表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第一章 キッカケが整うまで
3/150

第3話


6/20 あとがき追加


 なんてことはない。

人は、興味を持ったある物に対して、たった一時であっても、所有欲が生まれるものだ。それを否定する人間は、一瞬そうは思っても、実際に所有することを拒む行為をするだろう。

 俺も、どっちかと言えば、欲しいと思ったものでも、あまり手を出さない方だ。お金を使うのはもったいない、そんなことを思って、何度失敗しただろうか。昔…といっても数年前、オンラインゲームで車のレースゲームが世界的に大ヒットした。当時の俺は、ゲームを動かすための本体も、もちろん、ゲームディスクそのものも、持っていなかった。ゲーム界での流行最先端、あの時に二ついっぺんに買っておけば、皆とオンラインで繋がって、一緒にレースが出来たことだろう。後悔したな、あの時は。

 俺がお金を出すのに渋って後悔しているうちに、高校生になってた。そして少し時間が経った後、アレの情報が飛び込んできた…。



 見逃せない。

こんな機会、次に来るか分からない。手に入れてしまえば、こっちのもん。そこまで俺が引き込まれるほど…いや、いろんな人が興味を持つだろう、新しいゲームタイトル。



 …もっといえば、従来のゲームプレイの常識を覆した、全くの、未知なるものだった。







 3週間前 5月中旬から、下旬にかけて。


 「零治ー、今日お前ん家行っていいか?」

 「何言ってるんだ。全然方向違うだろ」

 「ちぇっ!零治も俺の家の近くに住まんか?」

 「バカ」


 ここんところ、雨が酷い。別に強く降ってる訳じゃない。ただ、降り続いてる。地元の気象台によれば、9日連続で降ってるとか。勘弁してもらいたいね。

 テツは放課後になってもすることが無かったらしい。このやり取りは一週間に何度もしてる訳なんだが、あいつが俺の家に来たのは、まだ3回しかない。俺とあいつとじゃ、家が遠いから仕方ない。この間寄って、あいつが家に戻ったのは夜の9時だったらしい。親も心配しただろうな。申し訳ない。

 テツが帰路についたから、俺も帰ろうかと思った時。学校の図書館に借りた本を返すという、今日一番の目的を思い出した。授業は…まぁ、うん。そういうことだ。


 「ん…?」


 この図書館は、実は一般の市民でも利用できる仕組みがあるらしい。たまに地域のおじさんおばさんがここにいたりするのは、そういうことだそうだ。今日は普通にスーツの大人もいるし、もちろんおじさんおばさんもいる。なんてったって、町一番の図書館になってしまったんだ。高校生はどうにも図書館を日常的に使う意識は無いらしい。利用者はあまりいない。

 だが、町一番の称号があるからなのか、図書館は気遣いがある。今日もその一つ、各社の新聞がそれぞれの収納スペースの上に乗せられている。3日前までのやつは、その収納箱から引き出せば見れるんだったかな。

 その新聞、俺は普段見ない。一人暮らしで新聞を取るやつなんて、今時いるんだろうか。いや大人ならまだしも、子供がね…今はテレビやパソコンで、ニュースも映像も全部確認できてしまう時代だ。当然昔も今も、これからもそうだろう。ラジオも新聞も、廃れていく…というよりは、使われなくなっていく。お互いに違った楽しみ方があるのは、もちろん知っているが。


 

 「ゲーム世界、現実の人間へ体感実現」



 なんのことだ?現実の人間がゲームを体感できる…?それなら、既にロボットアクションゲームがゲーセンで実現しているが…?何やら興味深い。一面の見出しがそう伝えていたので、俺はすぐその新聞を取り、近くのソファーに座ってどれどれ、と見始めた。文字だらけの新聞なんて普段は見ない。目が痛くなりそうだ。

 しかし俺は、その内容をざっと見終えた後、信じられないほど、鳥肌が立っていた。



 「…まさか、こんな…!」




 新しいゲームジャンル。その名を「VRゲーム」、この記事で言う「VRMMO」と伝えている。従来のゲームは、当たり前のことながら、人は画面を見て画面の中の主人公であったり、自分であったり、操作する。最近では、ロボットゲーム、たとえばロボットのコックピットを再現したものがゲーセンに置かれてたりして、疑似的にゲーム世界を体感することは出来た。しかし、この記事が伝えているのは、そのいずれとも違う、本当に未開の地であった場所。


