⑤人外の前に立つ者
―――――――――
中身の入った騎士の鎧をいくつも踏み越え、コルティが大魔王に近付く。
「大魔王様。王国騎士団の前衛を突破しました」
「残りは………聞くまでもないな」
何を考えての行動か。相手の実力を読め切れなかった青と赤の鎧を纏った二人の騎士団長の死骸を踏み越え、大魔王は周囲を見渡す。
もはや周囲に生者はおらず、各街から集められた義勇兵達だけでなく、指揮系統と戦意を失った騎士までもが目の前の悪夢から覚めようと、背を向けながら無我夢中で逃走していく。
「どうしますか?」
彼女が追撃を確認する。
「王女達に手を出すつもりはないが、もう少し間引きを行う」
「承知しました」
コルティが手を上げると、上空で待機していたケリケラが、前方に複数の竜巻を発生させる。
逃げ惑う騎士や義勇兵達が成す術もなく複数の黒い渦に巻き込まれ、破れた紙屑のように上空から地面へと人を構成していた材料が巻き散らかされていく。
「このまま魔法陣を起動させて魔王城に向かう。まだまだ我々には戦力が足りないからな」
土産は多い方が良い。大魔王は足元の大きな血だまりを避けるように飛び越え、少しずつ前に進む。
「ここの死体も有効活用する。上のケリケラにあまり派手に壊すなと伝えよ」
「分かりました。ここと魔王城の魔物達を合わせれば、数十万の軍団になります。それだけあれば、あの時の劣勢を覆せるはずです」
今度は負けません。コルティの斧を持つ手に力が籠る。
「逸る気持ちは分かるが、一度きりの大勝負だ。もう少し戦力があればと後で――――」
二人の足が止まった。
正面にはまだ生きていた人間が一人、大魔王とその側近を前にしても堂々と立っている者がいた。
「すみません。出来れば、これ以上進む事を止めてもらえると助かるのですが」
「………その魔力。あの小生意気な魔法使いの子孫か」
単調な作業の中で見つけた懐かしい存在。大魔王の頬がじわりと緩む。
「二百年前の御先祖様が、どれ程小生意気だったかは知りませんが………まぁ、あの時代にいた貴方が言うのですから、事実そうだったのでしょう」
赤い外套をなびかせる男、今では王国の中で最も権力をもつクライルが肩をすくめた。
「それで? どこまで進むおつもりか? まさか人類全てを滅ぼすまでとは言わないでしょう?」
「そこまで余も傲慢ではない。なに、この戦いの真意が誰にも継がれず、お前達為政者にとって周囲に説明しやすい状況まで減らしておいてやろうという、余なりの気遣いというものだ」
互いに冗談が飛び交い、その中に含まれる真意を相互に読み合う。
クライルは、大魔王の『気遣い』という言葉を自分でも口にする。
「ならばこれ以上の気遣いは不要です。これ以上は『余計なお世話』と後世に煙たがられるでしょう」
「そうか………憎まれるなら本望だが、煙たがられるのは余の好む所ではない。ならば、ここから先は人間達に任せるとしよう」
大魔王が右手を小さく上げると、死霊達の足が一斉に止まった。




