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田舎育ちの俺が王都に出てきたら、守りたい想いが強さになった  作者: 蒼月あおい
第二章

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第28話 骸骨の響きと心の叫び

 冷たい気配が漂う大扉の前で、アルスは剣を強く握りしめた。

 額に滲む汗をぬぐう間もなく、木の表面に手をかけた瞬間――。


「きゃああっ!」


 中から女性の悲鳴が響いた。

 アルスとセレナは顔を見合わせ、一瞬の逡巡もなく扉を押し開ける。


 ぎぃ、と鈍い音を立てて開かれた先は、広間。

 闇に満ちた空気の中で、ひとりの女性が床に座り込み、腰を抜かしたまま動けずにいた。

 その眼前で、骸骨の兵士――スケルトンが三体、錆びついた剣や槍を振りかざし、ぎしぎしと音を立てながら迫っていた。


「くそっ、間に合えっ!」


 アルスは駆け込み、女性の前に立ちはだかる。

 セレナもすぐに隣に並び、弓を構えた。


 骨がぶつかり合うような不気味な音と共に、スケルトンたちが襲い掛かる。

 アルスは剣を振り抜き、一体の腕をはね飛ばす。

 だが、骸骨は怯むことなくぎしりと首を鳴らし、残った腕で斬りかかってきた。


「なんだこいつら……骨を砕いても止まらないのか!」


 セレナの矢が次々と放たれる。

 しかし矢は骨をかするだけで、致命打にはならない。


「やっぱり効き目が薄いわ……!」


 風魔法を解き放っても、吹き飛ばされた骸骨は立ち上がり、再び迫ってくる。

 アルスは額に汗を浮かべながら、必死に剣を振るった。

 だが相手は生身の獣とは違う。痛みも恐れもない、ただ迫りくる骸の兵士。

 胸の奥が冷たくなる。


 後方で、腰を抜かした女性が、必死にその戦いを見つめていた。

 泥にまみれたアルスの姿。

 荒い息を吐きながらも決して後ろに退かない背中。

 その真剣な瞳に、彼女の心はふわりと揺れた。


 鼓動が早まり、頬が熱くなる。

 まるで世界が二人だけに縮まったかのように、周囲のスケルトンの動きや風の音も遠くに消えていく。


「……あの人……」


 一瞬、夢の中にいるみたいに、アルスの勇姿に心を奪われ、息を忘れそうになった。

 だが、すぐに自分を叱咤する。


(――見惚れている場合じゃない。私は、私にできることを)


 女性は膝で立ち、胸の前で指を組むと、深く息を吸い込んだ。

 その瞬間、広間のざわめきが遠のき――凛と澄んだ祈りの声だけが、静寂を満たした。


「――光満ちる蒼穹の御座に坐します聖き御名よ。

 この地に染みつきし穢れを拭い、闇を断ち切りたまえ。

 死の鎖に囚われし者どもを解き放ち、安らぎへと導きたまえ。

 我が声は微かにして脆くとも、

 願いはただ一つ――御身の清き光をここに顕現せよ!」


 祈りの言葉は重なり、広間全体に荘厳な響きを放つ。

 その詠唱は長く、彼女自身は完全に隙を晒していた。


 迫るスケルトンたちを前に、アルスは歯を食いしばり、剣で受け止める。

 セレナも矢を射ち、風を巻き起こして援護する。


 アルスは状況を理解できず、迫るスケルトンに剣を振るいながら叫ぶ。


「まだかっ……! 何をしているんだ!」


 一方、セレナは女性の意図を理解して冷静にアルスに指示を送る。


「守りきるのよ、アルス! 今は祈りの詠唱中だから、あの人に近づかせないで!」


 張り詰めた瞬間、女性の声が最後の句を告げた。


「――聖光は降り注ぎ、穢れし骸を今こそ浄めん!」


 眩い光が爆ぜ、二体のスケルトンを包み込む。

 骨がひび割れ、きしむ声を残して崩れ落ち、白い粉となって消え失せた。


「……なっ!」


 アルスが思わず振り返る。

 セレナは女性を見据え、すぐに察したように言った。


「あなた……聖職者なのね」


 女性は小さく頷き、まだ震えの残る声で答える。


「……はい。神聖魔法なら、少しだけ……」


 セレナはすぐに提案した。


「彼の剣に神聖の力を込められる?

