ススムと一行、本部に向かう
全改稿(2014/11/24)
「くっあぁぁぁ…………はぁ。よく寝た……」
両手を上げて大きく背伸びをし、そのまま左右に捻って固まった身体の筋を伸ばしていく。
あまりの気持ち良さに、このまま布団を被ってもう一度眠ってしまおうか――なんて考えも過ぎるが……。
背伸びとは、二度寝をする為の行いだったろうか――? なんとなく矛盾しているように感じるのは、つまり欲求に従ったら負けだと内心で認めているのだろう。
欠伸による訴えに気力で逆らった俺は、気分を改め、顔を洗うことにした。
「……ぃしょっ……と」
年寄りじみた声を出しながら、宿備えの簡素な造りのベッドから足を降ろす。
昨夜と比べれば雲泥の差なのだが、これでも今までの宿から見れば王都内にある“水面の浮き草亭”はかなり上等だ。
つい素足のまま立ってしまった足裏をパタパタと手で叩き、学生服に並ぶ相棒である教育シューズ(内履き)に足を入れる。
洋風というか、この世界は室内でも土足が一般的なようで、未だ慣れることがなく、できればスリッパのような物があればもっと楽なのだが……無い物をねだっても仕方がない。
「おはようございます、ススム様」
「おわっ――!」
突如掛けられた挨拶に奇声を返しながら声の方へ向く。
視界に映ったのはふわりと揺れる青のロングヘアー。
「び、びっくりした……ルイナか。おはよう……」
気配なくベッド脇に佇んでいたのは、紛れもなく本人だ。
昨日といい、朝から驚きの連続だったが……今朝はさらに心臓に悪い。
「失礼ながら起床の時間でしたので……お声掛けしようか迷ったのですが、あまりに気持ち良さそうに寝ておられたもので――つい」
ついかよ――なんて突っ込んだら負けだ。
寝相や寝顔を観察されようが、それに対し俺がどう足掻いたところで彼女を論破することもそのポーカーフェイスを崩すこともできないのは何となく察している。
ここは、まだ剃るほどに髭が生えていない自身の未成熟を喜んでおこう。
ふと窓際を見れば、既にカーテンは開けられているようだった。
「ススム様」
「うん?」
洗面台に向かう為、部屋を出ようとしたところでルイナに呼び止められる。
「そのまま……部屋を出られるのでしょうか?」
「へ?」
間抜けな返答をしてしまったが、指摘されて自身の格好を思い出す。
学生服一着しか持っていない俺は、部屋着の用意されていないこの世界の宿では基本シャツにトランクス――といったスタイルで就寝している。
「あー……このまま廊下を歩くのはさすがにマズイか……」
一応は宿だ。
満室というのならば、どこで他の客にすれ違ってもおかしくはない。
部屋に戻ってズボンだけでも履いておこう――と、そこに、
「ススム様の雄々しさに、わたしも感嘆を抱かずには居られません」
「雄々……しさ? ――って、げっ!」
その言葉の意味をようやく察した俺は、前かがみになってハンガーポールまで駆け込むのであった。
●
着替えてから洗顔し、一階に降りると全員が揃っていた。
どうやら自分が一番最後だったらしく、既に人数分の朝食がテーブルに並んでいる。
空席――バン子の隣に腰を降ろし、「おはよう」と皆に挨拶をする。
ここで「遅ぇ!」なんて突っ込んでくるのは、やはりお隣さんだ。
意外に皆早いようで、反論できない俺は大人しく受け入れるしかない。
俺の姿を確認した店主がカップを運んでくるが、中で湯気を立てているのは黒い液体――どう見ても珈琲そのものだ。
「なぁ。これ、なんて飲み物なんだ?」
「ん、“カルフェ”のことか?」
カップを片手に示すと、バン子が教えてくれた。
どうやらカルフェという名前らしい。
ちびりと飲んでみると、程よい酸味と苦味が脳の活性化を促してくれる――が、俺には少し苦い。
その表情で伝わったのだろう、ルイナが「どうぞ」とカップにミルクを足してくれた。
程良い水分を得たところで胃の中に朝食――パンと卵とサラダを流し込む。
適当に食べ進めると、各自、昨日一昨日の報告のような会話が始められた。
「言いそびれたが……先日は済まなかったな。おかげで久しぶりに帰省できたよ」
「いいって。故郷まで来て家にも顔出さないなんて反っておかしいだろ」
俺はカインにそう返した。
彼は、一昨日の晩は実家に泊まり、昨夜は宿で過ごしたようだ。
そんな事情で、昨晩はバン子とカインが同じ部屋に、俺には別室を宛がう予定だったのだが……。
結果、俺はルイナと相部屋になる――という落とし罠に猛反発をしたバン子によって再編。
結局は、バン子とルイナが、俺とカインが相部屋となった。
まぁ、俺の目が覚めた時にはカインはとっくに下に降りていたようだが……。
「バン子はどうしてたんだ?」
