③二度と忘れない
フォースィは自分の手の平が人間と同じ形、色、大きさに戻っていた事をその眼で確認する。
そして膝をつき、自分の体を両腕で抱きしめた。
「お師匠様!」
自分が踏み潰しかけた少女が涙目で近付いてくる。
「………イリーナ? あなた、本当に馬鹿ね………私の意識が完全に飲み込まれていたら、あなた今頃、死んでいたのよ?」
息を切らし、蒼い顔のままのフォースィがイリーナを横目で見る。
「大丈夫です! お師匠様は絶対に負けませんから!」
満面の笑み。イリーナはフォースィに抱きついた。
「本当に良かったです………お師匠様」
イリーナの声が弱くなっていく。フォースィは自分の膝で抱きつく弟子の腹部から出血し、体が異常に冷えている事に初めて気付く。
「………全く、本当にどうしようもない子なんだから」
フォースィは人差し指を頭の上に掲げると、回復魔法の詠唱を始めた。指先から放出された魔力は周囲のクレーテルを巻き込んで緑色に発光する粒を作り出し、イリーナの体を優しく包み込む。
「イリーナ、この魔法を使ったら私はしばらくあなたとは話せなくなるわ。分かっていると思うけれど、私を連れてこの街を離れなさい。私達がここで出来る事は全てやったわ」
フォースィの体が急速に縮んでいく。
「タイサ、後は貴方次第。歴史が貴方をどう評価するか分からない………けれど、少なくとも私は貴方達を覚えておいてあげるわ。そう、決して忘れない」
これだけの事件を王国が素直に公にするはずがない。二百年前と同様、真実は本の中にのみ記録され、闇に葬られる。例え生き残ったとしても、関係者はあらゆる監視が一生付きまとう事になるだろう。
いや、あの王女ならどうするだろうか。フォースィは一瞬だけ希望を考えたが、すぐにその思考さえ維持出来なくなる。
「………イリーナ、ありがとう。そしてお母様………ごめんなさい」
魔法が終わり、フォースィは意識を失ったイリーナの横で両手を叩いて無邪気に笑っていた。




