表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

第4話:あれ、俺……もしかして帰される?

それは、まったく予兆のない日だった。


空は晴れていて、スラ子はいつも通り跳ね回り、俺は朝から“石転がしゲーム”の改良ルールを考えていた。


「……で、今度は三回連続で転がせたらボーナス得点ってのはどうだ?」


「ぷーぅ」


「お、理解したな? よしよし、スラ子は天才だな」


「ぷぅっ!」


俺の頭に飛び乗ってぴょんと跳ねる。いつも通りの、平和な朝――だったはずなのに。


その瞬間、時間が止まった。


まるで空間そのものが凍ったような静寂の中に、突如として“声”が響いた。


『――育成対象の成長兆候を確認。特別任務、第一段階完了』


「……なに?」


声は、頭の中に直接響いている。

あのとき――異世界に来た直後、育成者のスキルをくれた“女神の声”だ。


『如月ハルトよ。貴殿の任はここで終了となる。準備せよ』


「終了……? 待って、それって――」


『貴殿の異世界滞在は一時停止され、元の世界へと戻る』


「え、ちょ、おい!? それって強制帰還ってことかよ!?」


思わず叫んだ。


俺は、まだなにもしてない。

スラ子だって、ようやく少しずつ成長しはじめたばかりだ。


ここで終わりなんて、そんなの――


「ふざけんなよッ!!」


声はもう返ってこない。


だが、世界の色が静かに変わっていくのがわかった。


空が灰色に染まり、風が止み、鳥の声が遠ざかる。


まるで夢の終わり。


まるで、“お別れ”のように。


「ぷ……ぅ?」


スラ子が不安そうに俺を見上げていた。


その瞳――いや、ゼリーの揺れ方からでも分かった。


スラ子は、何かが起きていることを察している。


「スラ子……俺、どうやら……帰らなきゃいけないらしい」


「ぷぅっ!?」


焦ったように揺れるスラ子。


「大丈夫、また来るよ。約束する」


「ぷ……ぷぷっ!ぷーーっ!!」


スラ子が俺に抱きついた。身体をいっぱいに伸ばして、俺の胸元に張り付く。


なんでわかるんだよ、お前……。

お前、本当にスライムなのかよ……。


だけど、そんな感動に浸る時間も、もう残されていなかった。


光が、俺の身体を包む。


視界が白く染まり、耳が遠のき、足元からこの世界が崩れていく。


「スラ子ッ!! 俺、絶対また戻ってくるからなッ!!」


最後の叫びが届いたのか――スラ子は、震えながら、でもしっかりと答えた。


「ぷぅ……!」


そして、俺は消えた。


育成者・如月ハルトの、最初の異世界生活は――


あまりにも唐突に、幕を閉じた。


【育成対象:スラ子】

■最終同期値:信頼度+72

■最終記録:別れの感情を記憶中

■次回ログ更新予定:1000年後


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