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破壊神って言うな!  作者: 柱乃 影人
学生編 ―序章―
4/26

ススムの学校生活・終

加筆修正(2014/10/17)



不本意ながらも、アカネに蹴り込まれてやってきたのは、ある薄暗い一室だった。

入った時の状況から鑑みて、ここを部屋と断定して良いのかは分からないが。

暗さゆえにはっきりとした間取りは取れないが、大きさはおよそかなり広めのリビングといったところか。


「で、ここが異世界?」


確認するように呟いたが、返答はない。

どうやらアカネはついてきていないようだ。

手探りで辺りをペタペタと触ると、しっかり壁の感触がある。

どう考えても、ここが異世界という雰囲気はない。


「……警戒して損したな」


まさか、これほど大掛かりなドッキリの為に死闘――とまでは言わないが演じる羽目になるとは。

要は、ロッカーの後ろ側と隣接する壁をくり抜いて隣の教室に繋げてあるといったところか。

なるほど。

確かに、一階の研究室に隣接する準備室ならばちょうどこれくらいの広さかもしれない。


などど考えていると――。



「ようこそ」



何処からともなく、唐突に声が聞こえてきた。


「うわっ! ……と、人が居たのか」


先ほどは気が付かなかったが、正面、よく見ると人が立っている。

その手前にあるのは、教壇――ではなく、カウンター? だろうか。


「あー、どうも。変なところから失礼」


その誰かに向かって声を掛ける。

準備室ならばきちんと入り口から入室すればいいものを、壁をくり抜いた裏口から侵入するというあるまじき形だ。

自分のせいではないとはいえ、見知らぬ相手ならばなおさら謝っておかねばなるまい。

これでも常識人なのだ。


「お気になさらず」


相手を見やると、神秘的な雰囲気を併せ持つ、とても綺麗な少女だった。

さらりと流れるブロンドは肩口あたりで揃えてある。

年齢は……こちらと同程度にも見えるが、着ているのは私服だ。

留学生がいるという話は聞かないので、外来の講師か何かだろうか。


「正式な手順……ではありませんが、紹介者がいるようですし、わたくしとしても問題はございません」


初めは片言かと思ったが、流暢に日本語を話せるようだった。

その方が自分にとってもありがたい。


「紹介者?」


その単語で思い当たるとすれば、ここへ連れてきた――というより、強制連行されたのだが、二年生の暴力縞パン美少女ことアカネか。

正式な手順じゃないというに、やはりあれは裏口的なものなのだろう。

というか正規であっては堪らない。

ともあれ、彼女がただここに入ろうとしていただけであれば、ロッカーに入るという行為が奇行でもなんでもなかったのだと一応は頷ける。


「では、改めましてご挨拶を。ようこそ、【ハロークエスト】へ」

「は……ろ?」


ハロー……なんだって?

彼女の口から出てきたのは、全く聞き覚えのない単語だった。


「わたくしは、『異世界コンサルタント』を務める“アイリカ”と申します。どうかお見知りおきを」

「異世界……?」


アカネに続き、こちらもいきなり異世界ときた。

この日本人離れした少女が、いきなり胡散臭く見えてきたぞ。


「はぁ……異世界コンサルタントねぇ」

「左様でございます」


まぁ、少し考えれば理解はできる。

ここは、学校の研究室だ。

授業で使う部屋が大半だが、一部には文系の部室や、空き部屋は同好会にも利用されている。

つまるところ、オカルト研究会みたいなものだろう。


ははーん、なるほど。

やっと得心がいったぜ。


つまり、アイリカと名乗る少女――あるいは顧問なのかもしれない――とアカネはここの関係者なのだろう。

転校生が初日からオカ研はどうかと思うが、これはすなわち、強引な部活勧誘なのだ。

思えば、自身の身体能力も彼女のそれも、どこかオカルト地味た部分があるし、勧誘対象になるのは分からなくもない。

アカネの言う“異世界”とは、オカルトの世界へようこそ、というニュアンスなのだろう。


ぶっちゃけると、かなり迷惑な話だ。


「貴方は……なるほど。かなり稀有(けう)な存在のようですね。フェリノ様がここへ連れてきたというのも頷ける話でございます」

「ん……? フェリノ?」


またも知らない単語が出てきた。

連れてきた、というからには人名だと思うのだが、はて?


