⑥接近戦
「この戦いは、新生派の前たちにとって、魔王の………お前達が信奉する二百年前の王から独立する為じゃなかったのか?」
そうなると話が大きく変わってくる。
仮にここで新生派の動きを阻止出来たとしても、アスタロッテが父と呼ぶ者がいる限り、根本的な解決には至らない。
「何じゃ………本当に何も知らないのか? お主、仮にも『魔王』を名乗る者なのじゃろう」
少女は白い顎に指を乗せて考えると、すぐに『ああ』と何かを思いつく。
「お主………父様から何も聞かされていないようじゃの。我が父は『魔王』その人じゃ」
「なっ!」
驚くタイサとエコーの表情に、少女は憐みの目で溜息をつくと語り出した。
「黒の剣が一定の魔力を蓄えると、魔王が復活する………つまり、我の父様が復活するのじゃ。お主はただ黒の剣を扱えるだけの道化、いやその役割も既に終えているのじゃから、今はそれ以下と言えるかのぉ」
舞台から降りるはずの役者がまだ残っている。その不満さがアスタロッテの顔に現れ始めた。
「じゃぁ、何だ………俺達人間は、いやシドリー達でさえ、お前の父親を復活させる為に利用されただけだって事か!?」
若干の違和感を感じつつも、タイサは感情的に声を荒げる。
「ま、そういう事になるの」
左右の腰に手を当ててアスタロッテは、『もうよいじゃろう』と言葉を断ち、息を吐く。
「さて、役を終えた役者は舞台を降りてもらおう。ここから先、我と父様以外の存在はこの世界に不要じゃ」
少女は体を横にして右手を摘まむように上げる。
その指には、いつの間にか黒い扇子が添えられていた。
「さぁ、来るが良い。人でありながら魔の王と呼ばれた者よ。ここで塵となり、その名を父様に返すがよい」
「ふざけるなぁ!」
タイサは両手を曲げて腰に構えると足の筋肉を軋ませ、一気にアスタロッテに接近を試みた。
「エコー! 援護だ!」
「了解!」
タイサの攻撃範囲はほぼゼロ距離。とにかくアスタロッテに近付くしか方法はない。
「まさに牛じゃな」
アスタロッテは右手に扇子を構えたまま周囲に黒い球を出現させる。一つ一つの大きさは大人の握り拳程度だが、その数は優に百を超えていた。
「さて、ここまで来られるかの」
無数の黒球が、一人の人間に解き放たれる。
タイサは左の大盾を横にして攻撃を弾き続ける。その多くは大盾で防げているが、残りはタイサの横を通過していくか、大盾で守られていない両足へと当たり、騎士鎧と同じ材質の脛当てが黒く変色しながらタイサの足から剥がれ落ちる。
だがタイサは足を緩めない。
「ほぉ、訂正しよう。近くで見るとまるで壁じゃ。『鉄壁』という名も、あながち嘘ではないようじゃ」
少女が自分の視界の半分以上を覆う大盾を見上げた。
あと数歩、タイサは間合いに入る瞬間に右足を外側へと蹴り、体を左に傾けた。
さらに背後にいたエコーは無言のまま、反対の右へと飛び跳ねる。
「ほぉ?」
左右に挟まれたアスタロッテの表情が僅かに曇る。体を横にしていた彼女から見れば、正面からタイサの巨大な杭打ち、背後からはエコーの鋭い突きが放たれていた。




