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田舎育ちの俺が王都に出てきたら、守りたい想いが強さになった  作者: 蒼月あおい
第三章

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第43話 帰還

 カース・ネストを討ち果たした広間には、先ほどまでの禍々しさが嘘のように静けさが満ちていた。

 黒紫の瘴気は消え去り、代わりに淡い光が石壁をやわらかく照らしている。

 アルスたちはようやく深く息をつき、削られた体力と魔力を取り戻すように、その場に腰を下ろしていた。


 ミリアは座ったまま鞄からマナポーションを取り出し、一口、また一口と飲み干した。胸に手を当てて深く息を吸い、魔力の流れを整える。

「ふぅ……やっと少し回復できた……」

 小さな声で呟き、杖を膝に置きながら軽く目を閉じる。


 セレナは矢筒を開け、残りの矢を数えながら肩を回す。

「残りは……十六本か。少ないわね、矢は温存しないと……」

 額に汗を浮かべつつ、戦いへの慎重さを示す。


 フィアナは尾を軽く揺らしながら鉄格子を確認していた。

「ねぇ、この鉄格子……やっぱり鍵がかかってて開かないよ」


 彼女が仲間に向かって報告すると、アルスは眉をひそめて鍵を手に取る。

「……もしかしたら、この鍵が使えるのかもしれない」


 アルスの声に、セレナとミリア、フィアナの視線が一斉に集まる。

 アルスは慎重に鉄格子の鍵穴へ鍵を差し込んだ。


 次の瞬間、鍵が淡く光を帯び、鉄格子の奥で重い錠の外れる音が低く響いた。

「開いた……!」

 フィアナが思わず声を上げる。


 重々しい鉄格子を押し開けると、そこには小さな部屋が広がっていた。床には複雑な魔法陣が描かれ、壁には古い文字と記号が刻まれている。


「……地上への転移が可能……」


 ミリアが声に出して読んだ文字に、四人の視線が集中する。

 その瞬間、鍵と魔法陣が同時に光り始め、部屋全体を柔らかな光が包む。光は魔法陣から天井へ、そして壁を伝い、鍵と一体化したかのように輝きを増していく。


 アルスは仲間たちに頷き、静かに声をかける。

「どうする?」


「もし本当に地上に戻れるのなら矢を補給したいわね……」

 セレナが矢筒に手を置きながらアルスに言う。


「私も……できれば休みたいです……マナポーションだけでは魔力の回復が追い付かなくて……」

 ミリアは額に汗を浮かべながら、少し無理をした笑みをアルスに向ける。


「帰れるなら帰りたいです!」

 フィアナは元気に言う。


「……罠の可能性もある。でも、このまま放置はできないな」


 アルスは仲間たちを見回した。

 セレナは小さく頷き、ミリアも緊張した面持ちで杖を握りしめる。フィアナは尾をぴんと立てたまま、それでも一歩前へ出た。


「……四人で乗ってみよう」


 アルスの言葉に息を合わせ、四人は魔法陣の中心へ足を踏み入れた。

 光が眩しく瞬き、空間が微かに揺れた。次の瞬間、視界は白い閃光に包まれ、耳に風のような音が走る。


 気がつくと、彼らは狭く、無機質な石造りの小部屋に立っていた。装飾は一切なく、床に魔法陣と壁には古びた看板が一つ。そこには「四層への転移が可能」とだけ書かれている。


