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田舎育ちの俺が王都に出てきたら、守りたい想いが強さになった  作者: 蒼月あおい
第一章

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第16話 偶然の再会

 王都の街は昼の光に包まれていた。

 高くそびえる白い城壁が陽光を反射し、整備された石畳には、行き交う人々の影が色とりどりに揺れている。

 市場の広場では、新鮮な野菜や果物が並び、香辛料の香りが風に乗って漂っていた。


「おいしい林檎だよ!」

「お姉さん、見てって!」


 明るい声が飛び交い、通りのあちこちで笑いが生まれては消えていく。


 王都の日常――活気と温もりが共存するその光景は、アルスにとってまだ少し眩しく感じられた。


 彼はギルドでの依頼を終え、装備の点検を兼ねて街を歩いていた。


 露店や店先に並ぶ商品を眺めながら、街路の隅々へと自然に視線を走らせる。


 冒険者としての日々は慌ただしいが、こうして人々の暮らしを目にすると、どこか心が落ち着いた。


 ――だが、次の瞬間。


 露店の間を抜けた角で、アルスの足がふと止まる。


 白いフードの人物。


 その姿を目にした途端、胸の奥が微かに跳ねた。


(……あの人だ)


 王都へ向かう馬車の中、街の通り、そして森で牙熊ファングベアと戦った時。


 何度も偶然のように視界に現れた、あの人物――。


 風に揺れる白い外套。

 顔を覆う深いフード。


 その下に隠された表情は見えない。


 だが、立ち姿だけでわかる。


 あの時と同じ、静かな気配と、確かな強さ。


 アルスは周囲に気づかれぬよう、自然な動作でその人物の後を追った。


 人々の間をすり抜けながら、少しずつ距離を詰めていく。


 胸の鼓動が速まるのを自覚しつつも、目を離すことはできなかった。


(……どうしてだろう。あの人を見ると……心がざわつく)


 白いフードの人物は、広場の中央で足を止め、周囲をゆっくりと見渡していた。


 細やかな仕草。


 まるで、人混みの中に潜む危険を探っているかのようだった。


 アルスは小さく息を整え、ためらいながらも声をかける。


「……あの時は……よかった……」


 自分でも驚くほど、小さな声だった。


 助けた時のことが脳裏をよぎり、思わず口をついて出た言葉。


 白いフードの人物は、一瞬だけ動きを止める。


 振り向いたその瞳――


 フードの影からのぞく光は、冷静でありながら、どこか柔らかかった。


「……無事でよかったわ」


 静かに、だが確かに。


 微笑が滲んだように見えた。


 その声を聞いた瞬間、アルスの胸に小さな安堵が広がる。


 二人の間に、それ以上の言葉はなかった。


 けれど、人混みのざわめきの中で、

 互いの存在を意識し合うだけで、

 何かが確かに伝わった気がした。


(……この人、やっぱりただ者じゃない)


(あの動き……街中でも無駄がない。

 気配の消し方まで、洗練されてる)


 白いフードの人物は、何も言わずに背を向ける。


 歩みは軽やかで、しかし、どこか探るようにゆっくりとしていた。


 露店の影に溶け込むその姿は、

 まるで風が形を変えて消えていくようだった。


 アルスはその背中を目で追いながら、心の中で問いを浮かべる。


(……なぜ、俺の前に現れる?

 本当に、偶然なのか?)


 答えは風の中に消え、

 ただ、人々の喧騒だけが戻ってくる。


「この辺りでも魔獣の目撃があるらしいぞ」

「王都近郊の森が、少し騒がしいとか」


 露店の店主と冒険者たちの会話が、ふと耳に入った。


 アルスは小さく頷きながら、自然と情報を記憶していく。


 いつものように冷静に振る舞おうとするが、

 心のどこかで、まだ先ほどの白い影が離れなかった。


(また、会える気がする)


 森での戦い。


 剣を交えた、あの瞬間。


 彼女の動きは――

 どこか、わざと力を抑えていたようにも見えた。


 今思えば、あれは「試されていた」気がする。


 自分という人間を、

 冒険者としてではなく、

 “何者か”として見極めようとしていたような……。


 そんな感覚。


 宿屋への帰り道、アルスは空を見上げた。


 青空の下、鳥たちが自由に羽ばたいている。


 街の喧騒に混じる鐘の音が、昼を告げる。


 アルスは小さく笑みを浮かべた。


「……次に会ったときは、

 ちゃんと話してみたいな」


 その呟きは、

 誰にも聞こえないほど小さな声だった。


 けれど、確かに。


 心の奥で、新しい何かが動き出した瞬間だった。


 白い影の残像が、まだ瞼の裏に残る中、

 アルスは再び、人々の波の中へと歩き出す。


 王都の喧騒は、いつも通り賑やかで――


 しかし、今日だけは、少し違って感じられた。


 ――偶然の再会。


 それは、運命が静かに動き始めた合図のようでもあった。

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