「フェリノ・ルビアーチェア様。貴方をここに(いざな)った方を示す、固有名詞にございます」


知らん――と、一刀両断してしまいたいところではあるが。


「アカネ――緋村あかねじゃないのか?」

「この世界では、そう名乗っているようでございますね」


つまり、体育会系におけるコートネームとか、暗部のコードネーム的な何かだろうか。

ここで言うなれば、真名とかそんな感じか?

それは痛い……痛すぎるぞ、アカネ。


「確認いたします。貴方は、“ゼオフレア・メルハザード”様、でございますね?」

「全力で違う! えらい長い名前だが、そんな痛い名前じゃないし、(かす)りすらしてないわ!」


なんてこった!

昼休みにアカネが言った『ゼオ』というのはこれのことだったのか。

あの時点で、彼女の中では俺の入部は確定していたらしい。


「では、これよりゼオフレア様、とお呼びいたします」

「やめろ! なんか俺まで痛い人に見られてしまう!」


フタヤ辺りなら大いなる理解を示してくれそうだが、むしろアイツまで『では、俺は、ロリ・コーンだ』などと名乗り兼ねない。

さすがにそんな名前は名乗らないだろうが。


「なんと。親しみを込めたつもりだったのですが、メルハザード様の方が宜しかったのでございますね?」

「ベクトルがこれっぽっちも変わってねぇ! てか、疑問系なのに既に確認の形じゃねぇか! そうじゃねぇ、俺の名前は葉飼進だ!」


トークスピードに対し、危うく切れそうになった息を整える。

てっきり無口なのかと思ったら、全然そういったことはなさそうだ。


「ハカイ……なるほど。破壊神様、と呼ばれたかったのでございますね? 了承いたしました」

「お前……人の話聞く気ないだろ……。つか、それ禁句(タブー)だ、二度目はないからな!」

「…………なんと我侭な」


あぁ、分かる。俺には分かる。

こいつは全部、本気で言ってやがる。

こうして芝居じみた様子で、右手を額に当ててヨロヨロともたれ掛かっているのも本気でやってやがるんだ。

ある意味では、アカネ以上に相手をするのが疲れると評価してやってもいい。


「それでは、破壊神ゼオフレア様」

「お……い……」


震えながら見ると、アイリカはしれっと真顔だった。

こ、こいつ……禁句に痛ネームまで含めて、フルで呼びやがった……。


「お、おま……」

「おま? そこはかとなく、淫靡な響きでございますね? 何かは存知あげませんが」


ぷるぷると握り締めた拳が震える。


「しかし、何を思い拳を握り締めているのか、心中お察ししたくはございませんが、わたくしに向けたもの――であるなら、無駄でございます」

「……は? なにを――」


彼女、アイリカがぱちん、と指を鳴らす。

直後、俺のわずか隣の空間が音を以って“弾けた”――


「……………………」


身体を揺らす衝撃と、鼓膜をつんざく音。

首だけ動かして、隣を見るも、そこには何もない。


「もちろん、大切なお客様を傷つけるつもりなど毛頭ございません。ですが――」


ですが、お分かりいただけますね?

