表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎育ちの俺が王都に出てきたら、守りたい想いが強さになった  作者: 蒼月あおい
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/37

第26話 未知への準備

 前日のギルドでの報告――街道の外に突如現れたダンジョンの存在を聞いた翌朝。

 王都の街はまだ薄く霧が漂い、アルスとセレナはその知らせの余韻を胸に、再びギルドの扉を開けた。


 目に飛び込んできたのは、掲示板に貼られた一枚の紙だった。


「……あれ、なんだろう」


 アルスが近づくと、そこには冒険者向けの注意書きが、整然とした文字で書かれた手紙だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 拝啓、勇敢なる冒険者の皆様へ

 この度、突如として口を開いたダンジョンへの挑戦を前に、いくつか心得ておくべきことをお知らせします。未知の世界に足を踏み入れる前に、心してお読みください。


 まず、ダンジョンの入り口は洞窟の形をしていますが、決して誰でも通れるわけではありません。入口前には守衛がおり、無許可での進入は固く禁じられています。冒険者として挑むには、必ず仮設のギルド受付で「探索許可」を受け、探索者としてのサインを記す必要があります。


 注意してください。サインを交わすことで、あなたは自らの意志でこの未知の領域に挑むことを承諾したことになります。そして、万が一探索中に命を落とした場合、遺体の回収は基本的にできないことを了承したものとみなされます。危険を甘く見てはいけません。


 ダンジョン内部は非常に広大です。各層は迷路のように入り組み、通路や部屋は想像以上に広いものです。そのため、同じ階層で他の冒険者に出会うことは極めて稀です。孤独の中で、慎重かつ冷静に行動することが求められます。


 また、探索の成果として得た魔物の素材や魔石は、原則としてあなたの所有物です。これらはギルドに持ち帰れば換金可能で、特に魔石は魔道具の素材として重宝され、通常の魔獣の素材より高値で取引されます。


 最後に、覚えておいてほしいのは、ダンジョンはただの洞窟ではなく、まるで生き物のような場所だということです。そこに潜む魔物や仕掛けは、あなたの油断を許しません。仲間と助け合い、自分の力を信じ、慎重に一歩を踏み出してください。


 勇敢なる冒険者よ、深淵の世界は、あなたの勇気と知恵を試す場所です。

 安全を保証するものは何もありません。ですが、未知の力に立ち向かい、成果を手にした時――その達成感と栄誉は計り知れないでしょう。


 敬具

 ――ギルド総本部より

(この文章は、冒険者への正式な通達です)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 アルスはその文面を読み上げるように呟いた。


「……なるほど、ここに入るには正式な許可が必要で、命を落とせば回収は難しい……」


 セレナも紙に目を落とし、静かに頷いた。


「やっぱり甘く見てはいけないわね。油断せず、慎重に行動することが求められてる」


 アルスは剣を握り直し、緊張と高揚の入り混じった感覚を胸に感じた。


「……わかった、まずは様子を見ながら確実に攻略しよう」


 セレナも穏やかに微笑み、同意する。


「ええ、二人で力を合わせれば大丈夫。背中は任せて」


 二人は街の道具屋へ向かい、改めてダンジョン探索に必要な装備を確認する。


 アルスは自分の剣を手に取り、軽く振った。刃の重さ、柄の感触、バランスを確かめながら呟く。


「やっぱり、初階層でも油断はできないな……」


 セレナは弓を手に取り、弦を弾く。微かな音が店内に響き、弓の張り具合や反発を確認する。


「アルス、矢は十分かしら? 初めての場所だから感覚が分からないわね」


「うん……そうだね。でもセレナの腕なら、その数で足りると思う」


 防具も慎重にチェックする。軽装の胸当てや肩当てを動かしやすく調整し、布や革の隙間から腕を動かす。


「肩のベルト、少し緩めた方が動きやすいかも」


 セレナがアルスの皮鎧のベルトを調節した。


「ありがとう。任せる」


 小さな調整のやり取りだけでも、二人の呼吸は少しずつ同期していく。


 回復アイテムも念入りに選ぶ。薬草や包帯、簡易ポーション、水筒に入れた水、干し肉や保存食を吟味する。


「アルス、荷物は軽めにしたほうがいいわ。初めてだし、これで十分」


「なるほど……うん、頼りにするよ」


 街中を歩きながら、二人は静かに会話を交わす。


「ギルドの通達を見る限り……かなり危険かもしれないね」


「ええ。でも、きちんと準備すれば大丈夫のはずよ」


「……ねえ、セレナ。初めてのダンジョンで、不安は……ないの?」


 セレナは少しだけ首を傾げ、答える。


「不安は……もちろんあるわ。でも、アルスがいるから。二人でなら、きっと大丈夫」


 アルスは胸の奥が温かくなるのを感じ、自然と頷いた。


「……ああ、俺も同じだ」


 胸の奥に、小さな安心と勇気が芽生える。


 二人の心臓は、次第に期待と緊張で高鳴っていった。街の雑踏、露店の呼び声、人々の足音。すべてが未知への一歩を前にした鼓動のように響く。


 王都の市場は朝の光に照らされ、活気に満ちている。

 商人の声、荷馬車の車輪の音、軒先の香草の香り。二人は必要なものを一つずつ確認しながら選んだ。


 セレナが水筒を手に取り、軽く振って中身の音を確かめる。


「これで水も大丈夫ね」


 アルスも薬草の匂いを嗅ぎ、適切な使い方を思い出す。


「……よし、これで乗り切れるはずだ」


 互いに手を差し伸べて道具を受け渡す小さな仕草が、自然な信頼を表していた。


「ありがとう、セレナ」


「構わないわ。お互いに支え合わないとね」


 すべての準備を終え、二人は街道の外れに足を進める。


 視界の先には、薄霧の中に口を開ける未知の深淵――突如現れたダンジョンが待っていた。


 アルスは剣を握り直し、セレナは弓の弦を軽く引く。


「……いよいよ、だね」


「ええ。でも私たちならやれる」


 二人の視線が交わる。互いの決意と信頼が、言葉以上の強さで伝わった。


 胸の高鳴りを抑え、二人は静かに一歩を踏み出す――

 未知への第一歩を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