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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第一章 キッカケが整うまで
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第7話




 ゼウ商会か…響きは良いな。



 「エナさんも、このゲームにはログインしたばかりでは…」

 「エナ、で良いよ。プレイヤー同士なんだからさ、堅苦しいことは無しにいこう。敬語も、使わなくていいよ」



 エナ、はそう言ってくれた。なんだろうな、画面の向こうにいるプレイヤーと違って、この世界では人と人が当たり前のように話す。となると、なんともオンラインゲームのように気楽に話せないな。慣れていけば何の問題もないんだろうけど。


 「お隣さんも、あっちの方も、沢山の人を勧誘して、事業を拡大しようとしている。もちろん、利益を得るため。自分たちにお金が回ってくるようにするため。だけど、僕たちは違うんだ。そういった大規模な活動をするんじゃなくて、大規模な活動を支えるための柱…と言えば良いかな、その役に付くための仕事を展開しようとしている」


 「大きな建物には、必ずそれを立たせるための柱が必要だからな」

 「そういうことだ。だけどアレン、これは決して格下の存在でいるという訳じゃないんだ。僕たちにも、彼らとは違った狙いがある。彼らが目指す流通を支える柱になることだけじゃなく、僕たちを信頼して仕事を依頼する顧客の確保…いわば、社会の一端を担うために、仕事をするのさ」



 そんなに難しい話じゃない。ゲームをする、にしては中々変わってるとは思うけど。エナも、当然自分たちの資金を確保するための仕事だと思っている。だけど、それだけで終わらせない辺りが、俺がエナ、いやこのゼウ商会を気にした原因かもしれないな。



 「なんでゲームでそんなこと…って、思うかもしれない。けど、そんな地味な道でも、もしよかったら、僕たちと一緒に行動してほしい。どうかな」



 確かに、他の人が聞いたら馬鹿な話だ、と思うかもしれない。ゲームの中で現実でやっている仕事をするようなものなのだから。もしこの話を聞いたプレイヤーがいたとして、何人この商会に入りたがるだろうか。こう…言っちゃ悪いかもしれないが、恐らく殆ど無いだろう。具体的に、まだどの商会も軌道に乗っている訳じゃない。

 だけど、なんというかな。エナを信じてみたくなった、というか…まだ会って数分しか経っていない相手に、なぜこんな感情を持つことが出来るんだろう。不思議だったが、否定は出来なかった。



 「よし、分かった。やってみよう」

 「うん、ありがとう。よろしく頼むよ、アレン」



 こうして俺は、ショッピングモール内で数多く勧誘活動をしていた商会の一つ、『ゼウ商会』へ入ることに決めた。そんなに難しい話じゃない。このゲームの基本方針が、やっぱり仕事のようなものをこなして、毎回の資金集めをするところから始まる。その後で、自分のやりたいようにやればいい。ゼウ商会は、自由を手に入れるための最初の段階だと思えば、まずは、ね。


 「早速ゼウ商会のオフィスに案内したい…ところだけど、時間大丈夫かい?色々設定とかしていたら、リアルの時間も大分経っているところだけど」


 エナにそう言われ、俺はシステムから状態で時計を確認した。ネットワークで現実世界の時計を確認できるのは、本当にありがたい機能だ。楽しさのあまり現実の時間を忘れては、いつの間に夜が明けてた、なんてことになっても困るからな。んーと…今は夜の7時前ってところか。



 「いや、一度ログアウトして、向こうで夕食を取ってくるよ」

 「分かった。アレン、セーブポイントは知ってる?」

 「あー…いや、分からない」


 お恥ずかしい話だ。どうやらその場でセーブしても、再ログインした際のポイントは同じところでは不可能だそうだ。エナが言うには、このゲームには無数のセーブポイントがあって、中立都市のお偉いさんがプレイヤーに教えてる数の何十倍もあるらしい。あれだな、セーブポイントを探し回るというのも、楽しいかもしれない。