 そうすれば、残りの一体に対抗できるはず」


「……できます!」


 女性は両手を剣にかざし、低く祈りを紡ぐ。

 その瞬間、アルスの剣が淡い白光を帯びた。


 闇を切り裂くようなその輝きに、アルスは息を呑む。


「……これが、神聖の力……!」


 残る一体のスケルトンが甲高い声をあげ、槍を突き出してきた。

 アルスは剣を振るい、火花と光を散らす。


 光を帯びた刃が骨を裂くたび、これまで効かなかった一撃が確かに骸を削り取っていく。


「おおおおおっ!」


 渾身の突きで、剣は骸骨の頭蓋を貫いた。

 ひび割れた頭が砕け散り、スケルトンは無力に崩れ落ちる。


 骨が床に散る音が消え、広間には静寂が戻った。


 荒い息を吐きながら、アルスは白光に包まれた剣を見下ろす。


「……すごい……これが、聖の力か」


 セレナは女性へと視線を向け、静かに微笑んだ。


「助かったわ。あなたのおかげね」


 女性はまだ緊張を残した表情で、しかし確かに感謝と決意を込めて頷いた。


「……いえ。私も、生き延びるために……」


 女性はゆっくりと立ち上がり、長い金色の髪を手で整えた。

 床に散らばった塵の中で、透き通るような青い瞳がアルスとセレナを見つめる。


「……私は、ミリア・フェルティナです」


 温かく柔らかな声。

 白基調のローブに青と金の刺繍、胸元のクロスが輝く。

 胸の豊かさは圧倒的で、自然に存在感を放っていた。


 アルスが一歩前に出て名乗る。


「俺はアルス・クライン。はじめまして」


 セレナも微笑み、肩に手を置きつつ名乗った。


「セレナ・リラエル・シルヴィーナです。聖なる祈りは助かったわ」


 ミリアは小さく頭を下げながらも清楚な話し方でお礼をいう。


「お二人とも……私の方こそ本当に助けてくださって、ありがとうございます」


 ――だが心の中では大混乱。


(うおぉ!アルス様ぁぁぁー!かっこいいお名前ぃぃ!!あの手で頭をよしよしとか……鼻血ブー確定案件ですぅぅ!お手手……剣を持つあのごつごつ感……触りたい……いやいや、まずは戦力に!)


 アルスが言葉をかける。


「……頼もしいな、ミリア」


 ミリアは清楚に微笑む。


「ありがとうございます、アルス様。……実は、あなたがあの戦いで戦う姿を見て、どうしても一緒に行きたいと思ったんです」


 胸の奥で小さく鼓動が高鳴る。


(ちょ、ちょっと待って……一緒に行きたいって何を言ってるの私!……でも、あの背中、剣振るう姿ヤバすぎ……!アルス様ぁぁぁー!!!)と内心で大絶叫するミリア。


(そっと背中に手を添えたら鼻血どころじゃ済まない……いや、ダメだ落ち着け私!今は戦力、戦力だぁぁぁ!)


「私も、あなたたちと一緒に、このダンジョンを進みたい」


 セレナも微笑み、肩に手を置く。


「それなら、心強い仲間が増えたわね。よろしくお願いします、ミリア」


 ミリアは小さくうなずき、杖を肩にかけると、優雅に二人の間に歩み寄った。

 そして、何気ない風を装って――すっとアルスの腕に自分の腕を絡める。


 その瞬間、アルスの腕に柔らかな感触が押し当てられた。

 わずかに息を呑み、思わず足取りがぎこちなくなる。


「っ……!?」


 布越しでもはっきりと伝わる温もりと柔らかさに、心臓が跳ね上がった。


(な、なんだこれ……!や、やばい……!落ち着け俺……!)


 顔を赤くしながら、必死に視線を前へ戻す。

 だが耳まで熱くなるのを抑えることはできなかった。


 横目でそれを見ていたセレナは、小さくまぶたを伏せる。

 口に出して何かを言うことはない。

 ただ、わずかに頬を引き締め、静かに嫉妬の色を宿した視線をミリアへと向けた。


(アルスの隣は――私。彼の隣に立つって決めてるのに……!)


 その心の揺れは表情にはほとんど出さず、ただ物静かな空気に包んで隠した。


 一方のミリアは――。


(う、うわあああっ!ちょ、ちょっと待って!?自然に腕組んじゃったあああ!やばい、アルス様の腕……かっこいい剣を振るってたこの腕……今、私の胸に密着してる!?ぎゃあああああ!聖女モード崩壊するぅぅ!でも幸せぇぇぇぇ!)


 表情はあくまで清楚に微笑みを浮かべながら、内心は完全にオタク大暴走。

 頬はほんのり赤らんでいたが、誰もその心の叫びには気づかない。


「さあ、行きましょう。私も、お二人と一緒に戦います」


 彼女の言葉に、アルスは力をもらったように剣を握り直す。

 だが耳の赤みは消えきらず、胸の奥ではまだ妙な鼓動が落ち着いていなかった。


 セレナも柔らかく微笑んで頷いた。

 けれどその瞳の奥には、嫉妬の名残が微かに揺れている。

 彼女は誰にも気づかれぬように、ほんの少しだけ息を吐いて前を見据えた。


 ただ一人、ミリアの胸の内だけが、乙女妄想と幸せの絶頂でとんでもないことになっていた。


 こうして、新たな仲間――ミリア・フェルティナを迎え、三人は薄暗い廊下の奥へと進み出した。

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