④全てを解き放つ
「ボーマ。動けるようになったら、すぐにこの場から離れなさい」
「………何を。最初にも言いやしたが、女性を一人にさせられる訳ありませんね」
今唱えている回復魔法を除いて、後もう二度、三度魔法を使えば言葉すら危うい幼児、下手をすれば歩く事すら叶わない赤子になる。そうなった先の事はボーマでも予想がつく。
だがフォースィは額に汗を流しながら自嘲していた。
「私なら大丈夫よ。むしろあなたがいる方が戦いづらいのよ」
「………そうっすか」
なら仕方がないと、ボーマは底の見え始めた体力を振り絞りながら膝に手を当てて立ち上がる。
「そこまで言われたなら諦めるしかないっすね。フラれた男は黙って退散するとしましょう」
「別に振った訳じゃないのよ? 生きて会えれば約束は守るわ」
「了解っす。ならじっくり王都で待つとしましょう」
ボーマは大きく息を吐くと、体の傷が癒えたドリスを睨みつける。
「それじゃぁ、また後で」
「ええ、後で」
互いに笑みを交わした後、ボーマは大鉄球を肩に背負うと、足を左右に広げて鎖を持つ右手を掲げた。そして手首を回し、鎖で円を描きながら大鉄球を頭上で回し始める。
「どおおらあああぁぁっ!」
大鉄球をドリスに向かって放つ。
「どこを狙って………」
あからさまに鉄の大玉はドリスの正面を捉えておらず、その軌道は大きく逸れている。ドリスは構えることなく立ち続け、自分の左横を通り過ぎるのを無視する。
「どこを狙ってだぁ? そりゃぁ、お前さんの背後に決まってるぜ!」
魔法を撃てる回数も限られ、大鉄球による物理攻撃が主になる。ドリスは大鉄球の軌道と一緒に高速で移動したボーマの動きを読み取って踵を返すと、背後から再び大鉄球を放とうと構え直す男を視野の中心に収めた。
「大声で言っている事自体が、既に無意味です」
「まぁな」
ボーマはドリスに向かって大鉄球を投げる素振りを見せてから反転し、さらに後方へと投げると、そのままさらに彼女との距離を離していく。
「………?」
北の大通りに入っていくボーマを見て、ようやくドリスは彼がこの場から離れて行く為の動きだった事を理解した。
「魔力の切れた仲間を置いて行くのですか………やはり魔物の仲間になった騎士とはその程度の―――」「だからあなたは、彼に素人だと言われるのよ」
声はドリスのすぐ後ろから聞こえてきた。
フォースィの右手がドリスの腰の部分に当てられている。
「何のつもりですか?」
背後を取られたとはいえ、彼女にはフォースィを恐れる理由がない。外見は子ども、これ以上魔力を放出する事は困難であり、先程の様な大魔法を撃つ事はまず不可能。仮に刃物の類を持っていたとしても、治癒能力と鎧の防御を上回る攻撃が神官風情に出来る訳がない。
ドリスは思わず溜息をついていた。
だがフォースィはそれを鼻で笑い返す。
「私はね………母をずっと追い求めてきたのよ」
「知っています。そしてあなたの母親が勇者の妹であり、そして魔王の協力者だった事も」
人類の味方であり、そして敵であった。
「嘆かわしい。とんだ詐欺ですよ」
「………少なくとも、偽勇者程ではないわね」
ドリスは面倒くさそうに振り向くと、フォースィに向かって短剣を振り上げる。
「見た所、武器もありませんね。さて、私がこの剣を振り下ろしたら、あなたはどうしますか?」
剣を振り下ろせばすべてが終わる。ドリスは彼女の最期の言葉を許可した。
「………全てを解き放つわ」
前触れもなく、フォースィとドリスを中心に、大通りを埋め尽くすほどの巨大な魔法陣が展開された。




