ススムの苦難、四人の美女たち?
全改稿(2014/11/24)
拝むような姿勢に耐えかねてプルプルと震え始める腕を余所に、さらなる懸命の説得を試みること数分。
ようやっと身の安全を確保した俺は、女性が持ってきた学生服に袖を通し、即座に無言退室した女性の後ろを追うのであった。
どうやら洗濯してくれたようで、仄かに香る果実のような甘さが肺を通じて胸に染みる。
「あの……洗ってくれてありがとう……」
思えば、共にこの世界にやって来た数少ない所持品のひとつで、大事なものだ。
まともに洗濯をしてやったのはこれが初めてかもしれない。
それ故に伝えた感謝の気持ちは、どうやらご機嫌取りや顔色伺いでないことが伝わったのか、
「………………」
無言ながらも、女性はわずかに歩速を緩めてくれた。
裸で寝ていた理由は分かったが、どうやって脱がしたのかは聞かない方がいいだろう。
掃除中に拭いた場所を自ら土足で歩いては意味がない。
ともあれ、酔っ払って部屋を間違ったのではないことは、もはや疑う余地もなかった。
俺は昨日、地下水路に入り込み、出口らしき場所にて“謎の人形”と戦った末に捕まり、牢屋に入れられた。
そうして中年のおっさんに見下され、悲しみの先で眠りに就き……目が覚めたらロイヤルスイートルームのイリュージョンだったと。
……まぁ、自分の認識力を疑うのも無理はない。
「それで、あの……」
無言で前を歩き続ける女性に声を掛ける。
不可抗力だが、まだ完全に許して貰った訳ではないのだろう。
ノックの後に確認をしなかったのは相手の落ち度なのだが、どこの世界も問題が起きれば悪いのは男であるのは同じらしい。
「ここって……どこですか?」
「………………」
切実な疑問だったが、答えるつもりはないようだ。
その後姿は、キャリアウーマンではなく鬼教官といった歩調か。
「今、どこに向かってるんですか……?」
「………………」
再び問うも、やはり期待した反応はない。
普段の俺ならば好きに行動させて貰うところなのだが……先ほどの剣捌きを見るに、逆らうのは得策ではない。
受け止めていなければ、今頃俺の身体は縦二つに分かれていただろう。
「こ、困ったな……」
俺は、諦めたように前を行く背中を見つめた。
パリっとした白いシャツはブラウス的な生地に、上着は色は異なるが襟付きのタキシードのように見えなくもない。
裾を広がるスカートはシャツの一部なのだろう、その下からは上着と同色のレギンスが覗いている。
顔だけではなく、スタイルも相当なものだ。
「っと……」
無言で通路を曲がっていく女性を追う。
彼女にとっては勝手知ったる庭なのかもしれないが、俺にしてみれば未知の場所だ。
もし、逸れたら女性がどうするのか気にならなくはないが、ただ不興を買うだけだろう。
先の寝室を見る限り、てっきり高級ホテルのような宿泊施設かどこぞの金持ちの屋敷だとばかり思っていたのだが……今は、俺の心がそうではないと伝えている。
目から入る景色が、肌に触れる空気が、匂いが――五感の全てが、ここが“そういう場所”ではないと理解しているのだ。
例えるならば――もし、他に誰もいない世界遺産を、こうして二人きりで歩いていたら、きっと今のような気分になるのではなかろうか。
「………………」
一度それを認識してしまうと、口を開くのも憚れてしまった。
歩く度に女性の背中を撫でる金色の髪――あとはただ、静かに歩く女性の後ろを静かについて行くのみ。
そうして、どれくらいの距離を歩いただろうか。
やがて女性が足を止め、ゆっくりとこちらを振り返ったのは、何処に繋がるのか分からない大きな入り口の前だった。
何も言わないが、ここが彼女の目的地なのか。
見ると、石で作られた大きな扉は両方とも開け放たれており、中の様子を伺うことができた。
「………………」
隣を過ぎる際、念の為に視線で確認をしたが、女性は静かに目を閉じていた。
先に入れということなのだろう。
俺は、ゆっくり中へと足を踏み入れた。
「な…………」
入った瞬間、俺は言葉を失った。
中に広がるのは、ほぼ水面で満たされた広大なホールだ。
伸びる通路と、その先にある祭壇のような場所以外は全て水。
さらに奥にあるホールの壁である部位からは、滝のように水が流れ出ている。