俺が聞いたのは、カインが帰省していた時の話だ。
もしかしたら、彼女もカインと一緒に家に顔を出したのでは――なんて考えていたのだが、
「お、お前が、それを俺に聞くのかよ…………はぁ」
バン子から返ってきたのは、盛大な溜息とそんな台詞だった。
そんな俺に耳打ちがあった。
「どうやらお嬢――じゃなくてリーアは、ススムの旦那が帰ってこなくて夜中まで探してたみたいっすよ……?」
「げ……そうなのか……」
告げてきたのは、山賊コンビの乙ことマーガスだ。
そんな事情など露知らなかったとはいえ、当人に質問されるのは面白くないだろう。
「あの……バン子? ごめん……」
「あー、別にいいって。俺が勝手にやったことだし……つか、マーガス! ベラベラと余計なこと言うんじゃねーよ!」
照れ隠しなのか何なのか、彼女の矛先は彼に向いたようだった。
そんな様子をチラ見しながら、残るコンビの甲ことベイルが話をする。
「こっちは本部に顔出してやして……。そこで、ちぃとばかり面白いモンを見つけたんすけど……」
ベイルの言う本部というのは、ネハレム郊外の西区にある大陸ギルドの本部施設のことだろう。
それなりに距離があるので、彼も一昨日は別で宿を取ったようだ。
「面白い物って?」
俺がそう聞き返すと、ベイルは手振りを加えて説明してくる。
「なんでも、元は王都に搬入されるはずのもんが弾かれちまったってんで、急遽、本部の方で競りに賭けられることになったんだとか」
「競り? っていうと、あれか? 参加者全員でひとつの商品に入札していって、付いた最高値で売却するっていう……」
「で、やすね。噂じゃあ剣刻の賞品だったんじゃないか――って囁かれてるんすけど……何か訳ありって感じすかねぇ。それがまた、結構な大きなでして……」
あまり俺に関係のありそうな話ではないので「ふーん」と適当に頷き返した。
「そんなに大きかったのか?」
しかし、ベイルの話に興味を持ったのは、意外にもカインだった。
「へい。既に広場に据えられてたみたいでやしたが……大きな四角い箱――ていった形状で。暗幕を被せてあったので何かまでは分かりやせんでしたが……」
ベイルの言葉に、ふと何か気付いたようにバン子が声を挟む。
「それって……もしかして、南門の前に居た馬車の?」
「馬車……? あぁ」
言われて思い返すと、俺たちが南門に着いた時に大きな馬車が足止めを食っていたのが浮かび上がってくる。
「大きさ的には……確かちょうどそれくらい……?」
記憶と照合したベイルが、顎を抱えながらそう伝えてくる。
「そういえば、御者はハンターだったよな?」
「あぁ。元が剣刻の賞品なら……あの馬車が王都に入ろうとしていたのも納得ができる」
「それが、何らかの理由でお払い箱になって……ギルドで競りに賭けられんのか」
呟いたバン子が、にっと不敵な笑いを浮かべる。
「……トレジャーハンターの血が騒ぐな」
●
そんな流れで、俺たち一行は、バン子の提案によって大陸ギルド本部へと向かう運びとなった。
移動には、定期馬車もあるらしいのだが……残念ながらハンター限定とのことで俺とルイナが利用できず、やむなく全員で歩くことになった。
所要は一刻半――つまり、三時間ほどで着くだろうとのことだが……歩く速度から計算すると、おおよそ一五キロ近い距離があるという計算にならないだろうか。
平成生まれの自分ならば、間違いなくバスや電車を利用する距離だ。
ちなみに、余程の急ぎであれば走った方が早い。
シャトルランやトラックでの長距離走は苦手だが、ただ真っ直ぐ走るだけならば一〇キロを七分程度だろう。
まぁ、そんな自分だが、余談、妹からは逃げ切れた試しはない。
……そういえば、もうひとり。
向こうの世界で、俺が捕まってしまった相手が居たが……彼女は今何処で何をしているのだろうか。
当初は、彼女を探すことが目的のひとつだったのだが、ここ最近色々あり過ぎてすっかり失念していた。
彼女が本当にこの世界の人間であるなら、何処かに彼女を知る人物がいてもおかしくはないはすだが……
「“緋村あかね”って、今になって考えると偽名だよなぁ……」
そう呟いた名は、俺を半ば無理矢理この世界に突っ込んだ発端のひとり。
一学年上の美少女転校生で、美貌の他、卓越した運動能力を併せ持つ。
「ススム、何か言った?」
近くを歩いているバン子には聞こえていたのか、そう尋ねられてしまう。
「いや、こっちの話だよ」
言ったところで、彼女たちに分かる話ではないだろう。
おそらくは、この世界に来る直前――事件のもうひとりの発端であるアイリカが言ってたあの“妙な痛ネーム”……。
ひょっとしたら、あれこそがアカネの本名だったのではなかろうか。
ふぇ……ふぇ……フェラーリ?
