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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第一章 キッカケが整うまで
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第8話




 「そうだな。もしあれが本当に人の扱えるものであるのなら…いや、そもそも人の目に写るものですらないのかもしれん。それを手にした者が、このゲームでどのような末路へ導くのか。今の我々には、わからぬことだな…エナ」


 「それを知るときが来るまで、待ちましょう」



 ゼウ商会へ入会した俺は、早速幹事長であるゼウから仕事をもらった。同行人に、プレイヤーのエコーズと、NPCであるチェーンがいる。東コロッセオ工業支社から受け取った運搬物を、工業地帯に運ぶというのが、今回の仕事だ。恐らくこういった、物資運搬の役割を、ゼウ商会は行っているんだろう。もちろん、これもお金の流れを左右する大事な仕事だ。…と、思う。実のところそういう方面に詳しくはない。実際の世界とこっちとじゃぁ、仕組みとか色々変わってくるだろうからなぁ。


 「そう。さっき言った話だけどね」

 「え?」

 「私と、エナの間柄さ。実は彼とは古くからの友人でね」



 …エコーズ、一体何歳だ?



 「よく遊んでいたし、パソコンゲームも一緒にやってた。今回まさかこんなシステムのゲームができるとは思わなかったから、真っ先にエナに声をかけたんだ。一緒に組もうって」


 「そういえばエコーズ、ある人から聞いた話なんだが…このゲームが発売される前から、いくつかの情報交流があったとかなんとか」


 俺がそういうと、エコーズはその事情を知った顔をして、俺のほうに話しかけてきた。やはり予想通り、エナも、エコーズも、そのあたりの情報を手に入れていたんだろう。


 「あぁ。インダストリアルヘブン社が公開していない情報が、一時期ほんの一部だけ広まった。それが商会のことでもあり、都市の仕組みや上層下層といった隔たりも、情報として広まった。既に発売が決定していた時だったから、情報を入手する人は多かった。そして私たち二人は、膨大な数の商会名を手に入れた」



 やっぱり、そうだったか。

どうりでこんなに詳しいわけだ。ゲームは今日開始したばかり、なのに既に商会の一員としての振る舞いがよく出来ている。その裏の操作があれば、辻褄が合うというか…納得はできるな。


 「貴方たち、もしかしてあっちでハッカーとかやってるんじゃないよね?」

 「いやいや、違うよ」


 リアルの話が早速入ってしまったが、NPCたるチェーンもそこに混ざって話をした。こういった自然の流れでリアルな話ができるなら、まだいいほうだ。少なくとも、俺はそう思えるな。

 エコーズが言うには、昔からオンラインゲーム、特にRPGタイトルのゲームだと、情報操作や入手は必須の作業だという。その点に関しては、俺も同意する。だが、情報操作という点に関しては、俺は実際にやったことがない。実際に情報の発信者となること。それがたとえ嘘の情報であっても、発信者は偽名を使えば特定される場合が少ない。匿名性の保証された掲示板だったりすると、なおさらバレない。このゲームにおいても、十分起こり得ることだ。


 「さーて、着いたよ二人とも!」


 チェーンがそういうと、下層の暗い街に立つ中規模の建物が目の前に見えた。どこにでもありそうな、普通の建物だったが、ここが東コロッセオ工業支社らしい。ここで実際に製造している訳ではなく、この支社では生産された物を都市へ流したり、逆に工場へ運搬したりする、いわゆる中継点の役割を担っているそうだ。よくもまぁこんなとこに…。


 「ゼウ商会幹事のエコーズです。予定通りお伺いに参りました」

 「やぁやぁ、お待ちしてましたよゼウ商会さん。今回頼みたいのは…」


 もしかして、既にお得意さんなのかな?

