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田舎育ちの俺が王都に出てきたら、守りたい想いが強さになった  作者: 蒼月あおい
第二章

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第35話 作戦会議

 翌朝。


 宿屋の廊下に、ひとりそわそわとした影があった。ミリアである。


(うう……気になって眠れなかった……!)


 隣の部屋にはアルスとセレナが泊まっている。

 頭では「同じパーティなんだから当然」と理解しているのに、胸の奥が妙に落ち着かない。


 夜中にそっと壁に耳を当ててみたり、

 ベッドでごろごろ転がりながら「どんな会話してるんだろ……」と妄想を膨らませたり。


 結局まともに眠れず、朝日を迎えてしまった。


 しかもアルスとセレナは疲れが溜まっていたのか、

 昼前になってようやく部屋から出てきた。


 寝不足でふらふらのミリアと、眠気の抜けた顔で現れる二人。


 どこか温度差のある三人で、ようやく「赤い月亭」へ向かった。


 昼時の赤い月亭は、冒険者や商人たちでにぎわっていた。


 煮込みの香りと笑い声に包まれ、場の空気は暖かい。


 女主人マルタ・グランディアが、赤いエプロン姿で朗らかに迎える。


「おや、寝坊助の顔が三つ。

 遅い朝ごはんかい?

 いやもうお昼ごはんだね!」


 豪快に笑い、席へと案内するマルタ。

 その包容力のある笑顔に、三人は思わず肩の力を抜いた。


「食事で人は元気になるんだよ。

 まずは腹ごしらえだね!」


 運ばれてきたのは、

 森のキノコとハーブを煮込んだシチューと、香草で焼き上げた鶏肉。

 彩り鮮やかな野菜が添えられ、温かい湯気が立ちのぼる。

 三人はスプーンを手にしながら、昨日の戦いを振り返った。


「……俺、幻惑にやられてしまった。

 セレナとミリアを危険に晒したのは俺のせいだ」


 アルスが苦々しげに口を開く。


「私も、矢を確実に当てられなかった。

 狙いを外せば意味がない……」


 セレナは冷静な口調ながら、悔しさを隠せない。


「わ、私は……支援しかできなかった……

 もっと、もっと力になりたいのに」


 ミリアは肩を落とす。


 そんな三人に、マルタは手を腰に当て、にっこりと笑った。


「誰だって失敗はあるさ。

 でもね、反省したなら次はもっと強くなれるんだよ。

 大丈夫、あんたたちはいい顔をしてる」


 励ますその声は温かく、三人の胸にじんわりと染み入る。


 ふとマルタはセレナの方へ身を寄せ、

 ミリアをちらりと見てから、小声で耳打ちした。


「……あんたも、負けてられないよ。

 女は時に強気じゃないとね」


 セレナは不意を突かれ、頬をわずかに赤く染めた。


「……っ」


 普段は冷静沈着な彼女が、視線を逸らして言葉を失う。


(えっ……セレナさんが赤くなってる!?

 な、何この激レアイベント!?

 これ、攻略本にも載ってないやつだよ!?)


 ミリアは心の中で大騒ぎし、頭の中で鐘が鳴り響いていた。


 食後、三人は宿に戻った。


 アルスとセレナの部屋を訪ねたミリアが、

 両手を胸の前で組みながら声をかける。


「その……作戦会議を、しませんか?」


 机の上には蝋燭の灯りが揺れ、

 地図と羊皮紙、それにミリアの持ち込んだ教会の小冊子が広げられていた。


 三人は椅子に腰を下ろし、緊張感のある空気が漂っている。


「まずは、昨日の反省からだな」


 アルスが口火を切る。


「……俺は幻惑に呑まれて、動きが鈍った。

 正直、情けなかった。

 あのままじゃ、みんなを守れない」


 拳を握りしめる彼に、セレナが静かに首を振った。


「幻惑は強力だった。

 アルス一人の責任じゃないわ。

 だからこそ――次は対策が必要」


 彼女は弓を机に置き、弦を指で弾く。


「弱点は目と核。

 私が矢で目を射抜く。

 ……狙撃の瞬間、霧が揺れても惑わされないように、アルス、声を出して」


「声?」


「ええ。位置を示す声。

 あなたの声があれば、私は幻惑に飲まれにくい」


 アルスは驚きつつも頷いた。


「なるほど……

 互いの存在を意識し続けるわけか」


 ミリアは口を開きかけて、ほんの一瞬だけためらった。


「……正直に言うと……」


 声が小さくなる。


「……また、同じ幻を見たらって思うと、少し……怖いです」


 一拍の沈黙。


 だがミリアは、ぎゅっと杖を抱きしめて顔を上げた。


「わ、私もやります!