うーむ、何かが違う……。
真面目に聞いておけば良かったかもしれない。
一応、もうひとつの“可能性”について、俺は隣の少女に聞いてみた。
「なぁ、バン子」
「なんだよ?」
「ゼオフレア……って知ってるか?」
「……? なんだそりゃ。人の名前か?」
どうやら、彼女の心当たりにはないらしい。
ならば、この会話も考えもこれ以上続けても無駄だ。
「まぁ、忘れてくれ。それより……競りについてちょっと話聞かせてくれないか?」
俺は、適当に話題を振ることにした。
この辺りの事情にも疎いのは本当のことだ。
彼女も、しばらくこちらの顔を見つめていたが、納得したのだろう。
「まぁ……そうだなぁ。例えば、それぞれのハンターって自分が獲得したもんをギルドで換金するだろ?」
「あぁ、それは経験してる」
実際に、カインたちとレムナリアで行ったその記憶は、そう古いものではない。
この手の話題になると、ルイナが参加してこれなくなるのだが……今回は目を瞑って貰おう。
「稀にとんでもない掘り出し物を見つけちまうと……普通に換金するより競りに出した方が儲けが出ることがあるんだ。一番多いのは、やっぱ俺らみたいなトレジャーハンターか。ま、そんなの滅多にねーけどよ」
中古ショップで売るより、ヤ○オクに賭けた方がリターンがある――ということだろうか。
しかし、ネットや宅配のないこの世界だと……
「……合理的だが、かなり手間が掛かりそうだな」
そう考えてしまうのも当然だろう。
そして、それは事実のようで、
「そうなんだよなぁ。人件費も掛かるし、手間賃で上納も割り増しになるから……よっぽどの掘り出し物じゃねーとな。だって考えてもみろよ?」
バン子がピッと指を一本立てて会話を続ける。
「ただ、換金するだけなら最寄のギルドでいいけどよ……。競りを開くってことは、本部か少なくとも各国首都にある大支部まで運ばなきゃならねーんだぜ?」
「あぁ、そりゃ大手間だ……」
言われて考えてみると、かのハンターはあの大荷物を入手した場所からこの街まで運搬したということなのだろう。
ポケットサイズのお宝ならまだしも、運賃だけでもかなりの出費になりそうだ。
「しかも、運ぶ距離が長けりゃ長いほど、隠せねーものなら尚更危険が伴うのが常識。賊に狙われるのなんてザラだし。腕に自信のないヤツなら、そうならねーように信頼できる護衛なんかも必要だしな」
確かに、宝を護る為に雇った護衛に横取りされてたら世話もない。
かといって、ひとりで運ぶにはリスクがあると判断すれば雇わざるを得ない――と。
そこまでして、競りに賭けるものとは……
「――な? ススムもちょっと気になってきただろ?」
まるで、こちらの心を見透かしたようにニヤリ顔のバン子。
確かに。これは是非にも見に行かない手はないな。
彼女に頷きつつ、
「ちなみに、どんなもんか見当なんか付いたりしてるのか?」
肝心の物に関する意見を聞いてみる。
バン子は、腕を組んで難しい顔をしながら、
「うーん……そうだなぁ……。こういうのは、遺跡に眠ってる財宝――ってのが相場なんだけど……」
そう答えるも、本人もいまひとつ納得していないようだ。
それをはっきり指摘したのはカインだ。
「もちろん、その線もあるだろうが……大馬車一杯の荷となれば、やや規模が大き過ぎないか?」
「だろ? となると、モブハントの可能性もあるんじゃねーかと思ってるんだけど……」
「モブハント?」
カインとバン子が目線で示し合っている中に割って入る。
「主には魔物――というような生物を対象にした狩りのことさ」
カインの説明は、大方俺の想像と同じようだった。
平たく言えば、ゲームなどではお馴染みのモンスター相手の素材集めだ。
「なるほど……。ということは、カインみたいなドラゴンハンターも?」
「あぁ、分類上はモブハント――モブハンターになる」
カインが腰に下げた剣の柄を軽くノックする。
「ま、実際はドラゴンハンターをそんな括りに纏めたりはしてねーけどな」
「何となく分かるような……」
ドラゴンからモブでは、急に格下げされたように気分になる。
「で。そのモブハンターの獲物ってのは、競りに賭けられるような大物もあったりするのか?」
「そのひとつがまさにドラゴンハンターなんだよ。それと、もうひとつ――」
バン子の言葉を続けたのは、カインだ。
「――ファントムハンターか」
小さく呟かれた言葉に、俺は首をやや斜めにする。
ファントムだって?
