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田舎育ちの俺が王都に出てきたら、守りたい想いが強さになった  作者: 蒼月あおい
第二章

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第39話 フィアナ

 夜明けの薄明かりが街を包むころ、宿屋の一室に軽いノックの音が響いた。


 まだ寝ぼけ眼のセレナが顔を上げる。アルスが扉を開けると、そこには小柄な影が立っていた。


 銀灰色の猫耳がぴくりと揺れ、長い尾も緊張でかすかに揺れている。ダークブラウンの髪は乱れがちで跳ね、体は少し触れただけでも折れそうな程細い。黄緑がかった琥珀色の大きな瞳には、好奇心と強い意志の光だけが少女の存在感を表していた。


 セレナは寝起きで軽くむすっとしつつも、猫人族(ミアリス)の少女を見て小さくため息をついた。


「……立ったままじゃ疲れるでしょう、入ったら?」


 そう言ってフィアナの背中に軽く触れ部屋の中へと招き入れた。


 部屋に通されると、フィアナは深呼吸をして言葉を紡いだ。


「私、フィアナ・ミスティです。見ての通り、猫人族ミアリスで……十五歳です」


 幼い頃に両親を亡くし、ひとりで街に出てきたことを告げる。


 冒険者として砂晶ランクで小さな依頼をこなしてきたが限界を感じ、憧れて追いかけてきたアルスたちの仲間になりたいと願っていることも話す。


 そして、言葉を少し詰まらせ――


「……お金もなくて、宿に泊まれず……毎日、街の外で野宿していました」


 セレナは驚きに目を見張り、アルスはしばし沈黙した。


 最初はその告白に同情の色を浮かべたアルスだったが、次第にフィアナのまっすぐな瞳に、ただの弱さではない覚悟を感じ取った。


 そんな空気の中、扉を叩く音。


「アルス様ー? おはようございますー!」


 明るい声と共に入ってきたミリアは、部屋の様子に気づいて一瞬固まる。


(なにこの小さい子猫ちゃんは……! あ、昨日見かけた子だ! 小さな体、小さな顔……幼女みたい……アルスさまと同じ空間に……!? ひゃあああっ! どうしよう、妄想が止まらないっ!!)


 すぐに状況を察し、ぎこちなくも笑顔を作った。


「えっと……はじめまして。昨日ちらっとお見かけしたけど、きちんとお話するのは初めてですね」


 フィアナも緊張しながら「……フィアナ・ミスティです」と頭を下げる。


(えっ……!? この子……小さくて猫耳がぴくり、細くてしなやかな体……アルス様がきっと抱き上げたり、肩にちょこんと乗せたり……うわあっ、妄想が止まらないっ!! ああっ、アルス様の笑顔で小さな子猫ちゃんが安心して寄り添ったり……鼻血出そうぅぅぅ!幸せすぎるぅぅっ!)


