表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第一章 キッカケが整うまで
2/150

第2話




 「俺たち、なんにもしてなかったら、良い奴なんだってさ」


 「俺たちに、特別なことは必要ないって」




 ただ、普通に生きていれば良い。よく、そう言われた。本当にそれでいいかどうかなんて、当時の俺には分からなかった。周りからすれば、激動の三年間と言うには程遠い、落ち着いた生活をしていたんだろう。ただ毎日朝飯を食い、朝練に出て、勉強し、給食を食べ、部活へ行き、泥だらけで帰ってくる。帰ってくれば、すぐ風呂へ入り、夜飯を食べ、そして一日で一番自由な時間がやってくる。

 いつの日か、その時間を他人に汚されたくない。そんなことを考えるようになっていた。それがある意味、一つ、人生の転機だったのかもしれない。ほんの小さな思い一つで…。



 西暦2040年 6月上旬



 「いってきます」

 俺はそう言って扉を閉めようとする。だが、声は届くことも、跳ね返ってくることもない。この小さな家には、俺一人しかいない。

 6月に入り、梅雨も本格的にやってきた。招かれざる客、追い返したい敵みたいなものだ。俺の住んでいるこの地域は、周りに山が多く、天候が変わりやすい。地元に住む人がいうには、この時期は太陽が顔を出すことが珍しいようだ。我ながら、おかしな土地に来たもんだ。


 ここまでの流れを見れば、大体は想像がつくだろう、と思う。俺は元々この地域には住んでいない。この春高校生になって、一人暮らしを始めた身だ。という訳で、この地域について、まだ詳しくは知らない。はじめは右も左も分からない、まさにそんな感じだったが、ある意味俺はそれが新鮮に感じられた。今までの当たり前の生活、とは違うものを得たような、そんな気がして。

 新しいもの?いや、なんというべきかな。とにかく「普通」という生き方、ごく無難に生きるという術が当たり前な田舎生活からは離れた。ここも田舎に近いだろうが…。

 けれど、悪くはない。高校生から一人暮らしをしてる奴なんてそういないだろうし、大変だけどやりがいはある。幸いにして、面倒だと思っていた学校も、この二ヶ月でそうとは思えないくらいに、印象が変わった。嬉しいものだね、仲間がいるっていうのは。



 「おいす零治!」


 ほら、学校についてみれば、すぐ大きな声で、俺の名前を呼ぶ奴がいる。俺がいつもこの時間に登校してくるのを知って、なんでかしらんが、この間から教室の窓を開け、顔を出して俺に声をかけてくる。

 あいつの名前は、原田哲哉。俺はテツって呼んでる。その方が、呼びやすい。わざわざ窓を開けて挨拶してくるくらい、元気な奴だ。そんな元気が俺にも欲しい…なんて、思ったりね。


 「早く上がって来いよー」

 「分かった今いく今いく」


 何回目のやり取りだろうか。お互いが何も言わなくたって、毎日こんなもんだ。当たり前のようなやり取りになってるが、何と言うか、何か、違う。詳しいことが分かれば、苦労はしない。

 教室についてみれば、まだ朝早いのに、既にクラスの3分の2の生徒が中にいる。なかなかどうして、みんな勉強熱心なのか。否、誰も机に向かってテキストを広げて、ペンを利き手に持っている奴などいない。みんな、友達と話してる。今はまだ良いんじゃないかな、試験まであと4週間だし…。

 俺がテツと話をし、席に座ると、すぐ近くで話していた女子の高校1年生三人が俺たちに話しかけてきた。白い襟に紺のラインが入り、紺のスカーフを身にまとう、うちの高校のデザインは、周りからは好評らしい。


 「相坂君原田君おはよう!」

 「おいすっ」

 「おはよー」


 たぶん、いや間違いなく、クラスの中では純粋な女性だと思われているその女子高生が、先に言葉を交わしてきた。彼女は、永倉友莉という。彼女が社交的なのか、あるいはこのクラスが他のクラスと比べ突出してフレンドリーなのか、詳しいところは分からないが、入学式1週間後には、もう普通に話せるようになっていた。奇妙な経験だった。今までそんなことを一度も経験したことはなかったので。


 「二人ともー、また夜遅くまで起きてたんだ?」

 「あったりまえさー!やめらんないからなー」

 「良いのかな?原田君この間の科学中間テスト…」

 「あー言うな言うな!ちゃんと勉強するっての!」


 その場にはすぐ笑いが生まれた。永倉さんが話す中間テストは、科学のみ抜き打ちで行われ、俺たちは先生の圧力を全面的に押し付けられた。満点はいないという。テツはその時のテストで平均点を大幅に下回る数字を叩き出し、危機感を覚えていたところであった。それが、この間のこと。今から約4週間前、だと思う。

 アレが出る1週間前だと、俺は記憶している。


 「相坂君も毎日してるの?」

 「あぁ。テツと同様、一度はまったら中々抜け出せないみたいだ」

 「そーなんだよそうそうそうなんだよ!だからさ、女性の皆様方もご一緒に―」


 なんて、テツが言っても、女性たちは相手にしてくれない。「高いから」「中々行動には移せない」などと、言う。

 さて、たぶん他の人がこの会話を聞けば、お前たち一体何の話しているんだ?となるだろう。


 「もちろん零治、今夜も潜るよな?」

 「あぁ。やっと情報を手に入れたからな」




 そう。俺たちをここまで引き込んだ、アレが、昨晩も、そして今晩も、今も開かれ続けている。

 それは、今から3週間前のことになる…。





 Space Fantasy Game

 ―彼らの、生活―


読んで下さってありがとうございます。

次話から、一話分が更に長くなるかと思います。今後の展開を待っていただけたら、と思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