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田舎育ちの俺が王都に出てきたら、守りたい想いが強さになった  作者: 蒼月あおい
第二章

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第29話 三人の歩みと初めての分配

 広間を後にして、三人は再び薄暗い通路を歩いていた。  湿った石壁に松明の炎が揺らぎ、わずかな光が足元を照らす。


 「さて……一層のマッピング、もう少しで終わりそうだね」


 アルスがセレナから地図を受け取り広げると、描かれた線を指でなぞる。


 「後々のためにも、最初の層は全部確認しておいた方がいい」


 「そうね。道を把握していれば、いざという時に戻るのも楽になるわ」


 セレナが頷く。

 ミリアは少し遅れて二人に並びながら、清楚な笑みを浮かべて答える。


 「はい。私も……皆さんのお役に立てるように」


 (お役に立つ……とか言ってるけど、ほんとの本音は違うのよぉぉ!

  アルス様と一緒に歩けるこの時間……幸せ尊死案件!

  地図? マッピング? それも大事だけど私の心のマップはアルス様でいっぱいですからぁぁ!)


 彼女の胸中の大騒ぎを知る者は誰もいない。


 *****


 通路を歩きながら、アルスがふと口を開いた。


 「そういえば、ミリア」


 「はい?」


 「どうして君は一人でダンジョンに? 仲間はいなかったのか」


 問いかけは穏やかで、責めるような響きはない。  だがミリアの心臓は跳ね上がった。


(き、来たあああ!アルス様から直々に質問!私に興味持ってくれてるぅぅ!

 これ、もうほぼ吟遊詩人の詩にされる英雄譚インタビュー……じゃなくて、愛の審問!?

 アルス様が私に聖なる裁きの聖具を突きつけて、答えを強いているのと同じ!

 ああっ、厳しい視線が私を責めてる……でも、それが甘美すぎて幸せぇぇ!)


 表情だけは落ち着いた笑みを保ちつつ、彼女は少し目を伏せて答える。


 「……私、もともとは教会で祈りや癒しをしていて……でも、力が足りないとずっと思っていました。

  一人でここに来たのは……無謀かもしれませんが、自分の力を試してみたくて」


 「そうだったのか」


 アルスは短く相槌を打つ。その瞳は真剣で、否定や嘲りの色は一切ない。


 (あ、ああああ!そんな真剣な瞳で見つめられたら……私、試されてる?信頼されてる?……これ、もしかしてフラグ!?パーティ加入フラグ!?いやもう加入してるけど心の中では婚約フラグですからぁぁ!)


 セレナは横目でミリアを見つめ、わずかに瞳を細めた。


 「無謀……そうね。教会の教えはともかく、あの祈りは本物だったわ。……少なくともアルスを支える助けにはなる」


 表面上は落ち着いて微笑むセレナ。だがその瞳の奥には、アルスとミリアの距離が近づくことに対する、微かな嫉妬の炎が揺れていた。


 「ありがとうございます」


 ミリアは清楚に微笑む。


(ひぃぃ……セレナさんが冷静に褒めてくれてる……なのに、その瞳の奥からチラッと嫉妬の冷たい視線が飛んできた気がする……!

 怖い、怖いのに……うわあああ、心臓がバクバクしてるぅぅ!

 これ、もしや“氷の姫君からの嫉妬攻撃イベント”!?

 怒られてるのにドキドキして嬉しいとか、私……完全に変態聖女コース突入してない!?)


 *****


 と、そこへ。


 「グルルル……!」


 通路の奥から、影が四つ。  赤い目をぎらつかせたコボルトが、短剣や棍棒を振りかざしながら迫ってきた。


 「来るぞ!」


 アルスが剣を抜き、前に出る。  セレナは矢をつがえ、ミリアは錫杖を握り直した。


 (きゃーーーっ!アルス様が剣を抜いた瞬間、かっこよすぎるぅぅ!

  私も支援魔法でアルス様の背中を守るよ!いや守らせてください!背中に張り付いて生きていたいです!)