 ミリアが入ってきて挨拶を終えた後、アルスは言葉を切る。


「……で、聞きたいんだが、フィアナ。俺たちのパーティに加わりたいってことか?」


 フィアナは少し息を整え、真剣な瞳で頷く。


「はい……必ずお役に立ちます。危険でも逃げません」


 セレナは少し眉をひそめ、慎重に言った。


「でも四層は危険よ? 無理に加わる必要はないかも」


 アルスはもう一歩踏み込む。


「で、具体的に何ができる? 戦う力か、探索能力か、魔法か」


 フィアナは少し肩をすくめ、視線を下に落とす。胸を張るわけではないが、瞳にはまだ消えない強い光が宿っていた。


「私は、索敵や暗視……それから罠や探索のサポートなら、多少は役に立てると思います」


 小さく息を吐き、指先で握った短剣を確かめるように触れながら、彼女は続けた。


「戦闘は……正直、まだ未熟です。短剣での軽い攻撃や足止めくらいなら……でも、できる限り頑張ります」


 アルスは少し眉をひそめ、真剣な声で問う。


「フィアナ……お前、街の外で毎日野宿していたそうだな。金に困っての行動かもしれないし、場合によっては裏切ることも……無いとは言い切れない」


 フィアナは一瞬俯くが、やがて小さく息を吐き、強い眼差しでアルスを見返す。


「……違います。お金が無くて困ったこともありますが、仲間を裏切るつもりはありません。必ず、皆さんの役に立ちます」


 セレナは腕を組み、寝ぼけ気味に眉をひそめながらも慎重に言う。


「言葉だけじゃ信用はできないけど……その覚悟なら、見守る価値はあるわ。短剣での戦闘は未熟でも、素早く動けるなら援護にはなる」


 ミリアは内心で小さく歓声を上げつつ、微笑んで頷く。


「アルス様と一緒に戦って、絶対に強くなる子……絶対、大丈夫!」


 ミリアは目を輝かせ、わずかに身を乗り出す。


「それに、アルス様の隣でサポートしてくれるなら……絶対強くなれる子です! ね、アルス様!」


 アルスは深く息をつき、改めて頷いた。


「……わかった。


 まだ全部を信じたわけじゃない。けど、お前の目は逃げる奴の目じゃなかった。


 加わるなら、自分の身は自分で守れ。それができるなら、仲間として迎える」


 フィアナは小さくうなずき、少し照れくさそうに笑った。


 その姿を見た三人は、それぞれの表情に覚悟や期待、そしてわずかな安心感を感じ取った。


 四人の間に、言葉にせずとも通じ合う覚悟と期待の空気が流れた。


 フィアナをパーティに加えることが正式に決まった瞬間だった。


 四人は机を囲み、真剣な面持ちで話し合った。


「でも、無策で四層に挑むのは危険よ」


 セレナが口火を切る。


 アルスが頷き、改めてランクの確認を提案した。


「じゃあ、みんな、自分のランクを教えてくれ」


「俺は今、水晶だ」


 アルスが胸を張る。


「私は琥珀ね」


 セレナは少し寝起き気味で肩をすくめる。


 次はミリア。アルスが目を向けると、彼女は少し照れくさそうに言った。


「私は……翡翠です」


「――え? ミリア、もうそこまで上がってたのか?」


 アルスは目を見開く。


「えへへ、アルス様は私が水晶くらいだと思ってたんですか?」


(うわああっ、バレちゃった……! でも、でも……翡翠ならアルス様の隣に立っても恥ずかしくないって思ってたのに……! ああっ、顔に出てないよね!? 出てたら死ぬぅぅぅ!)


 アルスは思わず眉をひそめて、ミリアの赤くなった頬に疑問を浮かべたが、深くは追及しなかった。


 最後にフィアナが少し緊張しながら答える。


「……わ、私は砂晶です……」


 小柄な彼女の声には幼さと、それでも前向きな覚悟が滲んでいた。


 アルスは最初、同情の気持ちを抱いたが、そのまっすぐな視線に覚悟を感じ、言葉を探す。


 セレナは少し身を乗り出し、言葉を続ける。


「せっかくだし、ギルドで改めてランクを査定してもらいましょう。四層に挑む前に、正確に把握しておいたほうが安心よ」


 アルスも頷き、慎重な表情で答えた。


「そうだな、自己申告だけじゃ不安だ。ギルドで正式に確認してもらおう」


 ミリアとフィアナも頷き、全員でギルドへ向かうことを決めた。


 その足で四人はギルドへ向かい、広間を抜けて受付嬢リナの前に立った。


 リナは書類の手を止めて顔を上げると、フィアナの姿を一瞥して思わず目を丸くした。ほんの一瞬、「まさか……」とでも言いたげに息を呑む表情を見せたが、すぐにアルスに声をかける。