 自分自身が主人公となり、ゲームの世界で生活をする。



 思わず俺は目を見開いた。そんな夢物語が存在するのか、それは現実のものになろうとしているのか。答えは後者だった。この世界に、本当に新ジャンルが生まれようとしていたのだ。それも、あと3日で。なぜもっと早くこの情報を得ていなかったのだ、と俺は一瞬後悔したが、まだあと3日あるという気をも起こさせた。

 そう思っていたことを自覚した瞬間、俺の行動は決まっていた。自分でも驚くくらい、自覚も早かったし、決断はもっと早かった。レースゲームで後悔したことはあるが、最近ではパソコンでのオンラインゲームも少しかじり始めていたところだ。もっとも、スペックという厄介な奴があって、あまり綺麗な映像で楽しむことは出来ないが。しかし今回は、いつもとは全く違った。

 何度も、こんなゲームの世界観や、映画の舞台に憧れていた。それを実際に自分が体感できるのなら、それも、なり切って演じるのではなく、現実に俺の体でその世界観へ入って行けるなら…これほど嬉しいことはない。憧れを手にするチャンスだ。何を迷う必要がある?学校を一日休んででも、買いに行きたいくらいだ!…って、発売日は土曜日だな。

 おっと、記事の最後あたりが早読み過ぎたな。もう一度…





 ― インダストリアルヘブン社 代表取締役 尾形幸一郎 ―

  『今、新たな「箱」が開かれ、新たな可能性を実現する』





 3日後。

この小さな町にも当然電化製品などを取り扱う店はある。俺はその日の早朝に店に並んだ。先客が何名もいた。これは今日中には手に入らないか…?と思っていた。全国ニュースのあるコーナーが、今日のゲームの販売を特集している。首都圏のゲームショップなどにたくさんのカメラマンが配置され、同じく記者やアナウンサーもいる。俺の携帯はワンセグ機能つき。いつだってテレビは見られる。便利なものだ。

 そしていよいよ…待ちに待った朝の9時。開店と同時に、この列が一気に店の中へ…なんて混乱は起こらないように、店側もちゃんと対策しているようだった。それに気づいたのは、開店してからだったが、こっちとしては、身構えるほどであったので、なんだか出端をくじかれた感じになってしまった。



 「7万8千円になります」


 …正直、馬鹿みたいに高い値段だと俺は思う。しかし、値段は2週間も前に公表されていて、俺も3日前の新聞でそれを見た。生活費とは関係なく、俺の小遣いが一気に減った。当分は我慢だろう。だが!


 「ありがとうございます!」


 大きな箱を手にした瞬間、思わず店員に俺はそう言った。家に帰ってから、そういやそんなこと言ったな、と思い出した。あまりの嬉しさに、まるで小さな子供の頃に戻った気分であった。長い時間待ったが、後ろは長蛇の列だった。手に入らない人が大勢いただろう。中には、俺が箱を持っているその姿を見られ、睨みつけてくるやつや、笑みを浮かべて友人だろうやつと話す姿もあった。どうせ、妬みか何かだろう。オンラインゲーマーには、よくあることなのだ。

 だが、これは普通のオンラインゲームとはかけ離れている。その箱の表面に書かれた、一つの文章。「ゲームがすべてではない、現実もゲームも紙一重だ」

 これも、インダストリアルヘブン社の尾形さんが書いたものなのだろうか。気になりはするが、俺はとにかくも、それを持って走って家へ戻った。家には誰もいない。いるはずがない。こういう時、ある意味一人暮らしは役に立つ。というか、ありがたい。俺の行動を止める存在が少ないからだ。いやまぁ洗濯物の処理とかいろいろ…いや、いいんだ。とにかく、今は。


 「よしやるか…!!」


 と言うが、当然買ってすぐゲームが出来る訳がない。ゲームのデータ、ゲームを動かすシステムを、パソコンにインストールしなくてはならないのだ。更に、実際にゲーム内にキャラクターを設けるために、購入者はインダストリアルヘブン社の公式ホームページから、ID登録をする必要がある。この会社は他のオンラインゲームも展開しているから、既に登録し終えている人は作業が一つ早く進む。俺はIDから作らなきゃいけなかった。

