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田舎育ちの俺が王都に出てきたら、守りたい想いが強さになった  作者: 蒼月あおい
第二章

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第23話 金貨の数と部屋の数

 オルグベア討伐が思ったより早く終わったため、アルスとセレナはまだ夜の王都が完全に闇に包まれる前に戻ってきた。

 石畳には街灯の柔らかな光が映り、人々の行き交う音がかすかに残っている。

 冒険者ギルドの扉を押し開けると、中は閉店間際の慌ただしさに包まれていた。

 依頼を終えて戻った冒険者たちが報告を急ぎ、これから夜討ちに向かう者たちが装備を整えてざわめいている。

 カウンターの奥で帳簿を整理していたリナも、まだ最後の書類を慌ただしくまとめていたが、二人の姿に気づくとほっと息をつき、柔らかく微笑んだ。


「お帰りなさい、アルスくん、セレナさん。早かったですね、でも……無事でよかった」


「ただいま戻りました。依頼のオルグベアは討伐済みです」


 アルスは報告書を差し出しながら、農地での戦闘をかいつまんで説明した。

 リナは真剣な顔で頷き、必要事項を書き記す。


「黒褐色の毛並みに、額から鼻先へ白い筋……間違いありませんね。中型魔獣オルグベア。討伐完了、記録します」


 数分後、リナがギルドの奥から戻ると、カウンター下から革袋を取り出した。金貨の重みがずっしりと伝わってくる。


「本来二十ゴルドのところ、迅速な討伐と危険度を考慮して、ギルドから少し上乗せしておきました。三十五ゴルドです……本当にお疲れさまでした」


「さんじゅ、三十五……!?」


 アルスは思わず声を上げた。手にした袋は、ずしりと重い。


「こ、こんなに……!」


 隣のセレナは冷静に受け止めていた。


「危険度を考えれば妥当ね。……無茶をした分、身を休める余裕もある」


 アルスは胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。


「これなら……ちょっと贅沢してもいいかもしれないな」


 つい口から漏らすと、リナはくすりと笑った。


「たまにはいいと思いますよ。アルスくんは普段、節制しすぎですから……」


 そう言いながらも、彼とセレナが並んでいる様子をちらりと見やり、眉をひそめて小さく舌打ち。


「……ったく、ずるいんだから……あのエルフめ……」


 でも、すぐに顔をほころばせて、「……ま、いいわ。無事ならそれで」と小声でつぶやく。

 その仕草は、どこか子どもっぽく可愛らしい嫉妬を隠しきれずにいる。


 ギルドを出ると、夜風が心地よく頬を撫でた。

 報酬袋を抱えながら歩き出したアルスが、満足そうにため息をつく。


「今日はさすがに疲れたな……いい宿に泊まって、ぐっすり眠りたい」


「そうね」セレナは足並みを揃えながら、ふと横目で彼を見た。


「ところで……宿が別々だと面倒だし、宿代ももったいないから、一緒の宿を探さない?」


「ああ……良いかもだね」


 即座に頷いたアルスは、頭の中で二部屋を借りる光景を思い浮かべていた。


 ——そのころ、ギルドのカウンターでギルドを締める作業をしていたリナの心は小さくざわめいていた。


「二人で……あの距離で……くっ、ずるい……」


 小声で呟きながら、心の中でアルスとセレナが楽しそうに夜道を歩く様子を思い描く。

 ほんの少しの嫉妬と、温かい安心感が入り混じる。


 軽くため息をつき、リナは自分に言い聞かせるように呟いた。


「……あの人、楽しそうにして……いいな、まったく……」


 嫉妬の混じった声は、夜のギルドにだけ小さくこだまする。


 *****


「ここはどう?」


 アルスが指差したのは、石造りの立派な宿屋。

 扉の前には甲冑姿の冒険者が数人、酒瓶を片手に騒いでいる。


 セレナは首を横に振った。


「静けさが足りないわ。休むどころじゃない」


 次に訪れたのは庶民的な木造の宿。

 暖かな灯りと漂う肉の香ばしい匂いが、腹を鳴らせる。


「ここならちょうどいいんじゃないか」


 アルスは納得顔で中へ入った。


 出迎えたのは、ふくよかで愛想の良い女将。


「いらっしゃい、お二人さん。ちょうど広めのお部屋が空いてるよ。一泊五ゴルドで、大きなベッドだから二人でも十分くつろげるよ」


「え、一部屋!?」


 アルスの頭の中で警鐘が鳴り響く。


(いやいやいや、俺は二部屋借りるつもりで……!

 一泊五ゴルドってことは、一人なら三ゴルド程度だろ!?

 どう考えても……!)


 一方のセレナは、当然とばかりに小さく頷いた。


「それでお願い」


「ちょ、ちょっと待っ……!」


 抗議の声を上げようとしたアルスの前で、女将がにっこりと笑い、帳簿に記入を始めてしまう。


 夜のざわめきの中、アルスは天を仰いだ。


 ——どうしてこうなった……。


 だが横に立つセレナは、少し満足げな顔をしている。

 その横顔を見つめると、アルスの胸の奥に、不安と期待が交じり合い、自分がどんな顔をしているのか想像すらできなかった。


(ああ……どうなるんだ、これ……)


 アルスの不安だけが膨らんでいく。

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