用語集 および テクノロジーの解説
(*1)SNN
Spiking Neural Network (スパイキング・ニューラル・ネットワーク)。ニューロモルフィック・コンピュータの基本技術。脳の神経細胞 (ニューロン)の発火パターンを模倣して情報処理を行う。
(*2)HLSS
正式名称:Human Life Support System X1。日本のF技研で開発された実験的特殊学習型AI。遥の両親が研究に関わっており、遥は幼少期からHLSSと共に過ごしている。
(*3)Ph.D
Doctor of Philosophy の略。博士号の敬称、あるいは博士号そのものを指す。
(*4)ラストオーサー
Last Author。論文の最後に名前が記載される責任著者(通常は研究室の責任者)。
(*5)IJNS誌
International Journal in the Natural Sciences。本作中に登場する架空の国際的自然科学系学術誌。現実世界の権威あるN誌をモデルにしている。
(*6)IAIC
International Artificial Intelligence Consortium(国際人工知能コンソーシアム)。旧SC42(ISO)とGPAIが統合する形で2029年に設立。スイス・ジュネーブに拠点を持つAI審査機関。AIの標準化、信頼性、倫理的安全性を客観的に評価する。EU、日本をはじめ各国政府、国連、独立研究機関や大学が協力して運営。
(*7)ブループリント
青写真。設計図や計画書の意味。本作では通信プロトコルやシステム設計の詳細仕様書を指す。
(*8)AGI
Artificial General Intelligence(汎用人工知能)。特定分野に限らず人間と同等以上の汎用的知能を持つAI。現在のLLMは汎用型ではないが、その方向に拡張されている。
(*9)スパイククラスターマップ、スパイクヒートマップ、アクティベーション経路グラフ、動的アトラクタ軌道、スパイク相関マトリクス、など。
いずれもSNNの動作状況を比較検討するための資料。詳細は専門書を参照。
(*10)シンギュラリティ
技術的特異点。特にAIが自己改善を加速させ、人間の理解を超える知能に達する時点を指す。プレ・シンギュラリティは、その直前段階でAIが人間の知能に近づきつつある状態。
(*11)eVTOL
electric Vertical Take-Off and Landing aircraft(電動垂直離着陸機)。複数ローターを備えた短距離移動用機体。本作では水素タービンの小型発電機を搭載し、航続距離を延長。都市間や地域間の短距離航空路線に使用される。
(*12)リニアカタパルト
リニアレールを用いた射出装置。最大10G程度まで加速可能。無人輸送機は最大加速、宇宙連絡艇は最大5G、長距離路線の旅客機は2G程度で運用。本作では民間機にも導入されている。
(*13)F技研 (えふぎけん)
日本の研究開発企業。コンピュータの総合企業の一つでAI/ニューロモルフィック分野の中核。HLSSを開発し、物語の主要舞台。
(*14)トリークルタルト
英国の伝統菓子。糖蜜ベースのタルト。遥の好物で、祖父母の家の象徴的フード。
(*15)ランナウェイ・スパイク
スパイキング・ニューラルネットワーク(SNN)において、特定の条件下で発火パターンが自己増幅的に連鎖し、外部入力や通常の抑制機構によっても収束せず、異常な活動状態が持続する現象。
生物神経系でのてんかん発作や神経暴走に類似した挙動であり、計算資源の枯渇や誤学習、システム暴走の原因となる。
【現在のAIに関する用語】
ANN Artificial Neural Network(人工神経回路網)。計算により神経細胞の働きを模した構造。
DNN Deep Neural Network(深層学習型人工神経回路網)。多層構造を持ち、高度なパターン認識が可能。
LLM Large Language Model(大規模言語モデル)。Transformerアーキテクチャに基づく超巨大DNN。
【この時代のAIの状況】
・SNN技術は実用化され、ニューロモルフィック・コンピュータとしてチップ化。高速反応を求められるセンサー処理などに利用。
・量子コンピュータも広く利用され、大規模な自然科学モデルの解析やSNNのシミュレーションに用いられる。
・LLM(ANN)はAGIに近づいたモデルが一般化。一方で専門性特化型AIもNAI(Narrow AI)として稼働し、AGIをフロントエンドに持つ形で運用されている。
【この時代のスマートフォン】
・個人用多機能デバイスとして存在。細身のリストバンド型、ブレスレット型、時計型など多様。
・最小限の表示部か、表示部なしモデルも多い。
・超小型プロジェクターとカメラ、空間キーボードが一般的。網膜投射型プロジェクター搭載の超小型ヘッドセットも普及。
【オープンローター】
本作時代(2040年代)の主力輸送機。現代のターボプロップ機に似るが、ジェットエンジンの高バイパスファンを露出させた設計。
環境負荷低減と燃費改善を両立する進化型ジェットエンジン。
【超音速旅客機スカイトレイダー3】
・リニアカタパルトの民間利用を前提に開発。3モード可変複合推進(ターボジェット/ラムジェット/ロケット)を持つ。
・後退可変翼+薄膜翼で低速時の安定性を確保。客室は1クラス制で、緊急時にカプセル化される座席を備える。
・羽田・アムステルダム・ダラスのハブ間を3時間以内で結ぶ。
【この時代の研究拠点】
・地方分散は進まず、海浜地域の施設は老朽化や気候変動リスクで移転。
・長野県小諸市や佐久市などで学術研究都市構想が実施され、eVTOLと新幹線で主要都市と接続。