「……幽霊でも狩るのか?」
「はは……別にそういう意味じゃないが……まぁ、あながち間違いでもないか」
俺の問いにカインが苦笑する。
あながち間違いでもないということは、本当に幽霊を狩ったりするのだろうか?
そして、それを売る?
まさか幽霊の瓶詰めとか……?
「……た、確かに、いい値段にはなりそうだが」
「そう先走るなって。ファントムハンターってのは……まぁ、諸説色々あるけどよ。言っちまえば夢想家――“夢追い人”かな」
「夢追い人?」
「当たれば一攫千金、外れりゃ文無し――実際に存在すんのか疑わしような代物でも追い駆けちまうハンターだよ」
「へぇ……そういうの嫌いじゃないけどな」
夢と浪漫があっていいと思う。
もし、秘境ハンターとかあるなら考えてもいいが……そこに生活設計が掛かってくるとなると、また話は変わってくるか。
「ただ、ファントムハンターに関しちゃ賛否両論だよ。幻獣はもちろん、精霊なんてもんまでも売り物にしちまうからな。『人間に敵対的な行動を見せるのは、ファントムハンターのせいだ』――なんて意見もあるくらいだし」
「そ、そりゃ穏やかじゃないな……」
ゲーム知識で言えば、全てとは言わないが人間に友好的な印象が多いのが幻獣や精霊といった種族だ。
そういう見解が敷かれるのも間違いとは言い切れない。
「しかし、まぁ、そういう連中だから腕も確かなんだよ。何せ亜人領だろうが精霊領だろうがお構いなし。好みはしないが、ヤツらとはおおっぴらに対立したくない――って連中もギルドにゃ多い」
それならば、竜族領を活動圏にしているカインのようなドラゴンハンターもカテゴリーに入るのだろうか。
ファントムハンターとやらが、そんな猛者の集まりだとしすれば気持ちは分からなくもない。
「その、狩りには……ご法度みたいな規則はあるのか?」
「規則? 禁止条項みたいなもんか?」
「そう、それそれ」
歩速を少し速めた俺は、バン子に近付いて尋ねた。
「んー……法で禁止されてっことは、ギルドでも禁止だしなぁ」
「犯罪は禁止なんだよな?」
「当たり前だろ……。ハンターは野盗や強盗じゃねーんだ」
「……あれ? でも、バン子って最初詐欺紛いの……」
「ん……? ――って! あ、あれは、別に無理矢理やってる訳じゃねーし!」
思い出したような慌てぶりを見るに、結構すれすれの行為なのだろう。
断ろうと思えば断ることもできるのがグレイゾーンといったところか。
ともあれ、犯罪に手を染められないと聞けたのは僥倖だ。
「まぁ……影で何かやってるヤツはいねぇ――なんて断言できないのが現実だけどよ」
「それは、どこの世界も同じだ。少なくとも、“仲間”にそういう道を歩いて欲しいとは間違っても思わないが」
「あったりまえだろ。これでも昔は、義賊目指してたんだからな!」
「……バン子が?」
「わ、悪いかよ……」
尋ね返すと、機嫌を少し損ねる。
意外な一面だが、それがシーフ……いや、トレジャーハンターに転じたのか。
仲間の身を案じる彼女ならば、特におかしいということはない。
しかし、義賊って結局やってることは犯罪なのでは……。
「驚いただけだって。そんなに怒らないでくれよ」
「べ、別に怒ってねーし! ちょっと、余計なこと言っちまったなって思っただけで……」
まぁ、この分なら大丈夫だろう。
近くにある彼女の頭を撫で、少し遅れ気味になったペースを上げる。
「少し脱線したが……そうだ、ギルドについても少し聞いていいか?」
「……へ? ギルドか?」
「あぁ。こっちに来てから自分なりに解釈してたが……本部に行くならちょうどいい機会だろ?」
今更とも思うが、俺はレムナリアの支部に出入りしたことがある――というだけで、詳しい話はまだ一度も聞いたことがない。
自分とルイナを除けば全員が所属してるのだから、この際だ。
大まかな説明を聞いておいて損はないだろう。
「そういうことか。てっきり、兄貴から色々聞いてると思ってたから……」
いきなり矛先が向いたことで、カインの背中がピクリと反応する。
話はしっかり聞こえているようだ。
「ま、そういうことなら任せとけよ!」