――と、目は口ほどに物を言うことを身を持って体感した。


よって、俺は無言でコクコクと頷いた。


あ、アカネといい、オカ研(ここ)にはこんなヤツしかいないのか……。


「……くっ、無念だが好きに呼んでくれ」

「では、ゼオフレア様」


一周回って、結局、最初の呼び方に落ち着いてしまったわけだ。

やもすれば、アイリカのいまだ飄々とした態度からは、ここに至るまで全てが前振りだった可能性すらも伺える。

“禁句”より“痛ネ”の方がマシだと思わなければいけないのか、これは……。

オラ悲しくなってきたぞ。


そして、彼女を見ると、にっこり、とまるで悪魔とでも契約してしまったのかのように素敵な微笑みを浮かべていた。


……よく見ると、美人で可愛いのが救いか。

もし、彼女まで縞パンなら、オラわくわくしてきたぞ。


「では、話は整いました。目的地は、フェリノ様の御座(おわ)しになる世界――【ルビリア】、でございますね?」

「目的……? ルビ……? はい?」


アイリカが一礼をする。


「それでは、これより、転送準備を行います」

「は? え? 転送って……いや、待て、ストップだ! 何か嫌な予感しかしない! 俺はまだ何も返事してないぞ!」


言う前から分かっちゃあいたが、アイリカはまるで話を聞いてはいない。

何を模したのか分からない奇天烈なポーズをとりながら、聞き取ることのできない呪文のようなものをぶつぶつと唱えだした。

真性――いや、病気だ――!


――などと考えていると、途端、薄暗かった周囲が淡い光を帯び始め、部屋全体が細かい振動を刻み始めた。


「……いや、あの、アイリカ? いえ、アイリカさん!? なんか、ポルターガイスト現象みたいなものが起こってるんですけど……もう嫌な予感をビンビンに通り越して――ってまじで人の話聞いて! プリーズ!!」


どうにも覆りそうにもないので、部屋から逃げようと後ろを振り向くが、入ってきた扉が何故か見当たらない。

というかくり抜いたロッカーから入ってきたんだし、よくよく考えれば扉なんてないわけで……。


――って、それなら壁に穴くらいあるだろ!


なんて思って探ってみるも、一面ツルッと綺麗な壁があるだけで、試しに掌打を叩き込んでみるがびくともしない。

結構力入れたんだが……金属の触感じゃないし、一体何で出来てるんだこれ!


「準備完了――でございます」

「何か知らんが、完了しなくていい!」


ふぅ、とアイリカがため息をつく。

そんな、やれやれ、困った方でございますね、みたいな顔で見んなし!