 戦いは短くも、想像以上に激烈だった。

 コボルトたちは小柄ながら俊敏で、棍棒を振り回し、通路を狭く使って攻め立ててくる。

 アルスは咄嗟に剣を構え、鋭い弧を描くように振り払った。棍棒が鎧に弾かれる金属音が響き、粉塵が舞う。


 「くっ……こいつら、素早すぎる!」


 しかしアルスは一歩も下がらず、踏み込み、振り返りざまに斬撃を繰り出す。その刃がコボルトの腕を掠めると、悲鳴とともに棍棒が床に落ちる。


 セレナは少し離れた位置から冷静に矢を放った。


 「ふん……行きなさい!」


 放たれた矢が二体のコボルトに命中し、動きを一瞬止める。

 その間合いを見逃さず、アルスは渾身の力を込めて斬りかかる。

 その瞬間、ミリアが杖を高く掲げ、手を掲げて呪文を唱えた。


 「ホーリーシールド!」


 アルスの周囲に柔らかな光の盾が現れ、鎧越しの衝撃を和らげる。棍棒や突進の衝撃が跳ね返ると同時に、彼の剣の振りも力強さを増した。


 「……これなら、安心だ!」


 アルスはわずかに息を整え、盾に守られた動きを活かして、さらに一体のコボルトを斬り払う。

 棍棒は粉砕され、敵は壁に叩きつけられた。

 残る二体のコボルトは怒りに狂ったように振りかざすが、アルスは盾の恩恵で衝撃を受け流しながら反撃する。


 セレナも矢を休めず、風を巻き起こして敵の動きを封じる。コボルトの小さな体でも、風圧に押されて体勢を崩す。

 アルスは盾の保護を受けつつ、渾身の踏み込みで斬撃を繰り出す。

 刃が空気を切る音、棍棒が飛ぶ音、コボルトの悲鳴――すべてが混ざり合い、通路は戦場と化す。

 最後の一体が必死に棍棒を振るうが、アルスの剣は光を帯びており、盾の恩恵で反撃も素早く行える。


 「ここで終わりだ!」


 一閃。剣がコボルトを貫き、重力に逆らうように吹き飛ばした。壁に叩きつけられ、体は動かなくなる。


 静寂が戻る。通路には粉塵と小さな骨の破片が舞い、三人の呼吸だけが響いた。

 アルスはホーリーシールドの恩恵を感じながら、自身の白光を帯びた姿を見下ろす。


 「……すごい……ミリアのおかげだ」


 セレナは矢を弦に戻し、静かに深呼吸した。


 「よくやったわね……ミリアの力も、アルスの剣も、完璧だった」


 ミリアは少し震える手で杖を握り直し、安堵の息を漏らした。


 「はぁ……なんとか……」


 ミリアの息はまだ荒かったが、胸の奥では別の鼓動が早まっていた。


 (ああああ……アルス様……!!剣を振るう姿、カッコよすぎ……!

  鎧越しでも伝わる力強さ……その腕に触れたらどうなっちゃうの、私!?

  ふわぁぁ……ホーリーシールドで守ってるなんて……守られてるなんて……鼻血が噴き出るぅぅぅ!!)


 身体は小さく震え、手は杖を握りながらも心の中では完全に心が大暴走。

(はぁ……はぁ……でも今は落ち着いて……でも幸せ……っ!)


 ミリアは杖を握り直し、小さく息を整えた。心はまだ騒がしいけれど、確かにこの瞬間、アルスと共に戦えた喜びで満たされていた。


 *****


 やがて一層の探索を終え、三人は地上へ戻った。

 夕闇に包まれ始めた王都の活気を感じながら、三人は冒険者ギルドの重厚な扉を潜る。

 向かった先は、いつもの受付窓口だ。


「おかえりなさい、アルスくん! 今日も無事でよかっ……」


 栗色の髪を揺らして出迎えた受付嬢のリナが、言葉を詰まらせた。アルスの隣には、既にメンバーとして馴染んでいるセレナ。

 そしてもう一人――聖職者の法衣をまとい、隠しきれない豊かな双丘を揺らす見慣れぬ美女、ミリアがいたからだ。


「……あら、アルスくん。そちらの、大変発育のよろしい聖職者様はどなたかしら?」


 リナの笑顔がピキリと固定される。その視線はミリアの胸元へ突き刺さるような嫉妬を孕んでいた。

 だが、彼女はすぐに小さく咳払いをすると、完璧な受付嬢の微笑みへと戻した。

 アルスは苦笑いしながら、懐からパーティ証を取り出した。


「紹介するよ。今日から一緒に潜ることになったミリアさんだよ」


「リナさん、彼女のパーティ加入手続きをお願いできますか?」


 その言葉を聞いた瞬間、ミリアの脳内は音を立てて沸騰した。


(き、ききき、来たああああ! 『加入手続き』!?

