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田舎育ちの俺が王都に出てきたら、守りたい想いが強さになった  作者: 蒼月あおい
第二章

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第20話 パーティ

 アルスとセレナは朝食を食べ終わると外に出る。赤い月亭で過ごしたひとときが、まだ心の中に温かく残っている。二人は肩に荷物をかけ、歩幅を合わせながら街の空気を吸い込む。

「早速、ギルドに行くわよ」

 セレナがそう言って歩き出す。

 アルスは頷き、肩に荷物をかけると、彼女の隣に並んだ。


 通り沿いの家々の窓からは柔らかな光が漏れ、石畳に影と光の模様を作っている。朝の風が二人の髪や服をそっと揺らし、通りの看板や屋根瓦も穏やかな光に照らされて柔らかい陰影を落としていた。


「……こうして歩くのも、なんだか不思議ですね」

 アルスがぽつりとつぶやく。

「昨日までは一人だったのに、今日は隣に誰かがいる」


 セレナは少し横を向き、わずかに微笑んだ。

「一人より、効率がいいでしょう?」

「……そういう言い方、セレナさんらしいです」


 小さく笑い合いながら、二人はギルドの建物へと入っていった。


 ギルドの中は朝から多くの冒険者で賑わっていた。

 受付の前には依頼の確認をする者、報告を終えて歓談する者の姿もある。

 掲示板には街の雑務や小型魔獣の退治、護衛の依頼などがずらりと貼られていた。


 アルスが声をかける。

「依頼、どれにする?」


 セレナは淡々と掲示板の方を指差す。

「初めての共同任務だし、あまり遠くないものにしましょう。街近くの依頼が良さそうね」


 アルスは指でリストをなぞりながら、いくつかを読み上げる。

「……この二つ。小さな森での魔獣退治と、農地付近の護衛任務。これなら行けそうだ」


 アルスは掲示板の近くにあるカウンターへ歩み寄り、受付をしているリナに声をかける。

「リナさん、こちらの依頼を受けたいのですが」


 リナは目をぱちりと見開く。

「あ……アルスくん、おはよ…う……今日は……あの……えっと……」


 白いフードのエルフ――セレナがアルスの隣に立っているのを見て、一瞬言葉を失う。

 街でも知られる人間嫌いのエルフが、こうして堂々と誰かと並ぶ姿など、滅多に見られない。


「セ、セレナさんと……一緒に、行かれるんですか?」

「ええ。今日から正式にパーティを組もうと思いまして」


 アルスは少し照れくさそうに言った。


 その瞬間、ギルドの空気がわずかに揺らいだ。

 奥のテーブルに座っていた冒険者たちがざわつき、数人が思わず立ち上がる。


「おい……今、セレナって言ったか?」

「あの“孤高の琥珀”が人間と?」


 ひそひそとした声が広がり、視線が次々と二人に集まっていく。

 アルスはその視線に気づき、首をかしげた。

「……え、なんだろう?」


 何がそんなに驚きなのか、まるで分かっていない様子だ。


 一方、セレナは何事もなかったかのように無表情を保ち、

 周囲のざわめきに一瞥すら向けない。

 その静けさが、かえって人々の関心をさらに引き寄せていた。


 リナは小さく息を呑む。

「そ、そうなんですね……! その、登録の手続きも一緒にされますか?」

「はい。お願いします」


 リナは慌てて書類を取り出し、ペンを走らせる。

「アルスくん、このパーティメンバー登録用紙に、リーダー名とメンバー名を記入して」


 アルスは用紙を受け取ると、自分の名前とセレナの名前を記入しようとしてペンが止まる。

「セレナさん……すみません、フルネームをもう一度教えてください」


 セレナは肩をすくめると、アルスの横にすり寄り、ペンを奪い記入する。

(”Serena・Lirael・Silvina”)


「セレナ……リラエル、シルヴィーナ……」

 アルスは覚えるように呟きながら、リナに用紙を渡す。


 セレナはアルスの隣で静かに立ったまま、リナの視線が自分に向いた瞬間、軽く目を細め、首を傾げるようにして視線をそらす。彼女の淡々とした仕草は冷静である一方、周囲の反応を鋭く観察していることが伝わる。


 やがて、リナは顔を上げて微笑んだ。

「はい、これで登録完了です。お二人は正式なパーティとして認可されました」


 リナは頷きながら依頼の詳細を説明する。報酬や危険度、進行の注意点なども丁寧に伝える。セレナは淡々と聞きながら必要な情報を頭の中で整理する。アルスも彼女の冷静な様子を見て心強さを感じた。