 祈りの加護を絶えず維持して、二人に幻惑が効きにくいように支えます!」


 そして小冊子をめくり、必死に書き込みを探す。


「……聖句の詠唱を短く区切って、

 声を途切れさせないようにすれば、

 霧の中でもお互いに居場所を確認できます!」


 セレナが感心したように目を細める。


「いい案ね。

 声の重なりが、私たちを繋ぐ……」


 アルスは二人を見やり、静かに言った。


「つまり――

 セレナが目を狙い、

 ミリアが支援で守り、

 最後は俺が核を断つ。

 その流れを徹底する」


 そこでセレナが眉を寄せた。


「でも、核の位置は霧に隠れているわ。

 目を潰しても、確実に仕留めるのは難しい」


「そこは俺が突っ込む。

 幻惑に惑わされないように、お前たちの声を頼りにする」


「……待って」


 セレナの声が、はっきりとアルスの言葉を遮った。


「それは危険すぎるわ。

 前回も、あなたは幻惑に呑まれかけた。

 核まで一直線に行くのは……賭けになる」


 アルスは一瞬、言葉を失った。

 反論しかけて、拳を握りしめる。


「……でも、俺が前に出なきゃ終わらない」


「分かってる」


 セレナは視線を逸らさず、静かに続けた。


「だからこそ、順番を守るの。


 ――目を潰して、霧を乱してから。

 それが、あなたを生かす一番の近道よ」


 セレナは少し息を吸い込み、静かに右手を差し伸べた。


「……その時は、これを」


 淡い風が指先から生まれ、

 アルスの周囲に優しくまとわりつく。


 髪と外套を揺らすその風は、

 微かな囁きのように心を落ち着け、

 胸の奥に潜む恐怖を和らげた。


「《ウィンドガーディアン》……風精霊の加護よ。

 小さなものだけれど、幻惑や恐怖に抗う力を与える」


 その声は淡々としていたが、瞳の奥には深い願いが宿っている。


 アルスは驚きに目を瞬き、そして静かに頷いた。


「……ありがとう。

 これがあれば、突き抜けられる」


 ミリアは胸に手を当て、瞳を潤ませた。


「……絶対、絶対に守ります。

 アルス様とセレナさんが、全力を出せるように!」


 セレナは視線を落とし、小さく呟いた。


「私も……守りたいの。あなたを」


 その一言に、アルスの心臓がかすかに跳ねる。


 わずかに目を見開き、

 しかしすぐに表情を引き締めると、

 机の上に剣の柄をぐっと押し当てた。


「よし。決まりだな。――次は必ず倒す」


 低く響く声に合わせて、蝋燭の炎が揺れた。


 セレナは無意識に胸元で手を握りしめ、

 ミリアは杖を抱きかかえるように胸に押し当てる。


 小さな仕草一つにも、それぞれの決意がにじみ出ていた。


 だが、その時ミリアは――


(きゃあああああ!?

 ちょっと待って、今のなに!?尊い!

 セレナさんやっぱり正ヒロインじゃん!

 アルス様もっと反応してよ!

 いやでも、今の淡々と受け止めるアルス様も

 イケメンすぎるんだけど!?

 ああもう尊死……!)


 内心で頭を抱えつつ、

 顔にはいつもの笑みを貼り付けるミリア。


「は、はい!……私もサポートを頑張ります!」


 声は努めて明るく響いた。


 三人は手を重ね合わせることはなかったが、

 それ以上に強い信頼が、机を挟んで結ばれていた。


 蝋燭の炎が揺れ、三人の影が重なって一つになる。


 ――それでも、胸の奥に小さな違和感が残っていた。


 本当に、これで足りるのか。

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