 「なら、このショッピングセンターの1階北側入り口付近の広間に一つあるから、そこへ行くと良いよ。僕はここで待っているから」


 「分かった。何から何まですまない」

 「いいや大丈夫だよ。気にしないで、いってらっしゃい」


 エナが言ったように、セーブポイントまでやってきた。ショッピングモールにはちょっと似合わない、石碑のようなものがそこにはあった。恐らくこれだろう。近づいてみると、石碑の右側面にアイコンのようなものが現れた。なるほどな…ある特定の物に対してイベントが発生したりすると、こうやってアイコン表示が出るようだ。ここは昔ならではの要素かもしれないな。ほら、どっかのゲームでも、人に話しかけようとする時、その人の頭の上にAボタンが表示されたり、するよね。



 「…戻ったか」


 やっぱり、ゲームの世界へ自分が入り込んでいくのには、少しばかり抵抗がある。もし現実に戻って来れなくなったら怖いなんてもんじゃないからな。それでも、ゲームは楽しい。当然疲れは感じるが、いずれ慣れていくだろう…とりあえず、飯食うか。



 「…」




 …普通、か。

この、ゲームにいた時の感じと、現実に戻った時の感じが、なんとも言えないな。別に、現実がつまらない日常だとは思わない。学校はそれなりに楽しい。このゲームがあまりに引き込み過ぎなのか。


 既に周りは暗かった。雲が厚く、雨が降ってる。窓を開けっ放しにしてたから、網戸を通り抜けて床が少し濡れてる。どっかの北国…いや国内だけど、そこと比べたら全然暑い方だけど、今は涼しいな。

 そういや、向こうで焼き鳥セットを食べたが、こっちでは普通に空腹感はあるな。やっぱりその辺りは現実とは違うんだろう…。その後で、俺は適当にインスタント食品を温めて食べ、シャワーを浴びてから、ゲーム内へ戻った。エナに待たせちゃ悪いからな。



 「おかえり、アレン。少しは休めた?」

 「あぁ、大丈夫だ。待たせてすまない」

 「大丈夫。僕も裏で少し休憩してたから」


 エナは少しだけ笑みを浮かべて俺にそう言った。その後すぐエナから話を聞いたが、結局プレイヤーは俺以外に入会しなかった、と言う。ちょっと悲しい気もするが、まぁ仕方ない。位置関係もある。

 ゲーム内の時間も、夕方になっていた。エナは、今日は引き上げると言って、勧誘をやめた。俺が良いのか、と言うと、今日は大丈夫とエナは言った。


 「プレイヤーは、僕たち以外にもう一人いるんだ。それから、NPCもいて合計で6人だ」



 果たして6人を商会と呼んで良いのかどうかは、俺には分からない。が、それでもエナは仕事があると言っている。どうしてエナは、ログインしたばかりのプレイヤーでそこまでの情報を持っているんだろうか。やはり…あの豪傑のNPCが言っていたように、このゲームが発売される前から情報を集めていたのかな。

 とにかくも、俺はエナに案内されて、オフィスまでやってきた。途中、なんとあの空飛ぶバスに乗って、下の層までやってきた。中々新鮮で面白い。毎日飛行機乗ってる気分になれるな、あれは。


 「もう一人、連れてきたよ」

 「エナか、お疲れ様だ。そして、初めましてアレン君」

 「あ、あぁ。初めまして」


 いや、ホントに、誰がNPCで誰がプレイヤーなのか分からない!この世界は。俺を含めたプレイヤーが3人、NPCが3人か…って、女性もいるぞ。


 「私がプレイヤーでゼウ商会の幹事をしている、エコーズだ。実は、エナとはちょっとした古い仲でね」


 あぁ、なるほどそういう事情があったのか。もしかして、このゼウ商会の話を知ったのも、この二人が前々から情報収集していたから、なんだろうか。だとしても、今日のログインですぐに幹事になるとはすごいな…見た感じ好青年だ。


