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田舎育ちの俺が王都に出てきたら、守りたい想いが強さになった  作者: 蒼月あおい
第二章

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第32話 森と赤い湖

 二層の暗い通路を進む三人。

 湿った石壁に反射するミリアのライトが、足元や壁の凹凸を柔らかく照らす。

 通路は狭く、落とし穴や小さな罠が潜んでいる気配があった。


 アルスは剣を構え、慎重に一歩ずつ進む。

 セレナは横で弓を握り、視線を鋭く巡らせる。

 ミリアは杖先のライトを微かに揺らし、アルスの背中を守るよう心を集中させた。


(アルス様の背中を守らなきゃ……!)

(アルスの隣は誰にも渡さない……!)


 互いの思いを秘め、心理戦は静かに交錯する。


 通路の先、薄暗い玄室の扉が見える。

 扉を押し開けると、冷たい空気が流れ込み、閉鎖された空間の闇が濃く沈む。


「慎重に……」


 アルスが低く呟き、剣を構えながら進む。


 突如、玄室の奥からシャドウリッパーが跳び出した。

 小型だが鋭い牙と爪を持ち、跳躍するたびに空気を裂く鋭い音を響かせる。


「アルス、気を付けて!」


 セレナが即座に指示を出す。

 矢を弦にかけ、距離を保ちながら敵の動きを正確に観察する。


 アルスは正面から剣を振るい、突進を受け止めた。

 衝撃で足元の小石が飛び散り、壁に当たって跳ね返る。


「――ホーリーシールド!」


 ミリアのホーリーシールドが、柔らかな光の盾となって広がり、衝撃を吸収する。

 シャドウリッパーが跳躍し、爪を振り下ろす。

 衝撃が玄室に響き、粉塵が舞う。

 アルスは剣で弾き返し、間合いを確保した。


 セレナは通常矢で動きを牽制し、跳躍の軌道を読み、一瞬の隙に光の矢――ルミナスアローを放つ。

 矢は肩に命中し、魔獣の動きを封じた。


 ミリアはライトを放ち、闇の奥を照らす。

 明滅する光が敵の影を奪い、跳躍のタイミングを狂わせる。


 アルスの剣閃が光を受けて鋭く煌めき、その一撃がシャドウリッパーを切り裂いた。

 粉塵が宙に舞い、やがて衝撃の余韻が静まる。


 玄室に残るのは、三人の息遣いだけだった。


 ミリアの光が淡く消える中、アルスは微かに笑った。


「いい連携だった」


 その言葉に、セレナもミリアもわずかに顔を上げる。

 まだ互いに距離を測りながらも、確かな信頼の気配がそこにあった。


 小型シャドウリッパーを制圧し、さらに奥へ進むと赤黒い光が滲んでいた。

 湿った空気に、血のような匂い。

 そして影の中から――中型の魔獣が二体、姿を現す。

 体格は大きく、漆黒の毛並み。鉤爪の先に魔力が脈動している。


「アルス、まだ!

 次はブラッドリッパーよ。警戒して!」


 彼女の声には、いつもの冷静さの奥に、微かな焦りが滲んでいた。


 弓を構え、狙いを定めながらも、隣に立つミリアを意識してしまう自分に気づく。

 その瞳には真っすぐな信頼と、揺れる感情が宿っていた。


 セレナの矢と、ミリアの光。

 互いの力が交錯し、微かな火花を散らす。


 ブラッドリッパーが咆哮し、跳びかかってくる。

 衝撃波が空気を裂き、粉塵が舞う。

 アルスは剣で受け流しつつ、次の反撃に備える。


 セレナの矢が閃き、ブラッドリッパーの足に突き刺さる。

 もう一体の突進を、ミリアのホーリーシールドが弾き返す。


 光と風が玄室を駆け巡り、赤い魔獣の目がぎらつく。


 アルスは二体の間をすり抜け、剣を振り抜いた。

 鋼の音が重なり、血煙が舞うと、ブラッドリッパーがその場で倒れる。

 セレナの光矢(ルミナスアロー)も、もう片方の魔獣の喉を貫く。


 やがて、ブラッドリッパーたちは倒れ伏し、玄室に静寂が戻る。


 ミリアは深く息を吸い、杖を下ろした。

 胸の鼓動はまだ速く、アルスの背に伸ばしかけた手を、そっと握り直す。


 鼓動を落ち着けながらも、アルスの隣に立つセレナの姿を視界の隅で意識し、心の奥が熱くなる。


 セレナも矢を収め、アルスを見やる。

 その視線には戦闘の高揚と、微かな嫉妬が混ざっていた。


 アルスは二人の表情を見比べ、小さく微笑んだ。


「助かった。……二人とも、最高の連携だった」


 だが――

 その言葉の裏で、彼の知らぬ小さな火花が、静かに胸の奥で弾けていた。


 三人は、その余韻を胸に残したまま深呼吸をし、再び奥へ進む準備を整える。


 玄室の奥で石碑を見つけると、そこには古代文字が刻まれていた。


挿絵(By みてみん)