「アルスくん、いらっしゃい! 今日は掲示板の依頼?」


 アルスは一歩前に出て、穏やかな声で告げた。


「リナさん、今日はパーティの登録をお願いします。新しく――フィアナを迎えることになりました。それと、ついでに俺たち全員のランク再確認もお願いします」


 その言葉を聞いた瞬間、リナの笑顔がわずかに引きつった。手に持っていた羽ペンの動きがぴたりと止まり、ゆっくりとアルスとフィアナを見比べる。


「……へぇぇぇ……また“可愛い子”が増えたのね?」


 声は穏やかだが、目元の笑みはどこか引きつっており、背後の空気が少しだけ冷えた気がした。


 半ば呆れたように、半ば嫉妬を隠せないように笑うリナ。


 アルスが少し苦笑しながら「そ、そんなつもりは……」と返すと、リナは大きくため息をついて手続きを再開した。


「まったく……あたしなんか毎日カウンターと書類ばっかりなのに、アルスくんの周りはいつも華やかで羨ましいわ。……いいえ、嫉妬なんかしてませんけど?」


 そう言いつつも、頬がわずかに膨らんでいるのをセレナが見逃さなかった。


 彼女は小さく笑って肩をすくめ、


「リナ、そういうところ、可愛いわよ」


 と囁くと、リナは耳まで赤くして「もうっ、セレナさんまで!」と小さく声を上げた。


 最後に、リナは照れ隠しのように笑い直し、書類を机に並べながら言った。


「ではフィアナさんのパーティ登録用の同意書とランク査定の申請ね。ここにサインをお願いします」


 リナは手早く書類を確認しながら、仕事モードに切り替え静かに声を上げる。


「ではギルド長に確認を行ってまいりますので、しばらくお待ちください」


 そう言うとリナは受付裏の事務所から階段を上がっていく。


 数十分後――


 リナが戻ってきてギルド酒場にいたアルス達を呼ぶ。


 書類を手にしたリナはアルス達を応接室に招き入れ結果を伝えていく。


「では、査定結果をお伝えします」


「アルス・クラインさん。ダンジョン発見の端緒を見つけた功績、そして三層でのカーミラ・ウィスプ討伐を加味し――」


 リナは慎重にペンでチェックを入れ、少し間を置いた後に微笑む。


「――おめでとうございます。ランク水晶から翡翠へ昇級です」


 アルスは少し安堵し、深く息をついた。


「やっと認められたか」


 次にセレナの番。長い銀髪を軽く整えながら、冷静に書類に視線を落とす。


「セレナ・リラエル・シルヴィーナさん……討伐評価は十分ですが、大きな飛躍はなし。現在のランク琥珀を維持します」


 セレナは少し肩をすくめ、「わかったわ」と答え、アルスの方をちらりと見て微笑んだ。


 アルスの隣で見守るミリアは指を組み合わせ、胸の内でそわそわしている。


「ミリア・フェルティナさん……同じく三層でのカーミラ・ウィスプ討伐と今までの依頼達成度を総合すると――ランク琥珀へ昇級です」


 思わず小さく息を吐き、アルスに視線を向けて微笑む。


(………………あ、あれ? 翡翠じゃ……ない……? アルス様とお揃いで、妄想してた尊い“翡翠おそろい夫婦ランク”が、音を立てて崩壊したぁぁぁ!? え、なにこれ!? 休憩中に「ミリア、隣に座れ」って肩を並べて――そのまま膝枕で見つめ合う尊さプランが、もう全部水泡にぃぃぃ! 琥珀って……セレナさんと同じ……いや違うの! 私が欲しいのはアルス様との尊さぁぁぁぁぁ! 尊死する予定が尊失になったぁぁぁ!)


 アルスの隣でミリアが頭を抱えて震えているのを、リナは「緊張しているのだろう」と勘違いし、淡々と続けた。


 最後にフィアナの番。銀灰の猫耳をぴくりと動かしながら、少し緊張した様子で見守る。


「フィアナ・ミスティさん……依頼実績がまだ少なく、ダンジョンの経験もありません。現在のランクは砂晶のままです」


 フィアナは肩をすくめ、少し残念そうに微笑む。


「……わかりました」


 アルスは彼女の肩に軽く手を置き、励ますように言った。


「焦らなくていいよ、これからだ。フィアナの力はちゃんと役に立つ」


「それで……全員のランク再確認を行ったって事は何か意味があるのよね? アルスくん」


 リナが何かを察したようにアルスに聞く。


「はい、この四人でダンジョン四層に挑もうかと思います」


 アルスは素直に答えた。


 リナの結論は厳しい。


「アルスさん、セレナさん、ミリアさんの三人であれば四層探索は問題ありません。ただし、フィアナさんの同行は危険です。ですが――全員が了承し、自己責任とするなら四層から六層の許可証を発行できます」


 リナは書類を整えながら、ふとアルスの周りに集まった女性たち――セレナ、ミリア、そしてフィアナ――の姿に視線を止める。


(ああ、なんでアルスくんの周りにはいつも……! しかも皆、こんなに素直に彼に従って……ちょっと、なんでわたし受付嬢なんてやってるのっ……!)