その時、俺は何故か、街を流れる河の水源とは“ここ”なのではないか――そう考えてしまった。
常識的に考えれば有り得ないことなのだが、ここはそう思わせずには居られない、そういう光景だった。
「どうぞ、中へとお入りください」
その眺望に見とれていた俺は、すぐ隣に佇んでいる女性の存在に気が付くのが遅れた。
声の方を見ると、先とは別のふたりの女性が同じ姿勢で並んでいる。
よく似た顔つきをしたふたりの女性は、髪色までも全く同じ紺に近い青色だ。
一方はそれを真っ直ぐに伸ばし、もう一方は頭頂部でひとつに縛っている。
服装は、金髪の女性と細部の色が違う以外に違いはなく、武具を所持しているのも同様だ。
「奥にて、我が主がお待ちになっております」
こちらが反応に困っていると、続けてポニーテールの女性からそう催促を受けた。
年齢はこちらより少し上……程度にしか見えないのだが、有無を言わせない不思議な力のようなものが彼女の全身から滲み出ている。
どこかで既視感を受けた気もするが、思い出せない。
俺は頷いて奥に進むと、その後をついてふたりの青髪の女性が、そして、ここまで先導をした金髪の女性も続いて進んでくるようだった。
それを察したのは足音によるものではなく、何か共鳴したようにリン――と鳴る彼女たちの剣のせいだ。
確かめる術もないが、三人とも相当な実力者なのではなかろうか。
少しだけ後ろに顔を覗き見ると、目を伏せて静かに歩く彼女たちからは何の感情も察することはできなかった。
通路に並ぶ五つ目の石柱を過ぎると、ここが最奥なのか――少し広くなった場所で、彼女たちは三つに分かれて膝を突いた。
その理由はすぐに分かる。
「初めまして。ようこそお越しくださいました」
いつの間にか祭壇に現れた女性が、こちらに話し掛けていた。
この女性こそが、青髪の女性が言っていた“主”なのだろう。
「初めまして……」
飲み込まれないように意識しつつ、一礼を返す。
自分も膝を突いた方がいいのか迷ったが、
「どうか楽にしていてください」
実行する前に遮られたので、そのまま立っていることにした。
この女性は何者で、どうして自分をここに連れてきたのか――。
聞きたいことは山々だが、先んじて、相手の方から口が開かれた。
「まず初めに、こちらからお詫びさせてください」
「え……お詫び……?」
思わぬ発言に、俺も出鼻を挫かれてしまう。
その言葉に思い当たる出来事があったかというと――
「えっと……」
まず、脳裏に蘇ったのはひとつ。
俺はチラリと後方を振り返った。
視線の先に居るのは、膝を突いている内のひとり――金髪の女性だ。
今、彼女は顔を伏せているので目が合うことはないが、
「事情も分からないまま一刀両断されるところではありましたが……自分にも非があることなので……」
お互い様という風に返したつもりなのだが、認識と解釈は異なったようだ。
祭壇の女性は少し考えた後、
「レナ」
「はっ!」
その呼びかけに、金髪の女性は姿勢を崩さないまま顔だけを上げた。
おそらく、レナというのが彼女の名前なのだろう。
「……もう少し自重なさい」
「はっ、大変失礼しました!」
祭壇の女性は、道中何があったのか全て見通しているかのような発言をした。
この件についてそれ以上気にした様子は見せなかったが、その一連の流れを見ただけでも彼女たちの間には相当に深い上下関係があるのが窺い知れる。
そもそも、三者が膝を突いている時点でこちらの常識の範疇ではないのだ。
先ほど、ポニ髪の女性が“主”と呼んでいた通りの関係にあるのだろう。
「…………っ!」
金髪の女性がやや赤くなっているのは、叱責のせいなのか俺に対する怒りなのかはたまた恥じらいなのか……。
願わくは、最初であって欲しいが、どれであっても俺に対する非難の目は晴れそうになかった。
せっかく処理した地雷を埋め直したというか、率直に「余計なことを言うな!」とでも受信した気分だ。
「お詫び――というのは、突然ここにお呼び立てしてしまったことをです。よもや、来訪初日――こちらからお伺いする前に、自ずからあのような場所へ向かわれるとは予期できませんでしたゆえ……」
「は、はぁ……」
もちろん、俺は率先して牢に入った訳ではないのだが……いや、あのような場所が地下水路を指しているのならば正解か?