 それってつまり、社会的に『アルス様の所有物』になるって公的に認めてもらう儀式ですよね!?

 ギルドの書類は実質的な婚姻届! 今から私、アルス様の家系図に名前が刻まれちゃうんですかぁぁぁ!?)


 内心の猛烈な荒ぶりとは裏腹に、ミリアは清楚な笑みを浮かべて深く一礼する。


「ミリア・フェルティナと申します。至らぬ身ですが、精一杯アルス様をお支えする所存です」


「丁寧なご挨拶をありがとうございます。私は受付のリナと申します。

 ……それでは、こちらの書類に必要事項の記入と、サインをお願いしますね」


 リナは私情を一切見せず、丁寧な所作で書類を差し出した。ミリアが震える手で羽根ペンを走らせるのを、プロの目で見守る。

 だが、その書き込まれた名前と彼女の横顔を見た瞬間、リナの頭の中にあった名簿が弾けた。


(ミリア・フェルティナ ……? この名前、どこかの記録で見たような ……。

 それに、この顔立ち。

  ……まさか、以前に聖教会の遠目で見かけた、あの ……? いや、でも、そんなはずは.....気のせいよね?)


 リナの目は、目の前で頬を染めて震えている女性を冷徹に分析する。


(私の勘が正しければ、彼女の冒険者としての実力も、本来ならこんな初心者が集まる窓口に来るようなレベルじゃないはずよ。

 ……どう見ても、アルスくんたちには何かを隠しているわね。一体、何が目的で彼に近づいたっていうの?)


 リナは内心で戦慄しながらも、顔には一切出さなかった。

 書き終えた書類を受け取ると、不備がないか手早く確認し、魔道具の印章を丁寧に押し込んだ。


「はい、これで手続きは完了です。ミリアさん、これからよろしくお願いしますね。……さて、次は魔石の査定ね、アルスくん」


 アルスがカウンターに魔石の袋を置くと、リナは手際よく中身を確認し始めた。

 一点一点を確かな目で見極めていくその姿には、受付嬢としての誇りが感じられる。

 やがて、カチカチと硬貨が積まれていった。


「アルスくん、今回の換金は十九ゴルドになるわ」


 リナがアルスに硬貨を手渡す。


「ありがとう、リナさん」


 アルスが満面の笑みでリナに微笑むと、リナの頬が少しだけ緩んだ。

 アルスは硬貨を持ったまま、ギルド酒場の空いているテーブルに向かい、椅子に座ると二人の顔を見た。


「じゃあ、三人で分けようか」


 アルスが硬貨を三つの山に分ける。


「わ、私にも……いいんですか? まだ入ったばかりなのに」


「当然だ。君の“ホーリーシールド”がなきゃ、もっと苦戦してた。これは君が立派に戦った証だよ」


 アルスの誠実な瞳に見つめられ、ミリアは頬を赤らめてうつむいた。


(尊死確定……! アルス様に認められた上に、初めての共同作業……じゃなくて共同報酬! これもう新婚生活の家計簿ぅぅぅ!! 通帳記入して『今月はこれだけ稼いだね、あなた』って微笑み合う未来が見えましたぁぁぁ!!)


 セレナは横で微笑んでいたが、リナがアルスの手にわざと長く触れて硬貨を渡したシーンを思い返し、その瞳に一瞬だけ鋭い光を宿した。


「行きましょう、アルス。お腹も空いたわ」


 セレナがアルスの袖をつかんで引っ張っていく。


「あ、ああ。じゃあリナさん、また明日」


「ええ、またね、アルスくん! ……次は、二人だけでゆっくり報告聞かせてちょうだいね!」


 リナの背後からの叫びを受け流しながら、三人はギルドの活気から外へと歩き出した。  こうして、三人の冒険は公的にも「パーティ」として、確かな一歩を踏み出したのだった。

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