不思議そうに見つめる顔立ちは、おそろしく整っていて、最近美人続きでちょっと得してるなぁ――なんていうのは心の声。

 ただ、瞳はやや縦長でちょっと鋭い印象も受けるのだが……。


「いや、竜族見るのが初めてなもんで……」

「あぁ。自分も人間を見るのは初めてだ。気になるなら好きなだけ見ていいぞ」


 と、親切にも彼女は足を止めてこちらを向くので、ならばと言葉通りにさせて貰うことにした。

 そうして、全身をしげしげと眺めるが、やはり人間との違いの方が少ないようだ。

 まずは、頭に生えた角。

 人と変わらない耳のやや上、そこに左右対称の角が大小それぞれ一組ずつ生えている。

 やや赤みのかかった金髪は、櫛を通す習慣がないのかわずかに癖がついているが、それでも風に吹かれて(なび)く辺り、かなり柔らかいのだろう。

 胸は残念ながら――げふん、隠されているが、かなり大きい。

 ちょっと童顔で舌足らずな言葉遣いと相まって、アンバランスにも映る。

 鍛え抜かれた女性のようにお腹は引き締まっており、腰もきゅっとくびれている。

 肌色はやや浅黒いが、男の琴線を刺激するには充分だった。


「……綺麗だな」

「そうか。勇名なかの父の子だからな。鱗や尾の(つや)には自信がある」


 別にそういう意味で言ったのではないのだが、得意気にぐりんぐりんと尻尾を回す様子が可愛いので指摘はしない。

 褒められて気分を良くした子犬のようにも見えるし、魔眼を通せばムチムチとしたお尻が扇情的とも言える。


「自己紹介がまだだったよな? 俺は、葉飼進。ススムでいい。そっちは?」

「竜族に、個を呼び分ける名前はない。特定の者を呼ぶことはできるのだが……人間には難しいと思う」

「あぁ……」


 さっき金竜が吼えていたが、あれでやってきたのは彼女ひとりだったし、何らかの手段はあるのだろう。


 ――が、あれを真似しろと言われても絶対無理だ。


 さてどうしようかと考えていると、彼女が提案してきた。


「お前の好きに呼ぶといい」

「え?」


 好きに呼ぶ……つまり、名前を付けろということか。


「むぅ……」


 いきなりやってきた難題に、俺は腕を組んで首を捻る。

 率直に、これは、俺のネーミングセンスが問われている――そういう場面だ。

 考えろ……まず、相手の情報を整理するんだ。

 最大の特徴は、竜族であるということ――それに準じた名前はどうだ?

 例えば、辰子(たつこ)……なんて安直過ぎるだろうか。

 せめて、この世界の人間を知っていれば、どんな名前なのか参考にもできるのだが残念ながら俺はその知識がない。


 …………何か、脳裏に引っ掛かるものがあったような気がするが、ないはずだ。


 かといって、ペットのような名前を付けるのもどうかと思うし……。

 いや、セレブが付けるようなものならギリギリオーケーか?