ともあれ、今気に掛けるべきはそこではなく、女性の“こちらからお伺いする前に”という発言だろう。
鵜呑みにすれば、俺は宿に泊まっていたとしても、目が覚めたらここに移動させられていたということか?
それとも、あの金髪の女性が迎えに来るということだろうか……それは、あまり喜べない気もした。
そのようなこちらの心情など、祭壇の女性は気にした様子もなく、
「うな垂れるほどお困りの様子でしたので。僭越ながらも、こちらにお招きさせて頂いた次第です」
「……あ、あぁ。それは俺としてもありがたい……ですけど……」
……うな垂れていた理由は、別に捕まったことだけが原因ではない。
おのれ、あの中年め……。
いつか大きなことを成し遂げてあの男を見返してやろう。
しかし、どういった手段を用いて牢屋から出したのか……。
「その前に、ここって何処ですか……?」
そう言って、俺は周囲を見回した。
外からの明かりが差し込む採光口はあるのだが、その天井はかなり高い。
その光だけでは説明ができないほど充分な明るさがあるのだが、照明らしい照明も見当たらず、また周囲を取り巻く環境やら特有の雰囲気やら何がなんだか分からない状況だ。
こちらがそんな風に思うのも至極当然――というように、祭壇の女性が俺が求める答えを述べる。
「ここは、ネハレム国王都ネレンティア――その中央に鎮座する王城の中庭水園にあるわたしの神殿です」
わたしの神殿――という単語がわずかに引っ掛かったが、
「王城……? やっぱり城の中だったのか……」
あの牢屋が王城の地下になるのかも分からないが、可能性は高いだろう。
おそらく、地下牢から水路へと直接通じる――緊急時の何か裏口のようなものがあるのではないか。
あの人形はその入り口を警護していて、それに俺はまんまと捕まってしまった――と、そんなところか。
そこから運び出したにせよ、時間的猶予を考えれば、この神殿とやらが王城の敷地内にあると言われても地理的に驚くべき点はない。
「客室はお気に召しませんでしたか? 最も上質な部屋を宛がうよう言いつけたのですが……」
「い、いやいや……! あんまりに良すぎて、自分には勿体ないくらい、でしたよ」
「それは……合わなかったということでしょうか?」
「そ、そういう意味でもなく――朝までぐっすり爆睡、しました!」
「そうですか、それならば僥倖です」
そう言って、にっこりと微笑む祭壇の女性。
うっ――――な、なんて綺麗な人だ……!
