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残影の守護者(シルエット・ガーディアン) 〜魔力ゼロの特待生、王立学園の頂を射抜く〜  作者: ゆでたーま


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8/10

8話

学園の空を、不吉な鈍色の雲が覆っていく。

 先ほどまでの序列戦の熱狂は霧散し、演武場はパニックに陥った生徒たちの怒号と悲鳴に包まれていた。

「全員落ち着け! 各自、指定の待機場所へ移動しろ!」

 教官たちの鋭い声が響くが、森の方角から立ち昇る黒煙は、その言葉を嘲笑うかのように巨大な渦を巻いていた。

 カイルは、駆け寄ってきたアイリスの手を強く握った。

「アイリス、僕のそばを離れるな。……嫌な予感がする」

「ええ……。魔力が、削られているような感覚がするわ。空気に何かが混じっている」

 アイリスの指摘通りだった。空気に溶け込んだ魔素が、まるで何かに吸い込まれるように一方向へと流れている。

 その直後、演武場の正門が凄まじい爆音とともに吹き飛んだ。

 煙の中から現れたのは、漆黒の法衣を纏った一団。彼らの手には、奇妙な意匠が施された黒鉄の剣が握られている。

「……いたぞ。『無色』の器だ」

 法衣の男たちの一人が、カイルを指差して低く呟いた。

 その声には感情がなく、ただ目的を遂行するためだけの機械的な響きがあった。

「あなたたちは何者!? 王立学園を襲撃して、タダで済むと思っているの!」

 アイリスが前に出ようとするが、カイルがそれを制した。

 男たちの持つ剣――そこから、カイルが知る「どの色」とも違う、悍ましい波動が放たれている。

「アイリス、下がってろ。こいつら、魔法騎士じゃない」

 男たちが一斉に地面を蹴った。

 その速度は、魔法による身体強化ではない。筋肉の不自然な膨張と、噴き出す黒い霧。それは、命を前借りして無理やり引き出された異様な瞬発力だった。

「シッ!」

 先頭の一人が、カイルの首を狙って黒剣を薙ぐ。

 カイルは腰の鉄剣を抜き、それを真っ向から受け止めた。

 キィィィィィィィン!

 金属音とともに、火花が散る。

 その瞬間、カイルは自身の「内燃循環」が乱れるのを感じた。

(魔力が……吸われている!?)

 相手の剣に触れた瞬間、カイルの体内の透明な魔力が、まるで磁石に引き寄せられるように鉄剣を通じて外部へと漏れ出そうとしていた。

 これこそが「虚無の教団」が誇る対魔術師兵装――『魔喰の刃』。

「ハハッ、無駄だ。我らが刃はすべての魔力を喰らう。貴様の奇妙な循環も、我らの前ではただの餌に過ぎん」

 男が追い打ちをかける。横から迫る別の暗殺者の刃。

 二方向からの挟撃。

 魔力を奪われる状況下で、通常の騎士ならここで詰んでいる。

 だが、カイルは冷徹に判断した。

 奪われるのが「外に放った魔力」だけなら、もっと深く、もっと鋭く、内側に閉じ込めればいい。

循環第三段階フェーズ・スリー……『深淵アビス』)

 カイルの体温が急激に低下した。

 魔力を熱に変えるのではなく、完全な静寂へと変換する。

 奪おうとする黒剣の引力を、さらに上回る速度で「自分自身の中心」へと魔力を引き戻し、回転させる。

 カイルの体が、物理法則を無視した角度で沈み込んだ。

「――!? 消えた!?」

 暗殺者の視界からカイルが消失する。

 次の瞬間、カイルは一人の暗殺者の背後に立っていた。

 剣を振るうのではない。ただ、指先を相手の背骨に添える。

「……吸いきれるかな。この『圧力』を」

 ――ゼロ距離、瞬点開放。

 カイルが内側に溜め込んでいた超高密度の魔力が、暗殺者の法衣を内側から爆破した。

 『魔喰の刃』が吸い込める許容量を遥かに超えたエネルギーの奔流。暗殺者は叫ぶ間もなく、衝撃波によって演武台の壁まで叩きつけられた。

「なっ……馬鹿な! 器ごと過負荷オーバーロードさせただと……!?」

 生き残った男たちが戦慄する。

 カイルは肩で息をしながら、アイリスを背中に隠した。

 右手は小刻みに震えている。今の一撃は、自分自身の腕をも壊しかねない危険な賭けだった。

「カイル、もう無理はやめて! 私も戦うわ!」

 アイリスが叫び、彼女の背後に巨大な紅蓮の魔法陣が展開される。

 しかし、その魔法陣は、上空から飛来した「一本の黒い槍」によって、ガラス細工のように容易く砕け散った。

「……そこまでだ、未熟者共」

 瓦礫の上に、一人の男が降り立つ。

 整った銀髪、そして左目に刻まれた深い十字の傷。

 その男が纏う気配を感じた瞬間、カイルの全身の毛穴が逆立った。

 間違いない。

 十年前に自分を救ったあの騎士と、同じ歩法。同じ構え。

 だが、放たれる殺意は、かつての温もりとは正反対の、絶対的な「無」だった。

「……アッシュ、さん……?」

 カイルの掠れた声に、銀髪の男は冷たく目を細めた。

「ほう。我が『失敗作』の術理を、まだ使っている者がいたか」

 学園を襲った真の絶望。

 あらすじに記された「変わり果てた師」との再会が、物語の歯車を狂わせ始める。

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