第6話
「…戦争…」
とりあえず、プレイヤーとしての認証はしてもらったし、初期資金もいただいた。メニューは後で確認するとして、何よりこれからどうするかってところだが…どうやら、並々ならぬ事情…というべきか、設定があるようだ。
「話は意外とあっさりしてるかもしれん。お互い領土拡大に燃えてるという感じだ。この世界が運営を開始してから、NPCは戦争を開始している。だがな、この中立都市は攻撃を受けないんだよ。もし領土が全滅しても、ここは残るって訳さ」
「なるほど、それでこの都市も広いんですね」
「良い勘してるなお前さん。もっとも、相手方の領土を全滅させるなんて、普通出来ないんだけどな。あまりに規模がデカすぎるもんでね」
どうやら、この惑星…んまぁ地球なんだが、ここには中立都市が10もあるようだ。そしてこの人の話じゃ、地球圏や太陽系は共和国の領土になっているらしい。
「んでな、これはプレイヤーとなった人が絶対に決めなきゃならんことがあるんだ。もう察しがついてるだろ?」
「つまり、帝国か共和国か、陣営を選ばなくてはならないんですね」
「そういうことだ」
はぁー、参ったな。まさかそんなことを一番初めに決めなきゃならんとは…この世界も奥が深いんだろう。とにかく俺は、まずこのゲームで何かをする前に、どちらかの国を選ばなきゃいけないらしい。俺が知らない未知なる惑星の彼方が帝国領、そして俺たちがよく知っている太陽系惑星の数々が、共和国領みたいだ。どっちにしたものか…。
「戦争は今、NPCが各地で行ってる。だが、今日新たにプレイヤーがログインしたことによって、色々と変化はあるだろうな」
「プレイヤーが戦争を主導する形になりそうですね」
「運営側もそう考えてるだろうさ」
この人の話を聞いていると、この人がNPCであることを本当に忘れてしまいそうだ。それくらい、プレイヤーに似せて作られているということなのか。うまくは表現出来ない。
じゃぁ、ここで少し紹介しておこう。この人の話を簡潔にまとめると、とにかく両国は領土拡大を進めるために、戦争をしている。現在はどちらとも同じ情勢だが、プレイヤー次第で、傾く可能性は十分にあるってことだ。俺たちプレイヤーは、ログインすればどちらの国かを決めなきゃならない。しくじったかな、あと一週間でも遅くログインしてりゃ、戦争の情勢が変わってたかもしれん。
…って、何勝ちを目指してるんだか。でも、死ぬのはあまり好ましくないな。恐らくこの手のゲームは、デスペナルティがあって当然だろう。
「ちなみに、この周囲は共和国領だから、帝国を選んだら、プレイヤーはワープゲートに移動させられるぞ」
「ワープゲート…?」
「あぁ。最初の選択で帝国を選んだ人が使える、帝国領へ一瞬で飛べるゲートだ。普通は使えないから、覚えておけよ?それから、この選択はシステムの状態からしてくれな」
国の選択か…思った以上に、悩む。取り敢えず考える時間が欲しいな…ということで、窓際のカフェの椅子に座った。相変わらず眺めが良い。車が空を飛んでいて渋滞を起こすというのが、凄い話だよな、ホント。
さて…どうするかな。ゲームアカウントは、一人につき、一つだ。恐らく陣営は固定化されるだろう。まぁ恐らく途中で移ることも可能だろうが、選んでからしばらくはその陣営で生活することになりそうだ。たとえ移ることが出来たとしても…プレイヤー間でその情報が知れ渡れば、売国奴、なんて言われ方もするかもしれん。
「…」
いつまでも、中立都市にいるつもりはない。だからといって帝国主義を望むわけでもない。お互いの魅力は多くあるだろう。しかし…
『陣営を反映します。この設定は半永久的に継続され、後から変更することは出来ませんが、よろしいですか?』
「一つ、これでやってみるか…!」
俺は、【共和国】を選んだ。
特別な理由があったからではない。何も目的も分からない状態でこの世界に入り込んで、最初に選んだ決断。この後どうなるのか、俺にも分からない。だが、この世界は広い。そのはず。やることは沢山あるはずだ。
システムで共和国の設定をすると、自動的に帝国の選択肢が消えた。それからすぐに新しいお知らせが届いた。
「なるほど…」
これも運営からなのか、それともこのゲーム内のメッセージ管理者からなのだろうか。詳しいことは分からないが、とりあえず俺はシステムに、新たに[マップ]が増えてるのを確認した。説明は、文字通りだ。他の太陽系惑星へのマップも追加されているが、惑星内部は全く分からない。今は、この地球の中立都市コロッセオの地図が表示されている。今俺がいる場所は、地上からかなり高い位置にいる。周りを見れば明らかだけど。
さて、ようやく一段落ついただろう。ここまで長々とあらゆる設定をしてきた訳だが、こういうゲームにはあって当然のものだろう。何か一つでも抜けてれば、プレイヤーにとって不利に働く場合も、あるだろうしな。まず何をするか…そうだな、とりあえず街を歩いてみるか!
「何事も見てから、ということにしておこう」
なんて、一人で呟いてた。気付かぬ間に。とにかくまずは探検だ!
この世界は広いんだから、色々見て楽しむってやり方もあるだろう。逆に…これだけ広いんだったら、どっか運営の手の行き届かない、不整地があったり…?
