②繰り返される悲劇
「己の姿を知った哀しみか、それとも記憶を取り戻した悲しみか………どちらにせよ、正気ではいられまい」
大通りに面する建物の上に立っていた大魔王が、竜の咆哮で黒髪をなびかせながら目の前の存在に憐みの目を向ける。
「余の忠告は終ぞ届かなかったか………中々に上手くいかないものだな、我が友よ」
人と魔物を二度と接触させまいと動いている以上、巨大な竜を野放しには出来ない。大魔王はかつての友の名を口にしながら、自分のすべき事を決断する。
大魔王の右手に、大量の魔力が集約し凝縮されていく。
「せめて苦しまないよう………む?」
大魔王の視界に、大通りで足を引きずる一人の少女の姿が入った。少女は青い鎧を纏い、真紅の竜に向かって何かを叫んでいた。
だが少女の求める声の内容とは異なり、真紅の竜は声に反応して振り返ると再び巨大な足を持ち上げる。
「自分の母親の最期をここでも繰り返すか………救われぬな」
大魔王は魔力を込めた状態を維持しながら、行く末を見届ける。
巨大な足が重力によって加速され、地面に近付いた。
そして低い音と共に振動が周囲に響き渡り、竜の足が地面に沈む。
少女の隣に。
「………ほう」
大魔王は右手の魔力を静かに霧散させると静かに腕を組み、動きの止まった竜の視線と踏み潰される瞬間まで竜を見上げていた少女の視線の先にある世界を待つ事にした。
数分後、真紅の竜の足元に巨大な魔法陣が展開される。魔法陣は竜の幅全てを包む大きさまで広がり、雲に届かんばかりの光の壁を作り始めた。
「成程、単に興味本位でその姿になった訳ではないという事か………ならば、ここにはもう用はあるまい」
大魔王は面白いものを見せてもらったと、小さく頬を緩ませると、屋根を伝いながら大通りの奥へと進んでいった。