美人ではなく綺麗――まさにその単語がぴったり合う人物だ。
陽光を受けてキラキラと水面と同じように宝石に似た輝きを放つ水色の髪と瞳。
ウェーブの掛かったそれは、流れる水よりも透き通って見えるようだ。
そして、透き通って見えるといえば、何よりもその衣装か――。
白に近い淡い青色をしたドレスは、一体どれほどの薄さだというのか、明かりで透けたところから身体のシルエットがはっきりと浮かび上がっている。
そこに下着のラインはなく、つまるところその薄手のドレスの下は……
「――きっ、貴様、我が主を下賎な目で見るな!」
思考を中断したのは、ジャキン! という金属音と荒げられた女性の声。
慌てて振り返ると、怒りの形相に包まれた金髪の女性こと金レナが、剣を半ばほど抜きかけていた。
「ちょっ――さっき自重しろって“ご主人様”に言われたばっかりだろ!」
「うっ――! ……だ、だが、それとこれとは話が別だ! け、汚らわしい男め!!」
「汚らわしいとか言うな、普通に傷付くぞ! 年頃の男子は仕方ないんだよ!」
「うるさい黙れ、そんな弁明が通ると思っているのか! もはや捨て置けん……この場で我が剣の錆にしてくれる!」
「く、くそっ……俺が黙ってやられると思うなよ!? 女相手だって、逃げる時はきっちり逃げるからな!!」
そんな具合に、清廉な場に全くそぐわないやり取りを俺と金レナが交わしていると、
「レナ」
静かに、しかし、はっきりと告げる。
そのひと言で、金レナの動きがピタリと止まった。
発言したのは、祭壇の主と思いきや、こちらの予想に反して青ポニの女性だった。
立ち上がった彼女が、こちらへ向き直って言葉を続ける。
「レナの不始末は、わたしの責任でもあります。どうかお許しください」
俺と、祭壇の主に対して深く陳謝するポニ髪。
どうやら、この女性もかなり人間ができているらしい――が。
「レナ。後で説教です」
「――!」
と、付け加えられた小さな声で、金レナの肩がピクリと震えた。
……むしろ、主よりも怖いのではなかろうか。
こんなところにも上下関係があるようだった。
彼女の介入によって、金レナの方もどうやらこれ以上口を挟む気はないらしい。
再び三者が膝を突いた頃、祭壇の女性が再び口を開く。
「ご迷惑を」
「や、大丈夫です」
そうは言う彼女らのご主人様だが、今の一連の流れを一体どう解釈しているのやら……。
俺としては、お年頃の微妙な隠し事を暴かれたようで非常に恥ずかしいやり取りだった訳なのだが……。
しかし、別段特に気にした様子もなく祭壇の女性はそのまま続けてきた。
「さて……。こうして貴方と初めにお会いできたことを光栄に思います」
「は……はぁ?」
俺が祭壇の女性の言葉を吟味する前に、さらに二の句が告げられる。
「もし、貴方にお会いしたのが別の神であったならば……今頃、この世界は再び戦火の海に――」
「え……? 神とか戦火ってあの……ちょっと?」
この一連の発言は、まるで祭壇の女性は自分のことを知っているかのような口ぶりだが、どうも別人と勘違いをされているように思う。
「失礼ですが……人違いでは?」
「……貴方からは、種族の記憶が抜け落ちているのでしょうか? その起源を遡れば、遥か昔ゆえ――」
「は、遥か昔って……」
どれだけ遡ろうが、十六年を越えた時点で俺はこの世に……や、母の胎内には居たか。
つまり、精々振り返ったところで十七年が関の山。
無論、その間に祭壇の女性と出会った経験など記憶にあるはずもなく。
「思い出せないのでしたら、改めでご挨拶致しましょう。終焉の血を引く古き破壊の神よ」
しゅうえんのち……?
古き……葉飼乃上……?
乃上といえば、俺の親父の名前だが…………さすがに違うよな?
