⑩勝利は誰の手に
「ぐっ、ううぅぅぅ」
部屋に充満した焦げ臭い匂いと全身の激痛に耐えながら、バイオレットは壁に沈んだ上半身を起き上がらせたが、そのまま地面に倒れこんだ。
彼女の右足は文字通り黒焦げになっており、焼けて硬くなった皮膚の裂け目からは、焼けた肉と滲み出て来る血が生々しく動き見え、地面には身に付けていたグリーブの破片が散らばっていた。
『両足に込められていたリザレクションが尽きました………残り二回です』
砕けた防具は自分の体で構成されているにもかかわらず、エクセルは淡々と現状を報告し続ける。
バイオレットは大きく、火傷している肺で無理矢理息を吸い込み、生残った部分を総動員してでも体の中に酸素を送り続ける。だが体は震え、焼けた右足は感覚すら失い、膝を曲げる事すら叶わない。それでも無事な右腕を地面に向かって伸ばし、左足を曲げてでも体を浮かせるが、そこから十数秒間姿勢を維持しても、立ち上がれないでいた。
「ま、まだ………まだ諦める訳にはっ!」
彼女はうつ伏せから立ち上がる事を諦め、体を回して仰向けに切り替える。
「………くっ」
天井を見上げたバイオレットの目が細く、そして歯を合わせた。
彼女の視界には、体から何本も煙を生やしつつも、先に立ち上がっていたバールの姿があった。彼女の足も焦げている部分があったが、バイオレット程ではなく、彼女は左足で血の直線を床に引きながら近付いて来た。
「何度も、驚かされた………」
額から流れ続ける血が右目に入り、バールは片目を瞑りながら呟く。
「ようやく理解した………あんた、その鎧に蘇生魔法を何発も仕込んでいたな」
バールの一撃を受ける度にバイオレットは死んでいた。だが鎧の蘇生魔法をすぐに開放する事で死を免れ、あたかも強靭な肉体を得ていたかのように演じていたのであった。
「それだけの大魔法を一体誰に仕込ませてもらったのかは分からないが………種が分かれば大した事はない。回数が尽きるまで殺し続ければ良かっただけだ」
バールは近くに落ちていたバイオレットの剣の残骸を蹴り弾き、部屋の隅へと追いやる。
「まだ………まだ私は負けてはいません」
「流石だ。人間にしておくには実に惜しい。生まれ変わる事があれば、こちら側に来る事を勧めよう」
口に入った血を地面に吐き出し、バールは自分の右足を見つめる。
「見ての通り、両手が使えないからな………足で踏み潰す事を悪く思わないでくれ」
そう言うと唯一無事な右足をバイオレットの顔の傍に動かした。
「………全ては隊長と人類の勝利の為に」
バイオレットが大きく息を吸い、目を瞑る。
バールの右足が浮き、彼女の顔に影をつくる。
その瞬間、外から強烈な赤白い光が差し込み、部屋を抜けていった。
光は触れた物を消滅させ、近くにあったものを融解させ、塵芥へと変えていく。その光はバールの上半身を包み込むと、反対側の壁へと抜けていった。
『胸当てに込められていたリザレクションが尽きました』
静かになった部屋の中でエクセルの声だけが響き、鎧の破片が地面に散逸する。