 「俺の名はフェデル!ま、この世界で作られた人だ。よろしく頼むぜ!」

 「私はチェーン。フェデルと同じで、この世界の住人みたいな感じだね。アレン君、よろしく!」

 「ちょっとした老いぼれだが、このゼウ商会の幹事長ゼウ、ゼウ・キャシディーだ。新たに入ってくれたこと、嬉しく思うよ。この商会は今、NPCである俺たちが仕事をしていたが、これからはプレイヤーの力を借りていく。忙しい時もあるだろうが、一つよろしく頼むぞ」


 「アレンです。微力を尽くします」



 これが、ゼウ商会の一員だった。たった6人しかいないが、そこには当然個性がある。こんなに背の高い中立都市だというのに、商会のオフィスはほぼ一番下の層にあった。上の町に比べると、街並みは綺麗ではない。太陽の光だってそんなに入って来ない。まるで、廃れた街並みが並ぶ裏町のような感じの場所だった。狭苦しい薄汚いオフィスに集まった、俺を含めた6人。これからいろいろやっていく仲間として、俺たちは色々な話をした。


 「ゲームに入った時から気になっていたんだが…システムの状態のところにある、ゲーム権利って?」


 「あぁ、それはねアレン君、この世界である程度のことをしたり、物を買ったりするのに必要な準備みたいなものなんだ。私たちNPCも同じで、ゲームの運営が始まったら、ゲーム権利のシステムが動いてる。たとえば、この商会で仕事をこなしたりすると、その権利は高くなって、買える物が増えたり、車の免許が取得出来たりするんだ」


 「流石、よく知ってるね」

 「こんな情報ソロプレイしてる人には分からないだろうから、お得なんだよー?」


 「ありがとう。覚えておくよ」



 一様、俺の目の前にいるエナとエコーズは、プレイヤーだ。プレイヤーともなれば、リアルでの話もすることが出来る。だが、俺個人としては、NPCが目の前にいる時に、リアルの話をするのは避けようと思ってる。俺たちだけの話で、あの三人には入って来られないからな。


 「さて、じゃ早速だが一つ依頼を受けてもらおうか。ちょうどいい、初めてきたアレンにやってもらおう」


 「お、いいじゃんかアレン!初仕事だぜぃ」



 あまりに突然すぎないか!?普通に会話していただけだが…でもまぁ、俺個人気になってはいた。このゼウ商会がどういった仕事をしているのか。具体的に。幹事長たるゼウが、俺とエコーズとチェーンを指名して仕事をやらせることにしたようだ。


 「最初だ、仕事は簡単。まず三人でこの街の東側にある東コロッセオ工業支社に行って、運搬物を取って来い。その後自走車を見つけて、街の郊外にある東コロッセオ工業団地の営業部に届けてこい。出来るか?」


 「やってみます」

 「行こうか。二人とも」

 「はぁーい」


 エナが言っていた、大企業を支えるための柱。その柱になるための仕事。あれは企業に限ったことじゃなくて、こういう街を支えるための意味も含まれてたんだろうな。上層部があんなに栄えていて、こっちはボロい街並みだ。だけど、こっちに工業団地が集中してるなら、あらゆる生産システムはこの下町に集まってるって、考えていいだろう。

 ということで、俺たちはチェーンを筆頭に、さっそく運搬物を受け取るためにオフィスを出る。一体、どんな運搬物だろうな。



 「エナ。なぜ彼を選んだ?」

 「…ただの直感です」

 「なるほどな。エナは信じてるのか?運営が始まる前から言われていた、あの存在を」



 「もしあるのなら、ぜひ見てみたいですね。しかし…それが人に、いやプレイヤーに扱えるものかどうかは、分かりませんが…」



 エナは、右拳を軽く握りしめ、窓から暗い外の街を見る。




 Space Fantasy Game

 ―商会は、こんなところ―




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