そう言って、無い胸――と言うと怒るだろうが――を反らし、軽く握った手で小気味良く叩く。
「そんで、ススムはギルドにどんな認識を持ってんだ?」
「当たり障り無く言えば……同じ目的を持つ人間の集まり――ってところか?」
ギルドという単語を聞いて真っ先に思い浮かべるのは、ゲームなどで知人が集まってひとつの大きなチームを作り上げることか。
チームを大きくする為、ゲームを有利に進める為、仲間を作る為――目的は様々だろうが、大元にあるゲームを“より楽しむ”という意識は共通しているはずだ。
要は、何を目的に楽しむかが人によって異なるだけで。
“稀有”な目的がある者は、やはりそういったところに所属するものだし……。
「デカい解釈だけど、まぁ、間違っちゃいねーよ。言い換えるとだな――」
彼女の説明によれば、元々、大陸ギルドは“共同商工会”のような形を取っていたらしい。
つまり、ハンターたちが素材を持ち返り、それを商人が買って職人が加工、市場へ流通するという形だ。
その間を取り持っていたのが、つまるところ大陸ギルドの原型に当たるという。
今もこの仕組みは変わっていないようだが、大きな変化といえば、腕利きの猛者が多数集まるようになって特殊な“依頼”という仕事を引き受けるようになったことか。
「依頼の……斡旋?」
「それも、ハンターにとって大きな仕事のひとつだぜ? 要は、一般人じゃ解決できねーような問題に報酬を付けることで解決して貰おうって寸法だ」
「なるほど……そういう仕事もないとキツイよな……」
ゲームでいう、クエストの様なものだろう。例えば、
『街の付近に凶悪なモンスターが出て困ってるから退治して欲しい!』
『よし、分かった。俺が退治してやるぜ!』
――と無事に達成すれば報酬ゲットとそんな感じか。
「まぁ、受けられる依頼にも難易度があって、受注範囲はハンターのランクで決まってる。所属は限定無し」
「へー。“カイン”なら結構難しいのでも受けれそうだな」
急に話を振ったのだが、彼も聞いていたようですぐに返答をしてくれる。
「……うん? まぁ、この中では一番――ってところだな」
「……けっ、よく言うぜ。マスターを除けば全部受けられる癖に……」
妹に悪態を突かれはしたものの、慣れているのか特に気にした様子はない。
俺は素直に感心した。
「ほー。やっぱカインは凄いんだな」
「……まぁ、兄貴は委任状さえあればマスタークラスでも受注できるくらいだし……別格だよ」
バン子が「俺だって……」と何やら聞き取れない独り言を呟いていた。
彼女も、あれで結構優秀らしいが、威を張る相手が少し悪かったのだろう。
「ススムも本気でハンターを目指せば、それくらいにはなれると思うのだが……」
「うーん……どうだかなぁ……」
カインが持ち上げてくれるのは嬉しいが、やはり今はそんな気分にはなれない。
いずれ元の世界に帰ることを思えば、この世界で仕事を見つけるのはそれを諦めた時だ。
「よっぽど金に困ったりしたら考えなくもないけど……そういうのってちゃんとやってる人に悪いだろ?」
カインもその辺りは察してくれているのだろう、「そうか」と残念そうに笑うだけだ。
俺としては、その表情から彼の本心が垣間見えたようで嬉しかった。
だから、俺は言った。
「――ま、もし永住が決まっちまったら、そん時は頼むぜ? 先輩」
「おう、任せとけ!」
「お前に言ったんじゃねぇよ、バン子!」
こいつらとならば、そんな人生も悪くはないだろう。
「つまり、ススム様も聖徒になる――と?」
「今の会話のどこにそんな単語があった!? てか、三尺去って師の影を踏まず――とは言うが、そんなに離れてないでもっと“近く”に来い!」
「かしこまりました」
そう言って、すすっと身を寄せてくるルイナ。
斜め後方、影を踏まない位置に変わりはないが、その距離はバン子よりも近い。
そんな様子に、バン子も「ぐぬぬ……」と唸りながら「そ、そうだススム――!」といって無駄に腕が触れる距離まで詰めてくる。
それをカインと山賊コンビが見守る中、一行はいつしか外壁西門まで進み着いていた。
「……ちょっと、そこのお前。見慣れない格好だな?」
――それは、もういいっちゅーねん!