 シンディとかセレンとかティンカーベルとかジャックとか――まぁ、最後のは♂だからダメだな。


「…………答えのない問いって難しいな」

「別に直感で構わないぞ」


 インスピレーションでいいのか。

 よし、それならば割と得意だ――心でガッツポーズをする。


「よし。お前の名前は“ドラ子”だ」 

「ドラコ?」

「あぁ」


 ドラ子が、その名を反芻する。

 ややあって彼女が頷いたことを確認し、


「うむ、気に入ったぞ」

「よろしく頼むぜ、ドラ子!」

「こちらこそだ。よろしく頼む、ススム」


 がっちりと硬い握手を交わした。

 ドラ子の鉤爪がちょっと痛いが、我ながらネーミングセンスには惚れ惚れするな。



 そうして、ドラ子と雑談を続けながら、長の住処を目指す。

 相手が女の子となれば、話にも花が咲くものだが……その辺りはお互いの事情を汲んで欲しい。

 考えてみれば、言葉が通じることが奇跡――それくらいの違いがあるのだ。


 まぁ、ひとりで彷徨っていた時を思えば今の方がよほど良いのは比べるべくもないが。


「それで、ススムは向こうの世界では何をしていたんだ?」

「えーと、毎日学校っていうところに行ってだな……」

「ガッコウ?」

「そう、学校だ。何だろう……色々学ぶところだな」

「ほう……狩りとか、そんな感じか?」

「狩り……そうだな。ちょっと違うが、まぁ、生きる為の知恵って言えば、似たようなものかもしれない」

「ふーん……よく分からないが、面白そうだな」

「あぁ。俺は楽しんでたぞ」


 まぁ、こんな具合だ。

 微笑ましいといえば微笑ましい。

 あとはこちらから竜族の話とか、こっちの世界の神様やら精霊やら色んな種族の話を聞いたりした。


 ……そんなに多くの種族がいるとは思ってなかったけどな。


 まぁ、有意義な時間だ。

 そういう風に話していると、時折、ドラ子の視線がちらちらと一点に向いていることに気が付いた。


「?」


 俺の胸元だろうか。

 そこに何があるのかと思って見てみると、陽光を受けて輝く装飾品がある。

 高校の学年章(エンブレム)だ。


「もしかして……これが気になってるのか?」


 試しに学年章を外して手の平に乗せてみると、ドラ子の視線も負い掛けてきた。

 どうやらこれで間違いないらしい。


「……ドラ子、それ初めて見る」


 じーっと、手の上の学年章を覗き込んでいる。

 その仕草がとても可愛い。

 やはり、竜族が光物を好むのでは――という俺の考えはそう外れてはいないようだ。


「あげるよ」


 手に乗せたまま、ドラ子に学年章を差し出した。

 持っていたところで、この世界で役立つことはないだろう。

 小さな学年章を両手で受け止めた彼女は、さらにそれを凝視した後、こちらを見て……


「……い、いいのか?」


 おずおず、といった様子で尋ねてきた。

 もちろん、返答は決まっている。


「いいよ」


 ぱぁっ、と目を見開いたドラ子が嬉しそうに目を細め、両手に乗せた小さな学年章に頬ずりをした。


「おいおい、ピンで怪我するなよ」

「大丈夫――感謝する!」


 満面の笑顔だった。

 飛び跳ねてまで喜んでくれると、物が大したことはないだけに返って申し訳なくなってしまうくらいだ。


「ススム!」

「お、おいっ……」


 そのままの勢いで、腕にガバッとしがみついてくる。

 身体に、柔らかいものと硬いものと柔らかいものと……おふっ、や、柔らかいものが当たっている。

 その上、両脚で俺の手を挟むという恐ろしい暴力に、俺はいつまで耐えられるのだろうか……。


 移動が始まると、手の方は抜けることができたのだが、結局腕にしがみついたドラ子はしばらく離れる様子はなかった。



 さらにふたりで歩くことどれくらいだろうか。

 結構歩いたようにも思えるが、気が付けば集落の最奥までやってきてしまったようだ。

 そこにあったのは、竜でも入れるほどぽっかりと大きな口を開けた洞窟――その中を、さらに奥へ奥へと進んでいった。

 その傾斜の感じからは、おそらくは山の中を登っているのだろう。

 さらに時間を費やして歩いた先に、祭壇のような場所があり、そこに佇む小さな影を見つけた。


 どうやら、竜人のようだ。


 ドラ子とは異なり、意匠は控えめながらも霊妙な雰囲気を醸し出す、ゆったりとした服を纏っていた。

 和服のイメージに近いが、もっと起源が古そうなそういったものだ。

