第3話:世話して、鍛えて、今日も全敗!かわいい!
「スラ子、今日は“避ける”練習な」
「ぷっ!」
元気よく跳ねるスラ子。昨日、巨大イノシシに突っ込んでいった姿が頭から離れない。
あれは完全に無謀だった。けど、確かにあのとき――
“自分の意思で動いた”んだ。
スキルじゃなくて、本能でもなくて、「守るために動いた」あの一瞬。
つまり今のスラ子には、“感情”がある。
それだけで、俺はもう胸がいっぱいだった。
■訓練メニュー(本日):
木の実回避ジャンプ(20回)
声かけ反応テスト(30分)
高台からの滑空ジャンプ訓練(2回)
夜の読み聞かせ(精神育成)
俺はスラ子のために、毎日トレーニングを組んでいる。
人型キャラ育成じゃないけど、こいつはこいつで立派なパートナーだ。
「いくぞー、第一投ー!」
ヒョイッ。
俺が木の実を投げると、スラ子は「ぷぅっ!」と鳴きながら飛び跳ねて――直撃。
「……うん、まあ最初はこんなもんだ」
だけど3回目で、スラ子は明らかに避けた。
ジャンプのタイミングが、昨日よりも0.5秒早い。身体のバウンドも前より安定してる。
「……いいぞ、その調子!」
「ぷぅー!」
跳ねながら喜ぶスラ子。
正直、こいつの進化を見るのが最近の生きがいになってる。
午後の訓練を終え、川辺で休憩していたときのことだった。
スラ子が水面をじっと見つめていた。
「ん? どうした?」
「……ぷ……っ」
水の中にいた小魚が、スラ子の体に向かって跳ねた。
とっさにスラ子が水から飛び出し――
ポチャン。
きれいに跳ね返って沈んだ。
「……今日も、全敗だな」
「ぷぅ……」
でも、落ち込んでる様子もない。むしろ、また水に飛び込もうとしてる。
あきらめない。失敗しても、前向きに挑戦する。
そんな姿勢が、どこか俺自身に重なって――胸が熱くなった。
夜。
焚き火の横で、俺はスラ子に絵本みたいなものを読み聞かせていた。魔族と人間が手を取り合った昔話。
「――というわけで、争いは終わったんだとさ。めでたしめでたし」
「ぷ……ぅ……」
スラ子は俺の膝の上で、ぷるんと震えながら小さく呼吸をしていた。
もう、寝てる。
火の揺らぎと、スラ子の規則正しい振動。
この穏やかな時間が、ずっと続けばいいのに――そう思った。
「……スラ子。お前が最強になるその日まで、俺がちゃんと育ててやるからな」
返事はない。でも、その寝息(?)が、俺の決意を静かに受け止めてくれている気がした。
【育成ログ更新】
■スラ子の状態が「安心」になりました。
■親和度が上昇しました(信頼+1)
■魔素吸収量が微増しました。
その夜、スラ子の身体はほんのわずかに――色が濃くなっていた。
透明だった青に、ほんの少しだけ紫のニュアンス。
それは“進化”の、最初の兆しだった。