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田舎育ちの俺が王都に出てきたら、守りたい想いが強さになった  作者: 蒼月あおい
第二章

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第38話 憧れの影

 朝の赤い月亭。昨日の祝杯の余韻が、まだ店内に漂っていた。

 木の温もりに、朝日の柔らかな光が差し込む。

 三人は昨日の戦いの疲れを引きずりながらも、穏やかな笑みを浮かべて机を囲んでいた。


「アルス、今日はどう動く?」

 セレナは肘をつき、少し眠そうな目を細めながら微笑む。


「まず鍛冶屋だ。霊核を見せて、剣の話を進めたい」

 アルスが言うと、セレナが頷いた。


「それなら、ついでに矢の補充も済ませたいわ。弓の調整もできるかもしれないし」


 ミリアも杖を抱え込み、目を輝かせて小さく頷く。

「私も……魔法触媒の補強材と、新しい杖を揃えておきたいです……アルス様の役に、少しでも立ちたいです」


 アルスは二人の表情を見やり、胸の奥に静かな温かさが広がるのを感じる。

 霊核の存在が、胸の奥で静かに重みを持っていた。


「わかった、じゃあまずは鍛冶屋に行こうか」

 アルスは立ち上がり、机の上の朝食を軽く片付けながら返す。


 セレナはさっと立ち上がり、肩に掛けた弓筒を調整する。

「じゃあ、行くわよ、アルス」


 その声には、仲間としての信頼と楽しそうな軽やかさが混じっていた。

 その様子をカウンター越しに見ていたマルタ女将が、ふふっと微笑んで声をかける。


「まったく、朝から元気なこと。あんたたちが出ていくと、店が少し静かになっちまうよ。気をつけておいで、無事に帰っておいでね」


 三人は顔を見合わせ、自然に微笑んだ。

「はい、行ってきます」


 街の有名な鍛冶屋に到着すると、店先から熱気と金属の香りが立ち込める。鍛冶師はふとアルスの手元を見て目を大きく見開いた。

「……それはまさか!」


 アルスは静かに霊核を差し出す。鍛冶師はそれを手に取り、掌にそっと載せてじっと眺めた。

「……これは……最高の素材だ!この力を引き出せば、お前の斬撃は一段階上の域に至る。だが、慎重にな」


 剣を預け、数日かかる鍛造を任せる間、アルスは心の中で《刃感》との相乗効果を思い描き、自然と拳を軽く握った。


 セレナは鍛冶屋の外で弓筒を肩にかけ直しながら小さくため息をつく。

「アルス……どんな剣になるのかしら……」

「楽しみだな」


 アルスは微笑みながら返す。セレナもくすりと笑い、嬉しそうに弓を軽く触った。


 行き付けの道具屋に向かうと、見慣れた店構えが目に入った。

 街の中心にひっそりと佇む「森の手仕事屋」――木漏れ日の差し込む店内は、木の香りと微かな魔力の香気に包まれていた。棚には矢筒や魔法触媒、精巧な道具が整然と並ぶ。


「おや、アルス、セレナ、ミリア。いらっしゃい」

 木漏れ日の中で、白金の髪をゆるくまとめたエルフの女性が微笑む。

 穏やかな緑の瞳は、森の奥のように静かだった。


「今日はまとめてかしら?」

 その声に、セレナの表情が自然と和らぐ。


「ええ、お願いできる?」

 ふたりのやり取りから、この店が彼女の馴染みであることはすぐに伝わった。


 奥の作業台では、もう一人のエルフが杖を調整している。

 銀髪の男は顔を上げ、穏やかに頷いた。

「杖は私が見る。矢はリリシアの方が得意だ」


「ええ、私の矢の補充と改良をお願いしたいの」

 セレナが手早く矢筒を取り出すと、リリシアは笑みを浮かべ、軽く頷く。

「なるほど、アルスの戦い方に合わせると、矢の硬さや羽の質感も少し調整したほうがいいかもしれないわね」

「うふふ、さすがリリシア……任せて安心ね」


 セレナはにこやかに返す。二人の間には、血の繋がりこそないが姉妹のような信頼関係がある。


 続けて、セレナは弓を差し出す。

「この弓も、弦の張りを少し強めたいの。引きにくくなっても、貫通力を上げた方が今後は役立つはずだから」


 リリシアは弦を指で弾き、軽く音を響かせてにやりと笑った。

「なるほどね、セレナらしいわ。じゃあ、木のしなりも調整してあげる。矢筒も容量を増して取り回しやすく改造すれば、戦闘中の選択肢も広がるわよ」


 セレナは目を輝かせ、弓を撫でながら小さく頷いた。

「お願いします、リリシア」


 リリシアは棚の中から素材を取り出し、弓の改良作業に取り掛かる。その手つきは熟練の魔道具師らしく、見ているだけで安心感を与えた。


 一方、ミリアは棚の奥で杖を見つめていた。新しい杖は少し高価だったが、魔力の伝導率が良く、触れた瞬間に手に伝わる感触が柔らかく力強い。

「……これなら、私も少しは強くなれるかもしれません……」


 ミリアが杖を抱え込み、恥ずかしそうに微笑むと、リリシアは優しく微笑み返す。

「ええ、焦らず、少しずつ慣れていけばいいわ。無理に急ぐことはない」


 奥でエアレンデュルが杖を静かに調整していた手を止めてミリアの方に歩きながら、柔らかく声をかける。

「ミリア、手の感触を意識して。杖は力任せじゃなく、魔力と共に動かすといいよ」