 竜族の長に仕える巫女のようなものだろうか。

 こちらに気が付いたその巫女が、ゆっくりと振り向き、祭壇を降りてくる。


「ススム。竜族の長だ」

「へっ……」


 その場に静かに膝を突くドラ子の言葉に、一瞬だが理解が遅れる。


「竜族の……長? あなたが……?」


 やがて前にやってきた長らしき人物に、俺はつい不敬な質問をしてしまった。


「えぇ、私が竜族の長です。異界から訪れし者よ」


 急いで頭を下げる。

 言葉を掛けられて時点で、向かいにいる女性こそが“竜族の長”であるの、と俺の直感が理解した。

 ただの言葉ですら、掛けられている重みが違う。

 驚きではあるが、長は本当に女性だったのだ。

 例に漏れず、容姿は竜人――人間の女性そのものである。


「初めまして。異世界からやってきた……葉飼進といいます」


 再度、頭を下げる。

 いつもの軽いノリで話していい相手ではない。

 自分にできる最低限以上の礼をもって接するよう心がけた。


「お初にお目にかかります、ススム殿」


 チラリと目配せをすると、それで察したのかドラ子は席を離れたようだ。

 その姿が消えるまで無言が続き、しばらくして長がもう一度口を開く。


「長旅……と言って良いのか分かりませんが、ご苦労様でした。ゆるりと、この集落で疲れを癒してゆくと良いでしょう」

「あ、ありがとうございます……」


 今更ながら、手ぶらでこんなところに来て良かったのだろうと、自分に疑問を抱かなくもない。

 まぁ、用意する間も物もないのだが……。

 学年章――は、ドラ子だから喜んでくれたのだろうし。


「山を少し下れば温泉も沸いています。寝所には……少々ご不便を掛けるかもしれませんが」

「い、いえ、お気遣いなさらず……」


 何というか、地位のある人物とそれらしい会話にはなっているのだが、思っていたのとはだいぶ異なっている。

 どちらかというと、金竜のようにスパっと直球で話してくれた方がありがたいのだが……。


「では、そのように致しましょう。ご用件を伺います」

「……え?」


 もしかして……心を読まれてる?


「心を読まれている――とでも考えましたか?」


 うぉっ! やっぱり読まれてる!

 こ、これは余計なことは一切考えられないぞ……。

 まかり間違って、長で変な妄想でもしてみろ……あぁ、俺は異世界代表としてここで極刑に処されるのだ。


「ふふふ……勘違いをしないでください。あなたが顔に出易いだけですよ? 今も、ありありと顔に出ています」

「えぇっ!?」


 長が、可笑しそうに口元を緩める。

 た、確かに……言われてみると図星的な表情はしたかもしれない……。

 それに、どうやら思ったほど硬い人物ではなさそうだ。


「す、すいません。あまりこういう場に慣れてなくて……」

(かしこ)まる必要はありません。普段通りになさっていてください」

「は、はい……」


 口調も物腰も丁寧な人だった。

 こうして改めて見ると、着物のような衣装にほとんどが隠れているせいか、見た目はドラ子以上に人間そのものである。

 翼や尻尾ですら見当たらないし、唯一見えるのは、頭にある角くらいだろうか。

 長い、真っ直ぐな黒髪は、本当に巫女のような出で立ちだった。


「竜族の女性って……綺麗な人ばかりなんですね……」

「恐縮です。人――ではありませんが」

「あはは……そうですね……」


 って、長に向かって何を言ってるんだ俺は!


「一応、竜族と人間族による婚姻も我らは認めております。宜しければ、ススム殿もこの集落で探して行かれては如何ですか?」

「えええ!?」

「ふふ……冗談ですよ」

「あ……あぁ、冗談。冗談ね……」


 うおぉ、心臓に悪い……。

 竜族で一番年月を生きてるだけあって、こういう扱いも長けてるっていうか、何というか……。


「……今、何か失礼なことを考えましたか?」

「全然っ考えていません!」


 おい、本当に心読んでないんだろうな、この人――じゃなかった竜!


「そうですか、安心しました。……ところで、ススム殿」

「……はい」

「過去の例からすると、どうやら竜族の女と人間の男による繁殖も可能なようなのです」

「……は? はぁ……」

「もし、ススム殿に意中の竜族の者がいるのなら、それもまた良いのではと――」

「す……ストップ、ストップっ!!」


 誰のことを言ってるんだこれは……!

 ま、まさかドラ子のことか……!?