 ため息混じりに微かに唇を噛み、リナは思わず口を開く。


「ところでアルスくん? 周りに女性三人も集まって……なんだか羨ましいと言うか、ずるいと言うか……まあ、気をつけてくださいね。彼女たちが全員あなたの味方かどうかは、まだ分かりませんから……」


 アルスは一瞬目を見開くが、リナの含みには気づかず、きょとんとした表情で肩をすくめる。


「あ、ああ……そ、そうですね、気をつけます」


 リナは小さく舌打ちし、内心でため息をつく。


(もう……分かってないんだから、余計にずるい!)


 落ち着いた声に切り替え、リナは確認を始める。


「ところで……本当に、四人で四層に挑むのですか? アルスくん、セレナさん、ミリアさん、フィアナさん……皆さん、了承済みですか?」


 アルスは軽く頷き、視線を仲間たちに向ける。


 セレナは少し寝起き気味に肩をすくめながらも静かに同意。


「ええ、危険は承知の上よ」


 ミリアは少し照れながらも、胸を張って頷く。


「はい、私も一緒です!」


 フィアナは小さく息を吸い、力強く答えた。


「私も、絶対に皆さんの力になります!」


 アルスはリナに向き直り、微笑みながら報告する。


「全員了承済みです。自己責任ということで、四層から六層までの許可証をお願いします」


 リナは頷き、書類を整え、四枚の許可証をテーブルの上に置いていく。


「わかりました……では、こちらが四層から六層の許可証です。くれぐれも安全第一で……」


 アルスは受け取り、感謝の言葉を添える。


「ありがとうございます。皆で力を合わせて突破します」


 リナは小さく肩をすくめ、微笑みを浮かべつつも内心では複雑な思いを抱えていた。


(もうっ!……あの三人がアルスくんの隣で戦えるなんて、羨ましい……。でも、私は戦えない受付嬢……悔しいけど、アルスくんには無事に帰ってきてほしい……)


 ギルドを出た四人は広場に立ち、次の作戦について改めて話し合った。


 その合間、アルスはふとフィアナの服装に目を留める。


 銀灰の猫耳をぴくりと動かす少女の衣服は、所々にほつれや汚れが目立ち、布の擦れた音まで聞こえてきそうなほど薄く、彼女の華奢な体を守るにはあまりに頼りないものだった。