 ミリアが選んだ杖を受け取り杖を確認する。

「ミリア用に調整すれば魔法も安定するはずだけど、少し値が張るけど良いのかい?」


 彼女は深く頷き、エアレンデュルが持つ杖を見つめた。

「はい!アルス様とセレナさんを守るために惜しみません」


 エアレンデュルは軽く頷き奥の作業台に向かいミリアの杖の調整を始める。

「すぐに終わるから待ってくれ」


 セレナはリリシアに向かって小さく微笑み、軽く会釈する。

「ありがとう、リリシア」

「ええ、気にしないで仕事だから。セレナなら、アルス達と一緒にきっと無事にダンジョン攻略できるわよ」


 三人はリリシアの優しい眼差しに自然と店内で談話しながら調整を待つ。


 *****


 午後、廃墟の訓練場。アルスは広場に立ち、手にするのは鍛冶屋に剣を預けている間だけ借りている代わりの剣だった。本命の重みや切れ味とは違うが、それでも《刃感》を意識すれば十分に鍛錬になる。

 切り込む瞬間、空気の流れや相手の動きが鮮明に感じられる。

 そして一拍早く、“次の動きの予兆”が脳裏に線となって走る。

 剣の感触が手に馴染み、振るう度に斬撃が冴えていった。


 太陽の光が差し込み、剣先の影が地面に伸びる。アルスは一つ一つの動作に集中し、呼吸と身体の動きを同期させる。


 セレナは弓を構え、矢の軌道を確認しながらも、アルスの動きを目で追い、時折アドバイスを送る。

「足元を意識して、アルス。切り込みが安定するわ」


 ミリアは杖を握り、魔力の流れを感じながらアルスの背後に立ち、動きの補助をする。

「アルス様、今の動き、少し横にずれていました……」


 アルスは少し微笑み、剣を構え直す。訓練場には、集中した空気と三人の呼吸だけが響いていた。

「二人とも弓と杖はどう?」

 セレナもミリアも満足そうな顔でアルスに頷く。


 *****


 数日間、三人は街道沿いの小型の依頼をこなしながら過ごした。


 狼退治では、群れをなして襲いかかる牙を前に、アルスの剣が鋭い弧を描き、セレナの矢が的確に走った。ミリアの魔法は後方から確実に援護を重ね、息を合わせるごとに戦闘は短時間で片付くようになっていった。


 野盗の討伐では、狭い林道で不意を突かれたが、アルスの俊敏な守りとセレナの速射が道を切り開いた。ミリアの放つ光弾が木々の影を裂き、敵の視界を奪うと、一瞬の迷いもなく三人の連携が繋がった。


 薬草採集の護衛では、雨に濡れた森の匂いが濃かった。

 足元が滑った拍子に、セレナの矢が思わぬ方向へ飛ぶ。


 その刹那、アルスの視界に“矢の軌道の予兆”が走った。

 彼は反射よりも早く身をひねり、矢は胸元の布をかすめて木の幹に突き刺さる。

「……っ」


 一拍遅れて、セレナの顔が青ざめた。

「ご、ごめんなさい! 怪我はない?」

「大丈夫だ。……今のは、俺も油断してた」


 アルスが苦笑しながら首を横に振ると、セレナは胸を撫で下ろし、安堵の笑みを浮かべた。

「でも……よく避けてくれたわね。やっぱり頼りになるわ」


 ミリアも胸に手を当て、ほっと息をつきながら柔らかく微笑む。

「二人とも……怪我がなくてよかった」


 そうして日々を重ねるごとに、アルスは剣の感触を研ぎ澄まし、セレナは矢の精度を確かめ、ミリアは杖の扱いをより確かなものにしていった。戦闘の最中、互いの動きを先読みできるほどに呼吸が合い、三人の連携は以前よりもずっと滑らかに、そして自然なものになっていった。


 *****


 依頼を終え、街角を曲がると、「視線」を感じる。


 振り返ると、小柄な亜人の少女が慌てて姿を現した。柔らかい毛並みの猫耳が頭の上でぴくりと動き、錆びた短剣を腰に差し、目を大きく見開いている。年齢は十四から十六歳ほど。


「……あの、私……ずっと、あなたたちに憧れて尾行してました……!」


 少女の声は震えていたが、瞳には確固たる意志が宿る。


 アルスは軽く眉をひそめ、注意を促す。

「危険な真似はやめろ」


 しかし、猫耳の少女の瞳に、その瞳の奥に、放っておけない何かを感じた。

「ご、ごめんなさいっ……!」


 少女は走ってどこかに行ってしまった。


 セレナは肩を寄せ、くすりと笑う。

「また女……ほんと、アルスは放っておけないんだから」


 ミリアも柔らかく微笑み、アルスに視線を寄せる。

「新しい風、しかも少女……ふふ、にぎやかになりそうですね」


 ――そのときミリアの内心は、当然のように暴走した。

(あれ? アルス様の隣に、新しい子が……私……私の推しコンビが……!)

(うわああっ、ちょ、ちょっと待って……!? アルス様とあの子が、あんなことやこんなことして……あの子がああなって……ぎゃぁぁ……! 妄想が、妄想が止まらないっ!)

(や、やばい……聖女モード崩壊の鐘が……! でも、ああ……ありっ……!!)


 アルスは二人の言葉に軽く眉をひそめ、困ったように息をついた。

「……お前たち、何を言ってるんだ」


 三人はそれぞれ、次なる冒険の兆しを感じ取っていた。

 再び赤い霧が立ち上がるまで、残された時間は多くない。

 四層は、もう彼らを待っている。

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