「それでは、良い旅を」

「聞けよ! ――って、うわっ!」


アイリカが両手で大きく円を描くと、その軌跡が眩しく輝きだした。

身体が光に包み込まれる――


「な、なんだこれ! あ、アイリカさん? アカネさん!? のわぁぁ――っ!」


懸命に手足を振り回すも、膨らんでいく光をかき消すことは叶わず。

やがて、地に足を着けている感覚すらもなくなった。

意識もやがて希薄になり、上下左右の感覚を完全に失ったところで途切れた。





次に目を覚ました時、頬に当たるひんやりとした感触があった。

地面だ。

どうやら、うつ伏せで倒れていたらしい。

起き上がろうと手を着くと、コンクリではなく土のようだった。


「……外に、出たのか?」


身体に触れる陽射しが暖かい。

辺りを見回して、周囲の様子を確認する。


「まったく見覚えがないな……悲しいほどに」


どういう手品か知らないが、さきほどまでいた場所とは景色が打って変わっている。

眠らされてる間に運ばれた、という線も考えられなくはないが……


「……それに。なんなんだ、この生き物は?」


目の前にいる奇妙な生物が、“そうではない”ことを雄弁に語っていた。


半透明の身体に、同じく半透明の羽のようなものが背中から生えている。

ふよふよと宙を浮いているが、その小さな羽で飛んでいるようには見えない。

サイズは、両の手の平の上に乗るくらいだろうか。


人型をしているので、もしかしたら言葉が通じるかもしれない。

思い切って話し掛けてみることにした。


「おい」


奇妙な生物は、びくっ、と大きく身体を震わせ、そのまま飛んで逃げていってしまった。

しばらく目で追いかけるが、戻ってくる様子はない。

その場に、そのまま一人取り残されてしまった。


「……なんだったんだ、一体」


しばらく思案してから立ち上がり、制服や身体についた汚れを(はた)いて落とす。

そして、確認するのは所持品だ。


ポケットに入っていたのは、財布にスマートフォン。

スマホの画面を起動するが、さすがに圏外だった。

充電……は期待できないだろう。そもそもケーブルがない。

あとは手ぶらだ。

それ以外は、何も持ってない。


――そこで、ふとひとつの事実に気が付いた。


「上履きのままじゃねぇか……」


そういえば、放課後から色々あったものの、学校の玄関には行ってない。

履き替えていないのも当然だ。


「……まぁ、いいか」


履いてれば、とりあえずは十分だ。

体育館での運動はもちろん、自分の無茶機動にも耐えうる、およそ学校指定とは思えない秀逸な一品である。


さて、これからどうしたものか。


周囲、少なくとも見渡せる範囲で人の気配や建物らしきものはない。

そこらに生えてる木は、どうにもこうにも見たことのない変わった形をしているものも混ざっている。

空を見上げると、そこには日中にも関わらず、でっかい月が浮かんでいた。

極め付けにゃあ、(それ)が二つもあるときたもんだ。


「……すげーな」


大きい方は、肉眼でクレーターらしきものまで見える。

地球上に、月が二つ見えるポイントなんてあっただろうか?


……ないよなぁ。

それに、先ほど見た謎の生物も、地球上に存在するとは思えない。


「これはまさか、いやもしかして……」


理性が認めるのを拒んでいるが、認めるしかないのか。


「本当に、異世界に来ちまったのか……俺」


風を浴びる。

なかなか現実とは受け入れられず、そのまましばらく呆然と立ちすくんでいた。


意識が引き戻されたのは、ある大事なことに気付いてからだ。


「そういや……」


ぐるり、と何度も周囲を見回す。

さらに念を入れて確認するが、やはりそれらしいものは何もない。

そもそもどういう原理でここに来たのか把握してないので、何を探せばいいのかすら分からないのだが。

さっきのような魔方陣っぽい何かとか、クリスタルっぽい何かとか――如何にもそれらしいものがあれば良かったのに。


「はぁ…………どうやって帰るんだ、これ」


出るのは、深いため息ばかりであった。


そうして適当にブラブラと過ごしている内に、少し陽が陰ってきたような気がする。

どうやら、この世界も日が暮れるようだ。

暗くなる前に、どこかに移動した方がいいのかもしれない。

できれば、人が住んでるといいのだが……。


「……まてよ?」


そこで、ふと思い至った。

確か、アイリカは、フェリノ――もとい、アカネのいる世界のようなことを言っていたはずだ。

ルビなんとか……ルビ……リアだったか?


とすると、ここはアカネが住んでる世界ということになる。

ならば、人がいると判断するのも、そして言葉が通じると考えるのも決して楽観的ではない。

むしろ、アカネ本人がいると考えるのが普通ではないのか?

自分をこんな目に遭わせた張本人を渇望するというのも妙な話ではあるが、今は頼りにするしかない。

それに、ひとまずは何か目的が欲しいところでもある。


――よし、と心に決めたことを口に出して確認する。


「とりあえず、第一はあっちの世界に戻ること。第二は、アカネに会うこと、だな」


この順序は逆になっても問題はない。

最終的に、元の世界に帰れればいいのだ。


もちろん、あくまで『今の自分』における目的なので、それ以外の目標が見つかるのも全然構わない。

そうと決まれば、こんな何もない場所に長居する理由はない。

歩き出すと、不思議と胸がわくわくしてきた。



考えてみれば、だ。


こんなのよ?

誰だって経験できるわけじゃないだろ?



見たことのない空、見たことのない木、見たことのない生き物、そして景色――

全てが視界を流れていく。



気が付けば、俺は、知らない世界を駆け出していた。




ルビリアでは踏み入れることのなかった異世界にとうとうやってきました!

同じ世界ですが、訪れる時間軸が異なっている為、内容も当初から随分変化すると思います。

気長に見守ってやってください。

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