 意味は不明だが、表面からは微かな魔力の脈動が伝わってくる。


「古代文字?」


 セレナがアルスの後ろから覗き込む。


「セレナ、読めるか?」


「これはエルフの古代文字……

 私でも読めないわ……失われた文字だもの」


 アルスが手を伸ばしかけた瞬間、淡い警告光が走り、空気が一瞬震えた。


 ミリアはすぐにライトを当て、魔力の反応を解析する。

 セレナは玄室の入口で弓を構え、静かに周囲を警戒していた。


「……触れない方がいいかも。封印系の魔術反応です」


 ミリアの声が低く響く。


 アルスは一歩下がり、慎重にうなずいた。


「わかった。ここは無理に調べずに先へ進もう」


 名残惜しげに石碑を一瞥したあと、三人は玄室を後にする。


 通路へ戻ると、冷たい空気が再び頬を撫でた。

 奥へと続く闇の中には、まだ何かが潜んでいるような気配がある。


 二層の通路をさらに奥へ進む。

 左右に複数の玄室が並び、石壁の隙間から淡い光が漏れる。

 迷宮のように入り組んだ構造は、先を見通すことを困難にさせ、慎重な歩みを強いる。


 通路の先端には、三層へ続く大階段が見えた。

 階段は大きく折れ曲がり、底がどこまで続いているのか見えないほど長く伸びている。


 階段を下りきった先には、三層の広大な空間が広がっていることを、漂う湿気と冷気が物語っていた。


 ミリアは杖を握り直し、ライトを高く掲げる。

 光が階段の段差を照らし、足元の安全を確保する。


 セレナは横に位置取り、アルスの隣で弓を構え、階段下の暗がりや影を警戒する。


 アルスは剣を握り直し、慎重に一歩ずつ降りていく。

 その長さは、迷路の先にさらに広大な三層が待ち受けていることを強く意識させた。


 *****


 視界を覆う空気は濃く、霧が立ち込めている。

 天井は見えず、頭上に広がる暗闇は、まるで夜空をそのまま押し付けたかのようだ。


 黒々とした樹木が密集し、枝は曲がりくねり、時折かすかな風にざわめく。

 森の木々からは、生気を吸い取られるような冷たさが漂う。


 湖は深紅に染まり、湖面は赤い光を反射して微かに揺れる。

 黒い森の影と赤い水の対比は不気味で、見る者に底知れぬ恐怖を感じさせる。

 湖から立ち上る冷たい霧が、一帯を薄く覆っていた。


「ここが三層……紅湖の森(こうこのもり)ですね」


 ミリアが、ギルドの記録を書き写した手帳を見ながら呟く。


 遠くの森の間から、微かな光や影がちらつき、

 まるで何か巨大な魔物が潜んでいるかのような錯覚を覚える。


 湿った土と紅い湖水の匂いが混ざり、空気は重い。


 三人は紅い湖水と森の間を慎重に進む。


 アルスは剣を構え、周囲の異質な空間を見渡しながら足を進める。

 ミリアはライトを高く掲げ、霧に光を透かしながら森や湖の輪郭を浮かび上がらせる。

 セレナは弓を手に、常にアルスの横に位置取り、森の暗がりや湖の波間の動きを警戒する。


「ここが……三層……」


 アルスが低く呟く。

 声は広大な空間に吸い込まれるように消えていく。


 その瞬間、黒い森の奥で木々が大きく揺れ、湖面が波立った。

 霧の向こうで赤い瞳が光り、低い唸り声が空間全体に響き渡る。

 生き物とは思えぬ異形の気配が、辺りを支配する。


「大型魔物……来るわ!」


 セレナは即座に矢を弦にかけ、構えを固める。

 アルスも剣を握り直し、ミリアは杖を高く掲げ、魔法の準備を整えた。


 湖面がわずかに震え、赤い水が泡立つ。


 それはまるで、何かがゆっくりと目覚めようとしているかのようだった。


 三人は息を潜め、闇の奥を見据える。


蒼月あおいです。


今回の32話ですが、石碑の文字でまさか、エルフの古代文字として表示させるはずの文字が使えないとは・・・。

挿絵が入ってしまいましたが、ご勘弁ください。


意味はここでは伏せますが、文字を調べればわかるかもしれませんね!

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