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田舎育ちの俺が王都に出てきたら、守りたい想いが強さになった  作者: 蒼月あおい
第二章

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第21話 夕暮れの報告

 森での小さな冒険を終え、アルスとセレナは夕暮れの王都へ戻っていた。

 西の空には柔らかな茜色が広がり、街の石畳を夕日が長く伸びる影とともに照らしている。

 森での冒険は無事に終了したものの、軽い疲れが二人の肩や背中に残る。


 通り沿いの家々の窓からは暖かな明かりが漏れ、商店の軒先には明かり取りのランプが揺れる。

 静かに行き交う人々の声や、遠くで聞こえる馬車の音が、穏やかな夕暮れの雰囲気を演出していた。


 アルスは肩の荷物を調整しながら、セレナに小声で尋ねる。

「セレナさん、このあとギルドに報告に行くけど、大丈夫かな?」


 セレナは淡々と頷き、少しだけ微笑んで答える。

「大丈夫よ。私も一緒に行く」


 その自然な言葉に、アルスは胸の奥が温かくなるのを感じた。


 二人がギルドの中に入ると、掲示板の灯りが目に入った。

 セレナは足を止め、並んだ依頼書に視線を走らせる。


「……あ、これはどうかしら」


 彼女が指先で押さえたのは、村外れに現れた中型魔獣の討伐依頼。

 報酬は悪くなく、難易度は標準よりやや高め。


 アルスが横から覗き込み、少し不安げに眉を寄せた。

「これ……俺には少し荷が重そうだけど……」


 セレナは満足げに口元を緩め、依頼書を手に取る。

「大丈夫。二人なら問題ないわ。報告のついでに、これを正式に受けておきましょう」


 アルスは深く息をつき、それでも小さく頷いた。

「……わかりました。お願いします」


 二人はそのまま受付カウンターへ進み、アルスが依頼完了の報告を始める。

 リナは柔らかく微笑みながらも、どこか視線をアルスとセレナの距離に止めていた。


「よかった……二人とも無事で、本当に安心したわ」


 リナの言葉は穏やかだが、軽く首を傾げるようにしてセレナを見やる様子には、

(ふたり、仲良すぎじゃない?)と含ませるような響きがあった。


 アルスは少し照れながら報告を続ける。

「小型魔獣は森の奥へ逃げ、村人や農地に被害はありませんでした。護衛も無事です」


 リナは資料を受け取りながら、ふと小さく声をかける。

「はい、依頼完了とします。これ報酬ね」


 リナはアルスに二つの依頼料8ゴルドを渡す。

「アルスくん、報告は必ず私の所に来てね。私のことを忘れない様にしてよ?」


 その一言に、ほんのわずかに嫉妬がにじみ出ているが、表情は相変わらず柔らかい。

 アルスは軽く笑みを浮かべ、

「もちろんです、リナさん」

 と答えた。


 セレナは隣で依頼書を差し出し、簡潔に告げる。

「この依頼を受けます。明日、出発する予定で」


 リナは書類に目を落とし、少しだけ表情を引き締める。

「……中型魔獣討伐ですね。アルスくん、本当に大丈夫? 無理してない?」


 アルスは一瞬言葉を詰まらせたが、セレナが横から静かに補う。

「心配はいらないわ。私も一緒だから」


 リナはその言葉に小さく頷きながらも、ほんのわずかに複雑な色を宿した瞳で二人を見た。

「はい、受理しました。……気をつけてくださいね」


 リナは書類に確認の印を押し、笑顔を取り戻した。


 報告と新しい依頼の手続きを終えた二人は、ギルドを後にし、王都の夕暮れの通りを歩き出す。

 遠くに見える城壁の影、街灯の灯り、夕日に照らされた石畳の反射が、静かで穏やかなひとときを演出していた。


 セレナはアルスの少し前を歩きながら、軽く肩越しに声をかける。

「次の依頼も一緒ね。覚悟はしておいて。それと“さん”はいらないわ。セレナでいいのよ」


 アルスは少し驚き、しかし笑みを返す。

「わ、わかりました……」


 二人の距離は、冒険を通してさらに縮まり、互いの存在が自然と心の支えになっていることを実感させた。

 街の雑踏と遠くに見える王都の灯りの中で、二人の影は寄り添い、穏やかで温かい日常のひとときが静かに流れていた。


 アルスは歩きながら、胸の奥に広がる期待を抑えきれずにいた。

(明日は少し難しい依頼だけど……セレナとならきっと大丈夫だ)