エコーズにとっては初めても同然の仕事なのだろうが、恐らくNPCであろう向こうの人は、ゼウ商会を知って気前よく挨拶してくれた。NPCが既に世界を動かしていたように、この商会もこの支社も既に動いてたんだろう。


 「…です!どれ一つ欠けても成り立たない製作なんで、よろしくお願いしますよ!」

 「では、私の方で業務受付をしましょう。…アレン、チェーンから自走車の手配方法を教えてもらってくれ」



 そういや、さっきから気になってた。ゼウも言ってたけど、自走車って何なんだろう?って、俺が思ってるのをわかってたかのように、チェーンは自慢げに話し始めた。


 「自走車というのは、運転手がいないけどコンピュータが勝手に操作してくれる車のことを言うんだよ!」



 あー、タクシーみたいなものか?現実の世界にもほしいって、一瞬で思ってしまった俺。ただタクシーは高い金とられるからなー…。



 「それで、どうやって手配するんだ?」

 「システムの、依頼ってとこ、クリックしてみなよっ」


 チェーンに言われるように、俺はシステムを起動させ、依頼のページを開いた。いつの間にか、依頼の一件目に進行中のクエストが表示されていた。これ、一体どうやって進行中になったんだ?

 タイトルは「ゼウ商会初仕事!(強制イベント)」と書いてあった。イベント類の依頼仕事もあるってことで、いいんだろうか。恐らく強制でない依頼はすべて承諾形式でやるんだろう。でなきゃ困るだろうけど…。


 「たぶんね、右下の方に自走車を手配って、あると思うんだ。そこを押して、自分の位置情報と使用目的を送信すれば、結構すぐにやってくるよ」



 本当に便利なもんだ。付け加えてチェーンが説明してくれたが、この自走車は依頼を進行中のときでしか使用することができない。つまり、俺がタクシーとしてどっかへ行こうとしても、こいつは来ないわけだ。しかしまぁ使い方によっては、クエストを進行させ、自走車で移動することも可能…



 「これ、ホントタクシーとしては使えないからね?車手配するには目的も書かなきゃいけないし、それに一定の積載量を満たしてなきゃ呼べないからね!」



 …ではなかった。残念。ありがたい情報だよ、まったく。チェーンの話では、フリーで行動中のときは、絶対車があった方がいいという。確かに車を買うにはお金がかかるし、まず免許が必要だ。現実じゃ免許を取るのも車を買うのも高額な金額だ。だが、この世界でも中古車市場があったり、バイクみたいに、一人用の移動車両もあるようだ。


 「それに、免許取るのは一日で出来るからね。場合によっては、すぐ乗れるんだっ。あ、そう言ってる間に来たよ」


 先ほど教えてもらった手順で、俺は手配を済ませていた。ここまで来るのに約3分ってところだっただろうか。本当にすぐ車はやってきた…現実じゃトラックみたいな大きさか。これだったら、今回の運搬物も難なく運べるだろう。

 そのあと俺たちは力仕事に入った。工場で使う数々の物を、傷一つ付けずに車へ運ぶ。恐らくここが一番山場だろうな。



 「よし。じゃぁよろしく頼んだよ!」

 「わかりました。いつもありがとうございます」


 俺たち三人は自走車の中へ入り、目的地を指定した。すると、トラックのような車は浮力を得て、動き出す。普段なら体が後ろに持っていかれる力があるが、今はふわっと浮いた感覚であった。リアルなら、飛行機に乗らないとこういう感覚は持てないだろう。不思議なものであった。俺がもし車を購入すれば、いつもこういう感じになるんだろうな。

 自走車で街を離れ、約30分。目的地へ辿り着く。工場の駐車スペースは、こういった運搬作業の流れを理解しているのか、物凄く広く取られていた。俺たちにとっても安心だ。支社で受け取った物を車から運び出し、ゲートを超えて営業部のところまで持っていく。


 「おーいつもありがとう!助かるよ。どうやら初めての顔もいるみたいだね」

 「ゼウ商会の幹事、エコーズと言います」

 「新入りのアレンです」


 「そうかそうか!これからも、よろしく頼むよ!」



 なんだか嬉しいな。これが一つ仕事をこなす、ということなんだ。今回の相手、東コロッセオ工場は、ゼウ商会にとっては既に良い仕事関係にあるようだ。だがこれからプレイヤーが数多く占めれば、色々とやり方も変わってくるだろう。そんな時、こうやって仕事をこなして喜んでもらえれば、こっちも嬉しくなるな。

