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残影の守護者(シルエット・ガーディアン) 〜魔力ゼロの特待生、王立学園の頂を射抜く〜  作者: ゆでたーま


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7/10

7話

王立エリュシオン魔法騎士学園の序列戦予選。それは、学園内に点在する複数の小演武場で行われる。

 カイルの初戦の相手は、二年生のジーク・バロウ。派手な魔法を好む騎士候補生たちの中にあって、彼は異質な「隠密魔法」の使い手として知られていた。

 演武台の周囲には、噂の「無色の特待生」を一目見ようと、少なからぬ生徒たちが集まっている。その中には、心配そうに拳を握るアイリスの姿もあった。

「……試合開始!」

 審判の合図とともに、ジークの姿が陽炎かげろうのように揺らぎ、次の瞬間には背景に溶け込むようにして消えた。

「消えた!? 魔法で光を屈折させているのか……!」

 観客席から驚きの声が上がる。

 カイルは剣を抜かず、目を細めた。

 視覚を遮断され、音さえも風の魔法で殺されている。ジークの気配は完全に途絶えた。

 通常の騎士であれば、広範囲に魔力を放出して「探知ソナー」を行うところだが、カイルにそんな芸当はできない。

(凪であれ、か……)

 カイルは学園長から受け取った巻物の教えを反芻した。

 魔力とは流れである。もし相手がそこに存在し、魔法を使っているのなら、必ず周囲の魔素マナに「淀み」が生じる。

 カイルは呼吸を限界まで細くし、体内の「内燃循環」を極低速に落とした。

 自分自身を周囲の空気と同化させる。

 最強の出力ではなく、最強の感度。

 それが、巻物に記されていた『第三の感覚――魔流感知まな・センス』だった。

(……右、後方。三歩)

 微かな空気の重みの違いを、カイルの皮膚が捉えた。

 ジークの毒を塗った短剣ダガーが、カイルのうなじを狙って音もなく突き出される。

 カイルは振り返りもせず、首をわずか数ミリ横に傾けた。

 背後を通り過ぎる鋭い冷気。

「なっ……!?」

 空を切ったジークが、驚愕のあまり一瞬だけ姿を現した。

「捕まえた」

 カイルの右手が、ジークの腕を掴む。

 そのまま体内の魔力を一点に爆発させた。

「――循環加速ブースト・瞬点」

 掴んだ腕からジークの体内へ、逆流するような衝撃を叩き込む。

 ジークの隠密魔法が、内側からの衝撃によって強制的に解除され、彼は演武台の端まで吹き飛んだ。

「……信じられん。一度も剣を抜かずに、ジークの不意打ちを……」

 観客たちが騒然とする中、ジークは荒い息をつきながら立ち上がろうとした。だが、彼の全身は痺れたように動かない。カイルが流し込んだのは、破壊ではなく、相手の魔力経路を一時的に阻害する「無色のノイズ」だった。

「……僕の勝ちでいいですか?」

 カイルが静かに問うと、審判は我に返ったように手を上げた。

「勝者、カイル・ヴァン・クロムウェル!」

 歓声が上がる。

 しかし、カイルの表情は晴れない。この程度の勝利で喜んではいられない。

 演武場の高台から、冷徹な視線で見下ろすカイン・バートランドの姿があったからだ。

「……おめでとう、カイル!」

 駆け寄ってきたアイリスが、屈託のない笑顔を向ける。

「すごいわ、あのジークを翻弄するなんて。あんな技術、どこで覚えたの?」

「……学園長の宿題をこなしただけだよ。でも、まだ全然足りない」

 カイルは自身の掌を見つめた。

 さきほどの『魔流感知』。一瞬、アッシュ・グレーンの背中が見えた気がした。

 あの人はもっと深く、もっと静かに、世界そのものと同期していた。

 その時、学園の時計塔が不気味な鐘を鳴らした。

 予定にはない、非常事態を告げる鐘だ。

「何の音……? 入学式の警報とは違うわ」

 アイリスの顔が引きつる。

 森の方角から、黒い煙が立ち昇っていた。

 序列戦の熱狂を切り裂くように、伝令の生徒が血相を変えて飛び込んでくる。

「報告! 禁忌の森に設置された結界が破壊されました! 正体不明の集団が学園の敷地内に侵入……既に警備の騎士数名がやられました!」

 平和な学園生活の終わり。

 あらすじにあった「虚無の教団」の影が、予想よりも早く、カイルたちの前にその姿を現そうとしていた。

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