 さっき会ったばかりだぞ――ってもしかしてこれの為に人払いをしたんじゃないだろうな……。

 異世界云々の件もそうだし、一体、何を何処まで把握しているのやら……。


「それで、ススム殿の行く道について――なのですが」

「………………」


 コロッと話変わっちゃったよ……。

 もう語るに任せておいたほうがいいんじゃないだろうか。


「……このまま、集落に永住する――という手もあります」

「ありません!」

「そこまで断言なさらずとも……」


 疲れるわ、この人――じゃなくて竜!

 ま、まぁ、変に追い出されたり、露骨に嫌な顔されるよりはよっぽどいいけど……。


「では、真面目にお話をしましょう」

「は、初めからそうしてください……」


 そう言うと、長の表情から先ほどまであった柔らかいものが消えた。


「まず――我々竜族は、ススム殿への協力をお約束します。無論、ススム殿が我々に軋を生まない限り――ですが」

「……ありがとうございます」


 つまり、俺が直接竜族に敵対や示威行動を取らなければ、竜族は味方で居てくれるというのだ。

 元々、竜族と揉めごとを起こすつもりなんて毛頭ないので、これほどありがたい提案はない。


「そして、こちらから提言していて申し訳ないのですが、我々竜族も、ススム殿のご助力を必要としております」

「俺の……協力?」


 意外といえば意外な発言だった。

 まさか、竜族が異世界からやってきた俺のような人間の力を必要とするとは。

 その理由を尋ねると、


「この世界――ルビリアにおいて、我々竜族の立場というのは……非常に危ういものなのです」

「危うい……というと?」

「世界の覇権を握っているのは、神代の時代を掌握した神々――つまり、今、まさに人間を守護している神々なのです」

「つまり、遠回しに人間が覇権を握っていると?」

「そうとも言えますし、また、そうでないとも……。僭越ながら、我々、竜族は、個々においては人間と比べるべくもなく強力なものと自負しています」

「そりゃまぁ……」


 この世界の人間の実力がどの程度のものかは分からないが、集落にいた竜たちの姿を見ただけでそれは想像ができる。


「相手が一国程度であれば、我々の力で跳ね除けることも容易でしょう。しかし、もし全ての人間が竜族を――いえ、人間以外の種族を滅ぼそうと思えば……」

「………………」


 重苦しい空気に、俺は無言で長の言葉を待った。


「……残念ながら、その通りになってしまうでしょう」


 この世界の人間――存在ですらない俺は、それに対して発言する言葉を持たない。


「かつては世界中に散っていた同胞たちも、今は大半がこの地に追いやられてしまっているのです」

「そう……ですか……」


 奔放に見えていた竜たちも、こちらが思っていた以上に苦しい現状にあるようだ。

 ただ、先の長の冗談が、それに関係しているとも思えないが……。


「分かっ――分かりました。自分に出来ることなら協力します」

「……良いのですか?」

「えぇ。俺程度でどこまで力になれるのか分からない、ですけど……。そんな話を聞いて黙ってられないので。ちょうどこっちにもその“神様”ってのに会わなきゃいけない用事もあるし、ついでに竜族と仲良くするようにガツンと言ってきますよ」


 言って、ついで――というのは余計だったかな、と思ったのだが、


「……ありがとうございます」


 長は気にするどころか、こちらに頭を下げてしまった。


「いや、やめてくれって!」

「……随分と、印象が変わりましたが……あなたのご助力が得られれば、不可能ではないでしょう」

「うん……? 印象?」


 というこちらの問い掛けに、長が答えることはなかった。

 代わりに、


「……いきなりで申し訳ないのですが、お願いしたいことがあるのです」

「あぁ。何でも言ってくれ。俺にできることなら協力する」


 長に頭を下げられたせいか、気が付けば、俺もいつも通りの口調に戻っていたり。


「えぇ……ドラ子――とススム殿は呼んでおられるのでしたね?」

「まぁ、勝手に名前なんて付けてしまって申し訳ないとは思ってるけど……」


 もしかして、またさっきの話題に戻るんじゃないだろうな――なんて身構えていると、


「……わたしにも頂けないでしょうか? お名前」

「………………」 


 もっととんでもない要求がやってきた。

 おいおい……竜族の長“ドラ美”とか誕生しちまうぞ……。




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