 その確信は、暮れゆく王都の空に溶け込み、次の冒険の予感として静かに灯っていた。


 *****


 ――夜。


 ギルドの灯りがひとつ、またひとつと消えていく。

 受付のカウンターで、リナは最後の書類をまとめながら、小さく息をついた。


 昼間の喧噪が嘘のように静まり返り、外からは酒場の明かりと笑い声がかすかに漏れてくる。


「……今日も、よく働いたわね」


 誰にともなく呟きながら、リナは肩を回し、髪を後ろでまとめ直す。


 ふと、机の端に置かれた一枚の紙に目が留まった。

 それは――アルスとセレナが受けた新しい依頼書の控えだった。


 指先でその文字をなぞりながら、彼女の唇に苦笑が浮かぶ。

「ほんと……あの子、あっという間に引っ張っていかれちゃったわね」


 軽く息を吐き、紙を裏返して封筒の中にしまう。

 胸の奥に、ちくりとした痛みが残る。


 けれど、それを押し込めるようにリナは立ち上がった。


 ――そして、赤い月亭。


「んもぅ~~~、なにが“私も一緒だから”よぉ……ずるいじゃないのセレナさんってば~~!」


 カウンターの端で、頬をほんのり赤く染めたリナが、ワインの入ったグラスを振っていた。

 その向かいで腕を組んでいるのは店主のマルタ。ふくよかな体つきに、母親のような笑みを浮かべている。


「また始まったねぇ、リナ。あんたが酔うと決まってアルスの話になるんだから」


「だってぇ~~、見た? 今日のふたり!

 あのセレナさん、いつもツンってしてるくせに、アルスくんといる時だけ少し柔らかい顔してたのよ!

 あれはもう反則でしょ~~!」


 マルタは苦笑しつつ、空いたグラスに水を注ぐ。

「はいはい、文句言う前に水飲みな。ほら、明日またギルドだろ?」


「ううぅ……わかってるけどぉ……。

 でもさぁ、あんな美人で頭も良くて強いエルフと組むなんて、私なんか勝てっこないじゃない……。

 耳でも伸ばしてみようかしらぁ……?」


「やめときな。そんなことしたら酔っ払いエルフが一人増えるだけだよ」


「うぅ~~、マルタまで意地悪ぅ~~!」


 リナは頬を膨らませながら、テーブルに突っ伏した。

 店の奥で常連たちが小さく笑い声を上げる。


 マルタは肩をすくめつつも、リナの前に小皿を置いた。

 中には少し焦げた焼きチーズとパンの切れ端。


「ほら、食べな。泣く前に何か口に入れときな」


「……マルタ、優しい……好き……」


「はいはい、あとでシラフの時に言いな。酔ってる子の“好き”は信用できないんだよ」


 そう言いながらも、マルタの声はどこか柔らかく、娘をあやすような優しさが滲んでいた。


 リナはグラスを両手で包み、少し視線を落とす。

「でもね……ほんと、心配なの。あの子、無茶しがちだから。

 セレナさんが一緒でも、きっと全部背負っちゃう気がして」


 マルタは静かに頷いた。

「そりゃあ、あの子は真面目だからね。

 でも、信じてやんな。あんたがギルドで笑って迎えてやれば、それが一番の薬さ」


 リナは目を細め、グラスを傾けた。

「……うん。帰ってきたら、“おかえり”って言ってやるんだ」


 マルタは満足そうに笑う。

「それでいいのさ。恋も仕事も、焦ると碌なことないんだから」


 カウンターのランプが淡く揺れ、リナの頬を照らした。

 その表情には、酔いと小さな嫉妬と、そして確かな優しさが混ざっていた。


 夜風が店の外を通り抜ける。

 リナはグラスを抱きしめるように持ち上げ、小さく呟いた。


「……アルスくん、ちゃんと帰ってきてよ。約束だからね」


 マルタはその言葉に小さく笑みを返し、

 赤い月亭の夜は、ゆっくりと更けていった。

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