 短剣も錆が浮き、柄の部分は所々削れていた。戦闘に使える状態とは言い難い。


 アルスは少し眉をひそめ、フィアナに問いかける。


「……フィアナ、その服と短剣で四層を戦うつもりか?」


 フィアナは小さく肩をすくめ、照れくさそうに目を伏せる。


「……でも、そんなお金はありません。これで精一杯です」


 アルスは息をつき、真剣な目で彼女を見る。


「フィアナの命は……金で買えるものじゃない。だから、俺が用意する」


 言葉の重さにフィアナは驚き、思わず目を見開いた。


「え……でも、そんな……」


 セレナが優しく笑いながら、フィアナの肩に手を置く。


「大丈夫よ、アルスの言う通り。無理して自分で揃える必要なんてないわ」


 ミリアもにこやかに頷き、指を組んで楽しそうに言った。


「そうです! それに、フィアナちゃんに似合う装備を探すのも楽しみです。私たちが選ぶから!」


 フィアナは顔を赤らめ、照れ隠しに小さく笑った。


「そ、そうですか……じゃ、じゃあ……お願いします」


 アルスはにっこりと微笑み、彼女の手に軽く触れる。


「任せろ。お前が安全に戦えるようにしてやる」


 街の装備店に四人は入った。目的はもちろん、フィアナの装備を整えることだ。


「フィアナ、こっちの服を試してみましょう」


 セレナが笑みを浮かべ、店内に並べられた軽装鎧や布製の冒険者服を指差す。


 ミリアも楽しそうに声を弾ませる。


「はいはい、あっちの色も似合いそうですね! 試着させてみましょう」


 フィアナは少し恥ずかしそうに体を縮める。


「え、えっと……でも、私……」


「大丈夫よ、安心して」


 セレナが優しく手を取り、店員の前で微笑む。


「サイズも合わせてあげるから、動きやすくなるわ」


 ミリアは無邪気に笑い、フィアナの背中や肩の位置を整える。


「ふふ、まるで着せ替え人形みたい! でも、これで戦いやすくなるんだから、ちゃんと大事な変身タイムよ」


 アルスは少し後ろに立ち、照れくさそうに視線を逸らす。


「アルス、覗かないでね。後ろで待っててくれればいいの」


 セレナが軽く注意すると、アルスは素直にうなずいた。


 フィアナは照れくさそうに小さく笑いながらも、セレナとミリアに手伝われて服を重ね着し、袖や裾を整えてもらう。上半身には動きやすいフード付きジャケット、下半身には軽やかな黒のスカート。


 華奢な体に合わせて細かく調整された装備は、彼女の猫人族らしい身軽さを損なわず、冒険者としての輪郭を与えていた。


「うん、これなら動きやすそうね」


 セレナが最終確認をして頷くと、ミリアも満足そうに手を叩く。


「はい、これでフィアナちゃん、見た目も戦う気満々になったね!」


 フィアナは照れくさそうに微笑み、両手を小さく握って二人にお礼を言った。


「ありがとう、セレナさん、ミリアさん……私、もっと頑張れそうです!」


 服の整えが終わると、四人は鍛冶屋へ向かう。


 鍛冶屋に到着すると、店内に立ち込める熱気と鉄の匂いが迎える。アルスは一瞬、剣がどのように仕上がったのか胸を高鳴らせながら、鍛冶師の元へ歩み寄った。


「お待たせしました、アルスさん」


 鍛冶師は笑みを浮かべ、台の上に置かれた剣を差し出す。光を帯びた刀身は前よりも鋭く、刃先から微かに青白い霊気が漂っている。


 アルスは手を伸ばし、慎重に柄を握る。その瞬間、手に伝わる感触は預けたときとは比べ物にならなかった。


 鋼の重みと霊核の力が一体となり、軽やかさと鋭さ、そして温かな力が指先から体全体に広がる。


「……これが、俺の剣……」


 思わず息を吐き、胸の奥に戦士としての昂ぶりが込み上げる。刃の冷たさと力強さが、これから訪れる試練を共に乗り越えろ、と語りかけてくるかのようだった。


 その後、アルスはフィアナに扱いやすそうな短剣を選び、鍛冶屋に預ける。鍛冶屋は、フィアナの華奢な体形に合わせて刃のバランスや柄の握りやすさを丁寧に調整した。


 しばらくして完成した短剣を手にしたフィアナは、軽く握り、刃の重さや反動を確かめる。手にぴったりと馴染むその一振りは、彼女の小さな体から新たな力の予感を漂わせた。


 装備を整え、短剣を手に立つフィアナ。銀灰の猫耳と長い尾も相まって、戦う者としての凛々しい決意が全身から漂う。セレナとミリアは微笑み、アルスも誇らしげに頷く。


 フィアナは目を輝かせ、胸を張りながら深くお辞儀をする。


「アルスさん、セレナさん、ミリアさん……本当にありがとうございます!」


 声は少し震え、でも喜びに満ちていた。


「皆さんのおかげで、ちゃんと戦える装備になった……これなら、少しは役に立てそうです!」


 その言葉に、三人は微笑みを返す。セレナは優しく頷き、ミリアは小さく拍手をし、アルスも満足そうに目を細めた。


 フィアナは胸の奥に湧き上がる嬉しさと誇らしさを感じながら、改めて仲間として共に戦う覚悟を胸に刻んだ。

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