 中々変わった楽しみ方だとは思う。けれど、楽しいことに違いはないんだ。


 『依頼を完了しました!-報酬:3.000コロン-』

 『初めての依頼を完了しました!ゲーム権利が1から2へあがりました!』


 システムが起動して、次々にメッセージが表示される。依頼をこなすことによって、報酬を受け取る。現実での仕事と同じことだ。恐らく毎回こうやって依頼をこなせば、こういう表示が出るんだろうな。3千コロンという金額が、この世界の報酬として高いのか低いのか、今の俺には分からない。だが、やってくうちにきっと、分かってくるだろうな。


 「さーて、じゃ帰ろっか!」


 どうやらこの自走車、タクシーには使えないが、手配したポイントまでは戻ってくれるようだ。便利。ちなみに後から聞いた話なんだが、商会は皆この自走車システムに毎月契約金を支払っているらしい。その分、毎回の使用にコロンは必要ない、というものだ。

 俺も自走車に乗ろうと駐車場へ向かおうとしたが、その時俺の目に写った黒い物体が気になり、思わず足をとめた。


 「んー、どうしたのー?」

 「ちょっと待っててもらえるだろうか!」


 と、俺は相手方の返事を聞かずに、急いでその物体の方へ向かった。かなり近い距離だったから、エコーズもチェーンも追うことなく、その場で見ていた。わずかに光っていたように見える黒い物体は、何となく見覚えがあった。


 「…やはり…!」



 いや、そんなに高価な物じゃない。簡単にいえば、セーブポイントだ。期待していた人がいたら申し訳ない。

 俺が黒い物体、つまり石碑に近づくと、一瞬の光とともにアイコンが表示される。それを手で触れた瞬間、またシステムに通知がやってきた。


 『未公開のセーブポイントを発見しました!-セーブポイント発見ボーナス:アイテム[回復スポーツドリンク×2]』


 おー、すごい。思わず笑みを浮かべてしまった。未公開のセーブポイントを見つけるだけで、ボーナスが入るなんて良い仕様だ。このスポドリはあれだな…豪傑のNPCが俺にくれたやつと同じっぽいな。ありがたい、受け取っておこう。


 「よく気付いたなアレン。俺も、登録しておこう」

 「凄いな。発見ボーナスもらえたよ」


 そうしてエコーズとチェーンもセーブポイントを確保する。


 「…あれ?私何ももらえない!」

 「え?」

 「私も、何ももらえなかったな」

 「何故だ…?」



 考えられる理由はいくつかあるが…しばらく経ってまた来れば供給されてる、なんてことはないだろうし…あ、ということは?っと、俺が言おうとした瞬間に、エコーズが話してた。



 「未公開のセーブポイントって表示が出るんだ。恐らくこれは、アレンが初めてこのポイントを見つけたっていうことになるんだろう。現に、アレンだけがボーナスを得て、ゲーム権利値ももらった。未公開のものなら、誰かが先に見つければ、その人にボーナスが入るという仕組み、なのかもしれない」


 「なるほど…よく出来てるなぁ。これ、チェーンも知ってたの?」

 「いや知らない!初めて聞いたうわーそうだったんだ!!」



 NPCだから知っている、という認識はやめといた方が良さそうだ。何せ、チェーンのその表情ではっきりとわかる。これはなおさら無数にあるらしいセーブポイントを見つけるのが楽しくなってきそうだな。


 「セーブポイントを色々なところに確保しておくのは、とっても大事だよ。この世界でいつ死ぬか分からないからさっ」


 「この世界での死ぬ、か…」

 「ほら、この世界も当然、人殺しが出来るからさ?戦争中ってこともあるし…」



 人が人を殺す。ゲームなら、あっても不思議ではない。現実にもあるんだから。




 Space Fantasy Game

 ―はじめての、お仕事―





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