「……ここ、どこなんでしょう……?」


 ミリアが声を潜めてつぶやく。

 先ほどまでいた清らかな広間とは違い、そこには無機質な石の冷たさだけがあった。


 アルスは周囲を見渡す。部屋の広さは狭く、通路の延長にありそうな、ただの石壁の一角にしか見えない。

 フィアナが壁を嗅ぎ回り、耳を動かしても何も反応はない。


「……転移してきたけど、ここが何層かは全然分からない」


 四人が部屋を出ると、静かに扉は閉まり、周囲の壁と完全に同化してしまった。見た目はただの通路と見分けがつかない。


 セレナは手元の地図を広げ、位置を確認する。

「……あれ、ここダンジョンの入り口に近い。ということは、ここって一層……?」


 アルスは閉じた扉に近づき、鍵を手に持った状態で試す。壁は静かに開き、再び隠し部屋に入れることを確認した。


「なるほど、これならいつでもここから四層に戻れるわけだな」


 こうして、隠し部屋の存在と一層であることが明らかになり、四人は次の行動の準備を整えた。


「ここから探索を再開できる……か」

 アルスは低く呟き、仲間たちを見渡した。


 ミリアも杖を握り直し、光の残りを感じながら微笑む。

「……お風呂に入りたいです」


 その言葉にセレナとフィアナが強く頷く。


「一度戻るか……」


 アルスの言葉に全員の顔に生気が蘇る。


「私も少し休みたいわ……」

 セレナが珍しく疲れた様子で口に出した。


「セレナがそう言うなんて、よほど疲れてるんだな」

 アルスがセレナの背に手を当てながら微笑む。


「もう……くたくたよ……」


 セレナの言葉に全員が肯定した。


「さて、そろそろギルドへ報告に戻ろうか」


 休息を取ったアルスたちは、ギルドに向けて一層の隠し部屋から出発した。

 アルスが鞄を背負い直すと、セレナも矢筒を調整しながら頷く。

 フィアナは尾を軽く揺らし、まだ体力が残っていることを示すように小走りで歩く。

 ミリアは杖を軽く握り、魔力を確認しながらついていった。


 ギルドに着くと、四人はまず酒場の一角に腰を下ろし、戦利品の整理を始めた。


 魔石、骨片、黒水晶の破片、そしてあの鍵――。

 量も種類も多く、このまま受付へ持ち込めば説明だけで混乱する。

 だからこそ、先に整理してからリナへ報告したほうがいいと判断したのだ。


「……すごい量ね、これ」


 セレナが鞄を開け、残りのポーションや小物を確認しつつ鞄いっぱいの魔石を見ながら呟く。

 アルスの鞄からは、倒したゾンビから得た魔石や骨片がごそっと取り出される。戦利品に腐敗しかけた肉片もあったが、ミリアとフィアナは、その腐敗肉片を持ち帰るのを強く嫌がり、結局ダンジョン内の隅に放置してきた。


「……あの肉片は、置いてきて正解でしたね。正直言うと見た目も酷いですし匂いも……耐えられませんでした……」


 ミリアが顔をしかめつつ説明する。フィアナも尾を小さく振り、同意する。


 一方で、魔石はかなりの量が集まっており、手に取ると冷たく光を帯びていた。アルスは一つ一つ確認しながら、これをギルドで換金すれば四人で分けても大きな収入になることを実感する。


 戦利品の整理がひと通り終わると、アルスたちは受付へ向かった。

 今回はただの換金依頼ではない。

 四層で遭遇した異常、カース・ネスト討伐、そして転移部屋の発見――どれもギルドへ伝えるべき重要な情報だった。


「リナさん、四層で……ゾンビの大群と遭遇しました。そして、カース・ネストを討伐しました」


 リナは驚きに目を見開いた。

「……本当に? カース・ネストですって?」


 リナは思わず声を上げ、すぐに周囲を気にしてトーンを落とした。

「そんな報告……少なくとも、私が知る限り前例がないわ」


 アルスが詳しく説明する。どのようにゾンビを押し返し、協力して核を破壊したのか、ミリアとフィアナの魔法や戦術も含めて。

 そして黒水晶の破片をリナに見せる。


「なるほど……確かに、カース・ネストの黒水晶みたいね。一度預かって鑑定してもいいかしら?」


 リナが慎重に尋ねると、アルスは頷いた。


「カース・ネストは出現位置が不定で、遭遇したとしてもゾンビの群れに押されて討伐まで至った冒険者はいなかったはず。今回の報告は非常に重要ね」


 リナの言葉に、四人は少し誇らしげな表情を見せる。


 さらに、アルスは鉄格子を抜けた部屋から一層へ転移できたこと、そしてカース・ネストを倒すと鍵を落とすことも報告する。


 リナはそれを聞き、慎重にメモを取りながら頷く。


「これは後日、ギルドとして正式に検証する必要があるわ。

 もし事実として確認できれば、かなり価値の高い情報になる」


 リナは真剣な表情でそう告げたあと、今度は戦利品の袋へ視線を移した。


「……それと、この量だと今日中の換金処理は難しいわ。報酬の支払いは明日になるけれど、それでいいかしら?」


 そう言われ、アルスたちはようやく張り詰めていた肩の力を少しだけ抜いた。


「……今日はとりあえず休めるな」


 アルスの言葉に、セレナとミリア、フィアナも疲れを少しずつ解きほぐすように鞄を閉じた。


 四層での死闘を乗り越え、カース・ネストを討ち果たした。

 さらに新たな転移の道も見つかり、確かな成果を手にしている。


 張り詰めていた緊張がようやく解け、四人の表情にも安堵が戻る。

 今はただ――休息が必要だった。


 四人は静かにギルドを後にし、それぞれの休息へと向かうのだった。

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