⑦待つ者達
初めこそフォースィは、知っている限りの知識を絞り出し、仮説も含めて様々な切り口から自説を披露してみせたが、結局エクセルから聞き出せた情報はたった一つだけだった。
―――フォースィと母とは、血の繋がりがない。
情報としては大きな事実であったが、当のフォースィは薄々気付いていたのか、デル達以上に驚いていなかった。だが、それ以降は目たらしい情報が引き出せず、フォースィは次第にエクセルに尋ねる事が少なくなっていった。
「殿下、デル騎士総長。森が見えてきました」
馬の手綱を握るシエンが、荷台に顔を半分向けて報告する。
「分かった。今行く」
デルは立ち上がり、王女の背後を回ってシエンの後ろから外を覗いた。
城壁はまだ続いていたが、デルの視界の先には巨大な森の壁が待ち構えていた。まだ陽炎のように揺らいでいる程度の距離が開いているが、大森林と呼ぶには相応しい規模である。
「南の大森林………蛮族がどれ程潜んでいる事やら」
馬車が揺れ、デルは姿勢を安定させようと幌に手をかけた。
「シエン、しばらくしたら斥候を出す。馬車の速度を徐々に緩めてくれ」
「分かりました」
手綱を少し引き、馬の速度を落とし始める。
その時、デルの横顔から、目を大きくしたイリーナが顔を突き出してきた。
「おい、どうした?」
驚くデルを横に、イリーナは首を小さく左右に振ると、犬のように鼻を動かし始める。
「………匂う」
「「「えっ!?」」」
デルだけでなく、バイオレット、それにアイナ王女までもが自分の肌や服の匂いを一斉に嗅ぎ始めた。
「違うわよ」
フォースィが額に手を当てて本気で呆れる。
「イリーナ、何かいるのね?」
イリーナの勘は恐ろしい程よく当たる。フォースィは溜息交じりにその事をデル達に伝え、イリーナが感じている何かを説明させようとした。
馬車の速度が、ついに徒歩と同じになる。
イリーナが目を細め、森の入口を睨んだ。
「お師匠様、います。血と肉の匂い………それと凄い殺気です」
「蛮族か………やはり戦闘は避けられなかったか」
デルが溜息を足元に吐くが、イリーナは蛮族ではないと即座に否定する。
さらに顔を突き出して目を細めた。
「森の入口に………扉のような物が見えます。それと………白と黒の服………メイド?」
その言葉に、デルは全てを察した。
「成程………三度目の正直というところか」
デルはシエンに馬車の速度を戻し、森の入口を目指すように指示した。