「報酬は少なめですが、手軽な冒険です。無理せず、気をつけて行ってきてくださいね」


 セレナがわずかに目を細めた。

「……ええ、助言に感謝するわ」


 リナはその静かな口調に一瞬見とれ、慌てて視線を戻した。

「ふ、ふふ……なるほど……そういうことなのね」


 小さく呟く声には、わずかな震えがあった。

 自分でも気づかぬうちに、胸の奥が少しだけ痛んでいる。


 ――気づけば、彼のことをいつも気にかけていた。

 危なっかしいけれど、真っ直ぐで、放っておけない青年。

 そんな彼の隣に、あの人間嫌いと噂されるエルフが自然に立っている。

 それが、どうしようもなく胸の奥をざわつかせた。


 けれど、すぐにリナは小さく息を吐いて笑みを整える。

「……アルスくん、よかったわね。信頼できる人ができたみたいで」


 その言葉はいつものように穏やかだったが、

 微笑みの奥には、ほんの少しだけ滲む寂しさと嫉妬が隠されていた。


「リナさん、ありがとうございます」

 アルスはリナの言葉を誉め言葉と捉え、微笑む。


 ギルドを出る前、セレナは小声でつぶやく。

「行きましょうか」


 アルスは頷き、二人は森や農地へ続く街の石畳を歩き出す。

 通りには朝の活気が少しずつ戻り、遠くで商人の呼び声や荷車の音が聞こえ、朝の光が二人を照らしながら穏やかな風が背中を押すように通り抜ける。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 街外れの小道を抜けると、森の木々が朝の光に照らされ、葉の間から差し込む光と影が地面に揺れる。森の空気はひんやりとしていて、鳥のさえずりや遠くで小川が流れる音が静かな冒険の始まりを告げていた。アルスは背中に小さな期待とわくわく感を感じ、セレナは淡々と周囲を警戒しつつ歩を進める。


 農地の方へ向かうと、畑で働く村人たちが朝の作業に精を出していた。二人は少し距離を置き、依頼内容の確認を行いながら歩く。アルスは森や農地の景色を眺めつつ、セレナの冷静な判断力や細やかな気配りを思い返す。


「この人と一緒なら、どんな小さな冒険でも心強い」


 胸の奥でつぶやくアルスの言葉は、朝の王都の柔らかな光に溶けていった。


 森に入ると、早速小型の魔獣の気配を感じる。低くうなる声が枝葉の間から響き、藪がざわついた。アルスは剣を構え、セレナは弓を構える。


「先に撃退するわ。逃げたら追わずに、森の奥へ行かせるのよ」


 セレナの小さな手が弓の弦を引き、素早く的確に魔獣の進路を遮る矢を放つ。魔獣は恐怖に駆られ、叫び声を上げながら森の奥へ逃げていく。


 アルスは息を整え、セレナに微笑む。

「でも、セレナさんの手、そんなに小さいのに弓をしっかり扱えるんだね……」


 セレナは軽く肩をすくめて、少し照れたように微笑む。

「……小さな手だからこそ、弓の握りも安定するのよ」


 アルスは心の中で、改めて彼女と行動を共にする安心感を噛み締める。

「ありがとう……そばにいてくれて、助かります」


 セレナは淡々と頷き、目を細める。

「……なら、良かったわ」


 森での魔獣撃退を終え、二人は農地へ戻る。途中、村人が通る小道に差し掛かると、作物を運ぶ荷車が少し逸れて、道の下の畑に落ちそうな場面に遭遇する。


 セレナがさっと小走りでアルスの前を進み、荷車を安全に誘導する。アルスも後ろから軽く手を添えて手助けする。


「大丈夫そうね」

「ありがとう……セレナさん、こういう時は頼もしいね」

「……あまり褒めると照れるわよ」


 小さな声で笑い合い、二人の距離は少し縮まる。歩幅を合わせ、肩が触れそうになるたび、互いに軽く視線を交わす。


 農地の護衛も軽くこなし、作物や村人に被害が及ぶことはなかった。村人たちは二人に感謝し、作業を続けていく。アルスはセレナの弓さばきや冷静な判断力を見つめながら、胸の奥で静かに確信する。


「この人と一緒なら、どんな小さな冒険も楽しいし、安心だ」


 二つの依頼を終える頃には日は傾き始めていた。夕方前の柔らかな光の中で、二人の冒険は穏やかに、そして少しずつほほえましい距離感を育みながら始まったのだった。

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