 この国で同時に発売するのだから、ID登録の数は同時刻で爆発的に増えるだろう。会社側の工夫なのかどうか分からんが、箱の中には分厚い説明書と、一枚のA4用紙が入っていた。そこには、ゲームをパソコンにインストールするための基本、製品コードが書かれていた。ただ一回だけのインストールとし、他の端末でインストールすることを防ぐ手段だ。これが無かった場合、友達同士のパソコンでゲームを共有出来たりする。商売側としては、こんなことあってはならん。


 早くやりたい。プレイしたい。いつ終わるんだ。

なんてことを思い始めて、はや1時間。全体のインストール時間は4時間30分と表示された。この速度だけは、人によって違うんだろうな。仕方がない。俺のパソコンが特段優秀と言えるもんじゃないから、長くても、ね。その間に、俺は分厚い説明書を読む。



 15歳未満購入禁止。年齢制限がある。ゲームを購入する時に、徹底した身分証明を行う必要があったのは、このためか。ゲーム本体を体感するためには、箱の中でも一番大きな物体、ヘルメットを被らなきゃいけない…というのは、見た瞬間には分かった。専門的な語句を並べながら、本体の説明を行っている。サイコグラフィックスモニター…?

 接続の条件はまず一つ。ヘルメットから伸びるUSBコードをパソコン本体に接続する。直線でダイレクトに繋げ、曲げたり大きくカーブを描くように扱わないこと。それから、USBコードから伸びるサイコグラフィックスモニターと呼ばれる黒い小さな四角い物体に、ヘルメットから伸びる6本のコードを正しい色で接続する。この時、正しい色で接続されないと、いつまで経ってもヘルメットが起動しないらしい。なんとも良く作られた話だ。感心するね。


 「なんとなく、操作方法は分かったが…」


 すべて短時間で、理解は出来なさそうだ。操作方法と気を付けることだけはしっかりと押さえて、まずはそこから始めようと俺は考え付いた。それからも説明書を読み続けたが、まぁ上手くいくものではない。

 そして、ついにインストールが完了する。何と容量が470ギガバイト。冗談じゃない。だいぶん余裕がなくなってきたな…。


 「んと、まずはパソコン…」


 面倒だが、すべて手動で操作しなくてはいけない。でもいいんだ。これからやってくる世界のことを思えば…なんて、笑みが込み上げてくる。気持ち悪い人間だとか、思わないでくれ。

 一つ目。インストールしたデータのアプリケーションを起動させる。すると、このゲームのランチャーが起動し、特定のキーボードのボタンを押してヘルメットと連動させるようにする。どうやらボタンを押すと、赤表示になっていた画面上の円形三つが、黄色表示になった。この流れでいったら、ゲームに接続したら、恐らく青に変わるだろう。信号機だな。

 二つ目。サイコグラフィックスモニター本体の電源を入れ、回線番号というものを二桁入力する。これが何を意味しているのか、ちょっと理解に苦しむが、A4用紙に指示された通りの番号を入力した。サーバー整理か何かだろうか…?

 三つ目。ヘルメットの電源を入れ、右側面にある三つのボタンを押す。更に、ヘルメットからサイコグラフィックスモニターへ繋がるコードの途中に黒い物体がある。説明書には、これで指紋認証を毎回する必要がある、と書かれていた。恐らく、他プレイヤーとの共有を防ぐためのものなのだろう。ここで初めて、ヘルメットを装着するそうだ。これらの手順、どれか一つでも順番を間違うと、すべて一からやり直しになるようだ。



 「あとは、眠るように、と…」


 説明書にはそう記載してあった。何とも言えない表現の仕方だが、およそ1,2分で接続するらしい。

 いよいよ、その時が来た。興奮と緊張で心拍数があがる。待ちに待ったこの瞬間。この瞬間にも、この国中でこの感じを味わっている人がいるだろう。そんな奴らと、これから会うことになるのだ。それも楽しみだが、何より…も…、この、世界………。








 「箱は開かれた。あとは、プレイヤー次第だ」







 Space Fantasy Game

 ―あなたと、わたし―




この物語はフィクションです。現実の解釈と異なる設定が数多く見受けられると思いますが、架空の物語としてお楽しみください。


また、今話以降から、投降後の編集を行った際に、まえがきに編集のお知らせを時間を残して記載していきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