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誰でもいいから愛してほしい

作者: 丁斗
掲載日:2026/03/07

 薄々気が付いていたことを直視するタイミングが来た。知人の紹介で出会い、2か月半付き合った初めての彼女から別れを切り出されたからだ。原因は明らか。私の言い方の問題。LINEから優しさが感じられないと言われたとき、腹が立った。

 彼女はリゾートバイトをしていて会うときは私が会いに行っていた。片道150キロ。早くて2時間半。遅くて4時間。行きたくて行っていたが、多少の負担はあった。でも1秒でも会いたくて会いに行っていた。重い荷物を持ったりとか彼女を私とは関係のない別の旅行先まで送迎をしたりもした。彼女が車内で寝てしまったときそっと音楽を小さくしたりもした。小さな優しさかもしれないけど積み重ねがあるものだと思っていた。私見だがLINEはその人の性格を鑑みて読むものだと思っている。私は優しさを彼女に与えた気でいた。だからわかってくれるものだと思っていた。でも違った。彼女はもっと女心がわかっているような返事を期待していた。私はそれができなかった。中高男子校で女子との関わりはほとんどなかった私にとって彼女の期待する返事をすることは難しいことだった。

 予定空いたと言われたときに、会おうよと言えばよかった。

 私のところまで来るの遠いでしょと言われたときに、好きな人のためならこれくらい全然大丈夫といえばよかった。

 次は、次は、次は。

 私は鈍感で何も気が付けない。だからせめて気が付けるように私は「反省」というメモを作った。一つでも気が付けるように。彼女が好きな人間になれるように。

 彼女が返してほしい言葉があったように私にも返してほしい言葉があった。返ってきたのは1度だけ。

 「まだ出会ってそんなに時間経ってないしまだあなたのことが好きかはわからない。でも嫌いじゃないし好意はあります。それでよければよろしくお願いします」

 好きだと送られてくることが反応に困ると言っていたときから自分の言葉じゃなくなりはじめ、気づかいのつもりで送った文章が男らしくないと受け取られてしまったとき匙を投げてしまった。

 彼女の笑った顔が好きだった。一緒にいる時の雰囲気が好きだった。気が強いところも好きだった。

 これは言いそびれてしまった言葉だ。あと、彼女の不完全さも好きだった。緻密に考えているようで抜けていることもあれば、愛に飢えているなと思うところもあった。そこも全部好きだった。

 彼女と2回目に会ったとき体の関係を持つかどうかという場面があった。私はそれをいなした。経験もなかったし度胸もなかった。その時ふと思った。

 この人は愛してくれれば誰でもいいんじゃないか。大きな愛をくれるなら誰でもいいのではないか。

 でも、誰でもいいのかもしれないけど1番彼女を愛しているのは自分でありたいと結論を出した。

 次に会ったときに告白しようと決めた。それで付き合うことができた。

 好きと言われなくても、あまり愛を感じなくても、いつか好きになってくれたらそれでいいから、彼女の全部を愛そうと決めていた。これは私の中でずっと変わらなかった。


 昨日共通の知人と電話をした。彼女は「大切にされている感じがしない。あの人は彼女を大切にすることを知らない」と言っていたと聞いた。

 大切にしているつもりだった。愛しているつもりだった。彼女の理想像になろうとしたその行為自体に尊さを感じてほしかった。多分彼女側から見たらこの話は全く別物になると思う。だから彼女を責めることはできない。正直後味は悪い。

 思えば自分の人生で、あまりいい経験をしたことがない。中学生のころ友人に褒められた文章能力に才能を見出し、小説や脚本を書いてみたが駄目であった。大好きだったコントも書いてみたが思ったほどの笑いは返ってこなかった。苦節6年。そんな中ただ一人だけ私で笑ってくれる先輩がいた。私はこの人だけでいいから一生笑わせたいと思っていた。私がこの人を愛したら愛してくれるような気がした。でも、この人は私の好意に気づきながら別の先輩と付き合っていた。私は人生を嗤われている気持ちになった。

 

 誰でもいいから愛してほしい。これは私の気持ちだった。でも半月前彼女と体を交わすときになり、行為をしたが心から感情が燃え上がっているわけではなかった。俯瞰してしまって、視点には醜い自分の姿があった。誰でもいいくせに誰でもいいわけではなかった。ひどく絶望した。人として疑われることを言うようだが、彼女は私を愛してくれる人の第一候補になっただけだったのかもしれない。特別な存在になっていなかったのかもしれない。だから本当に大切にできなかったし、愛が伝わらなかった。彼女は違った。私に愛してほしかったはずだ。それができなかったことが何よりも悔やまれる。彼女にはもっといい人がいる。幸せになってほしい。短い期間しか一緒にいないくせに楽しい思い出が山ほどある。その思い出をそっとしまって、私は前を向く。しかし、自覚はできたが学べてはいない。誰でもいいから愛してほしい。これは変わっていない。こんな人間を愛してくれる人はどこかにいるのだろうか。いつかこの人じゃないといけない人が現れるのだろうか。でも、今は誰でもいいから愛してほしい。誰でもいいから愛してください。

この話はフィクションです。

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