――などとちんぷんかんぷんに考えている絶妙な間に、祭壇の女性から更に言葉が続けられる。
「わたしの名前は、ネル・ファリア。聖国ネハレムを守護する聖神――とも呼ばれている者です」
「……へ? あ、ご紹介どうも。俺の名前は――――――って、ええぇぇーーーっ!!??」
礼儀的にこちらもすぐに名乗り返そうとしたのだが、耳から入った言葉が脳によって処理された瞬間に命令系統が混乱した。
しかし、それすらも気にしません――といったように、ネル・ファリアを名乗った女性が紹介を続ける。
「そして、あちらに居るのが我が愛しき信徒たち――」
祭壇の女性が、膝を突く三者を順に手で指し示す。
「ルクシア、ルイナ、レナ」
紹介を受けた順に、屹立して一礼をする。
……最後のひとりだけは、ちょっとぎこちないお辞儀ではあったが。
青ポニがルクシア、青ストがルイナ、金髪がやはりレナだ。
「身の回りのことで不便がありましたら、何なりと彼女たちに言いつけてください」
「え……? あ、はい。って、あのですね……今、色々と混乱してて……」
理解が追い付かないところに「わたしは聖神です」なんて名乗られたらこうもなろう。
尋ねたいことが一瞬で山積みになったのだが、何が何やらで話のスタックが乗らない。
「はい。年頃の男性ならば仕方がない――という先の件でしょうか? 特に気に病む必要はありません。同意の上であれば」
「同意……?」
いきなり何を言い出すのかと思いきや、ふと話が少し前に戻ったのだと理解する。
そうして、後ろに控える女性陣にゆっくり振り向くと……
「ご命令とあれば」
「身命を賭して」
「…………」
金髪だけ無言ではあったが、こちらの意思とは裏腹に、別次元の速さで会話が流れているのが分かった。
何とかこの流れを変えようと思いはしたのだが、俺の本能は正直だ。
言葉の意味を探りながら、潜在かつ無意識的に視線は彼女たちの身体を追ってしまう。
「………………」
三人とも、見目ならばグラビアアイドルですらかくも――というまでの美女揃いだ。
滲み出る妖艶さこそ主には及ばないものの、とある一線を越えた美女とはもはや甲乙の付けられるものではない。
要は、放送禁止が放送禁止した以上放送禁止なのだ。
「ごくり……っ」
服の上からでも質量を感じるその上半身は、控えめに見てもD……いや、Eはあるだろう。
その曲線的なフォルムは、ある種、神の御業とも思しき芸術品ともいえ……
「いっ、いい加減にしないか! この破廉恥男め――!」
「おあっ――!? ご、ごめんなさい――!?」
怒声を張り上げるのは金髪、またも斬りかかってくるのかと思い即座に飛び退く俺。
「来るのか? 来るんだな――!?」というように、両手を顔の前に開いてスタンバイする。
しかし、命令のせいか確約された説教のせいなのか、金レナは引き下がると紅潮して自身の胸を両手で隠してしまった。
その豊かなボリュームとそういった女性的な仕草に何とも言えない高揚感を感じてしまうのがまた悲しい。
しかし、青の二者は全く違うことを考えているようだった。
「レナをご所望とは……」
「これが敗北――なのでしょうか? ルクシア様」
何故かうな垂れるふたり。
「違う、断じて違うからな――!!」
そんなルクシアとルイナという女性信徒に対し、俺は懸命に否定をした。
だが、そこはさすが彼女たちの主と褒めるべきか。
「ということは、まだ機会があると」
真顔で告げるのだが、その理解力は別方向でこちらの想像を凌駕していた。
「神だけに器が大きいのは知ってるが、今はそういう冗長性は求めてないって!」
向こうの世界でも、古来の神々にそういう風潮があったのは聞いているが、それを当て嵌めて貰っても困る!
いや、困らないけど……やっぱり困る!
「き、貴様っ! ネル・ファリア様に向かってなんて無礼な口を――!」
とうとう我慢の限界か白刃を輝かせて飛びかかってくるレナ。
そんな彼女を、問答無用の居合い斬り――峰打ちと思いたい――で後方まで吹き飛ばすルクシア。
ただニコニコと成り行きを見守るネル・ファリアは確信犯なのではないか?
しかし、中でも最も強敵なのは――
「では、参りましょうか」
そう言って、ちゃっかり俺の腕を引くルイナだろう。
どこに行くつもりなのか、俺は恐ろしくて聞くことができなかった。
全力で貞操は死守するつもりだが……
フタヤ、間違って噂の階段を先に登ってしまったらすまない。
お前が登った場合は間違いなく犯罪だから、いずれはそうなるのかもしれないけど……。
一応、心の中で親友に詫びておく。
別に、彼の為だけに貞操を守る訳ではないことだけは付け加えておこう。
不潔――という理由で、俺は殺される訳にはいかない。