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lost19 虚構の歴史、真実の物語  作者: JHST
第九章 闇の女王
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③二度と忘れない

 フォースィは自分の手の平が人間と同じ形、色、大きさに戻っていた事をその眼で確認する。

 そして膝をつき、自分の体を両腕で抱きしめた。


「お師匠様!」

 自分が踏み潰しかけた少女が涙目で近付いてくる。

「………イリーナ? あなた、本当に馬鹿ね………私の意識が完全に飲み込まれていたら、あなた今頃、死んでいたのよ?」

 息を切らし、蒼い顔のままのフォースィがイリーナを横目で見る。

「大丈夫です! お師匠様は絶対に負けませんから!」

 満面の笑み。イリーナはフォースィに抱きついた。


「本当に良かったです………お師匠様」

 イリーナの声が弱くなっていく。フォースィは自分の膝で抱きつく弟子の腹部から出血し、体が異常に冷えている事に初めて気付く。


「………全く、本当にどうしようもない子なんだから」

 フォースィは人差し指を頭の上に掲げると、回復魔法の詠唱を始めた。指先から放出された魔力は周囲のクレーテルを巻き込んで緑色に発光する粒を作り出し、イリーナの体を優しく包み込む。

「イリーナ、この魔法を使ったら私はしばらくあなたとは話せなくなるわ。分かっていると思うけれど、私を連れてこの街を離れなさい。私達がここで出来る事は全てやったわ」

 フォースィの体が急速に縮んでいく。


「タイサ、後は貴方次第。歴史が貴方をどう評価するか分からない………けれど、少なくとも私は貴方達を覚えておいてあげるわ。そう、決して忘れない」

 これだけの事件を王国が素直に公にするはずがない。二百年前と同様、真実は本の中にのみ記録され、闇に葬られる。例え生き残ったとしても、関係者はあらゆる監視が一生付きまとう事になるだろう。

 いや、あの王女ならどうするだろうか。フォースィは一瞬だけ希望を考えたが、すぐにその思考さえ維持出来なくなる。


「………イリーナ、ありがとう。そしてお母様………ごめんなさい」

 魔法が終わり、フォースィは意識を失ったイリーナの横で両手を叩いて無邪気に笑っていた。

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