ということで、俺は建物内部の大きなショッピングモールにやってきた。この辺りはなんというか、現実に似てるな。規模はすごくデカい訳だが。
食べ物を売る店もあれば、服とかブランドとか、そういうのもある。なんだろうな、この世界に来ても現実的な服装は出来るって訳か。
そういや、空腹とかどういう設定になってるんだろうな?システムの[状態]には、そういうのは書いてなかったが。
「…何か、買ってみるか」
さっきの豪傑NPCからもらったスポドリっぽいやつは、一個大体100コロンだったな。物価はどこから参考にしてるのかは分からんが、まぁ食べ物でも一つ買ってみよう。
「らっしゃい!何にします?」
「焼き鳥、5本セットで」
「あいよ!460コロンになりまーす!」
何となく、日本と似ている気がした。初期資金の一部を使って食べ物を買う。現実的な話もあるじゃないか。
「…美味いなこれ」
思わず口にしてしまった。いや、普通に美味い!良い感じにジューシーでタレもきいてる。周りは屋台みたいな感じだが、それだけでも十分に楽しめそうだな。プレイヤーの中にはそういう楽しみ方を望む人も、いそうだな。まぁNPCとしてはここでプレイヤーにお金を使わせたいところだろう…。
さて、今の時間は…んー、なんやかんやといろいろやっていたら、こっちの世界は夕方になりそうだな。ちなみに、システムの中では、現実の俺たちの時間も把握することが出来る。親切なもんだ。でも、現実の時間が分からないと、ログアウトしてみればいつの間にか夜明けだった、なんてことになっても困るしな。
…睡眠、どうすれば良いんだろうか。ふと気になった。
「お、あんたプレイヤーかい!?」
「え、まぁはい」
突然話しかけられたから驚いた。この人もNPCか…それともプレイヤーか?何度も言ったが、本当に区別がつかない。でもこんなとこで案内役をやってるとこを見ると、プレイヤーではないような気がするな。
「あんた、もう商会には入ったかい?」
「商会…なんですかそれは」
「おやおや知らないのか!このゲームには毎日幾つもの仕事が動いているんだ。商会に入ることによって、毎日の生活資金や武器などの購入資金を得ることが出来るってわけさ!」
なるほど。この人の言う商会が、わりと簡潔な説明で良かった、と思う。ここへログインしたプレイヤーは、一つの金稼ぎの手段として、都市に幾つもある商会へ加入するって訳だな。
「具体的に、どういった仕事を?」
「簡単なものから難しいものまで、色々さ!運搬や製造、鍛冶なんてのもある。このゲームはSFゲームとして、大宇宙を転々と出来る要素があるけど、何よりも人が物を作らないことには、始まらないからねぇ!」
あー、なるほどなって、思う。確かにそうだ。この世界はゲームだからといって、なんでもかんでもすぐ用意出来ている訳じゃない。あの飛んでる車もきっと、安いものから高いものまで、性能差もあって、でもそれは誰かが最初に作ったものが売られていて…ふむ。それを作るのも売るのも、俺たちプレイヤーやNPCの仕事なのかもしれないな。
そうして得た資金は、誰がどう使おうがその人の勝手。良いな。
「まぁ、でも商会は色々種類があるからさ!俺たち以外の人の話も聞いて、もし俺たちのとこで良かったらまた来てよ!」
そういって、その男は俺にパンフレットを渡した。「ルピス商会」、それがあの男の所属する商会のようだな。
俺はあの男の話を聞いて、すぐに考え付いた。確かに、ゲームだからといって、お金がいくらある訳でもない。なんだかんだ言って、資金が無ければ自由を手にすることは出来ない。現実と似たもんだな。なら、商会に入って金を稼いで、色々体験してみよう。
それからの活動は、殆ど商会探しだった。まぁすぐにいいとこ見つかるだろうって思ったが、思いのほか商会は数が多い!沢山の人がいて成り立っている商会もあれば、これから規模を拡大していこうってとこもある。まだゲームの運営は始まったばかりだってのに、よくここまで作りこまれてるもんだ…。
「やぁ、兄さん。商会探しかな」
「はい。まだこの世界に来たばかりなので」
眼鏡をかけた優男っぽい人が、歩いていた俺に話しかけてきた。商会の勧誘は、特に俺が今いるショッピングモールの通りで行われてることが多い。他の場所でも勧誘はあるらしいが。
「やっぱりね。僕の名前はエナ。この『ゼウ商会』の情報係さ。皆と同じように、商会加入者の勧誘をしてるんだけど…ほら、一番端になっちゃったし、人があまり来ないものでね。君が5人目だ」
「そうだったんですか…あ、俺はアレンと言います。プレイヤーです」
「おっ…自分から名乗り出るプレイヤーなんて、珍しいね」
その言葉、そっくり貴方にお返ししますよ。
怪しい人ではなさそうだな。けど、確かにこの人が言うように、勧誘の位置取りのせいか、人は殆どこちらに来ない。商会は3日に一回、商会勧誘イベントの位置決定をしているようだが、初回ログインだというのに、このゼウ商会はハズレくじを引いてしまったようだ。そこまで素直に教えてくれるエナという人も、中々変わり者だ。俺と同じくらいの年齢に見えるが…?
「ちなみに、僕もプレイヤーだよ。君と同じようにね」
「っ…!」
「プレイヤーのようなNPCが多いから、こうやって案内してると、僕もNPCだって思われるよね、普通。でもそれが正しいんだ。気にしないでね。さて…もし良かったら、僕たちの商会の説明を聞いてもらえないかな?」
何だろうか。不思議だが、この人の話には…いや、この人の眼には、人を引き留めるような、気にさせるような…そんな力があるように思えた。とりあえず、聞いてみようか。
Space Fantasy Game
―あなたは、どっち?―