⑦盾の矜持
「一つ、聞いてもいいかな」
やや感情が出始めているバールが、じわりと汗ばんできた前髪をたくし上げる。
「………君の先祖にゴーレムがいたとか、そういう話はないかな?」
壁に叩き付けられ、体を預けていたバイオレットは右腕を動かし始める。
「いえ、我が家は代々、人間のだけの家系ですよ」
埋もれた体を起こし、バイオレットはふらつきながらも足元に落ちていた剣を握り直す。
「そして私は、我が身可愛さに自分を信じて疑わなかった人を裏切ってしまった、唯の哀れな女に過ぎません」
彼女の自虐に満ちた言葉を鼻で笑い飛ばしつつも、バールは三度腰を深めて構えをつくる。
「我が一撃はどれも絶命技。受ければ肉は裂け、血は噴き出し、骨は砕ける。臓物は破裂し、後に残るのは肉塊のみ」
それを、と彼女は微動だにせずに目を細めた。
「いかに重力制御と魔法を貯蔵できる鎧を身に纏っているとはいえ………耐えられる訳がない」
「………私もそう思います」
彼女の言い方が癇に障ったのか、バールが眉を動かす。
バイオレットは大きく深呼吸を整えると、正面に剣を構えた。
「ですが、それでも倒れる訳にはいきません」
投げられ、叩きつけられた衝撃で床はどこも砕け、壁は無事な部分を探す方が困難な程に亀裂が走っている。
敵の動きは見切れず、攻撃をすれば逆撃を受け、守っても相手の一撃はそれを容易に貫いてくる。魔法も強烈な拳風でかき消され、凄まじい脚力で避けられる。これまでバイオレットは何度も試みてきたが、あらゆる攻撃が通用しなかった。
もはや勝つ手がない。
ならば負けなければ良い。
そう考えたバイオレットは、彼女の攻撃に対して全力で防御し続ける事に専念してきた。そして剣を構えたまま呼吸を整え、体力を温存し、彼女の疲労を待つ。
「実に戦いづらい敵だ」
「っ!?」
声が背後から届けられる。
縮地を複数回利用した移動技。バールは瞬時にしてバイオレットの背後に回り込むと、左膝の裏に弱めの蹴りを放つ。
「くあっ!」
強制的に体勢を崩され、力が抜けるように地面に膝をつかされた。バールは隙だらけになって倒れる彼女に向かって、放った後の足を捻って高く上げるや真下に向かって踵を首元に向けて振り下ろした。
「踵落とし」
床が完全に砕け散り、バイオレットは上半身を床の中にうずめた。
「喉は完全に潰れた。呼吸すらままならないはずだ」
バールは顎に垂れた汗を拭うと、数歩下がり相手の動きを確認する。
床から出ている下半身はピクリとも動かない。
「さすがに死んだか」
彼女は息を大きく吐くと階段を見上げ、通り過ぎた二人を追いかけよう一歩を踏み始める。
その時、床穴から小さな破片が落ちる音が響く。




