③記憶の片鱗
「………流石に………流石に死ぬかと思いました」
くり抜かれた地面のすぐ傍の瓦礫の中から勇者が起き上がる。その姿は左半身に致命的な火傷を負いつつも、鎧の力で徐々に再生が始まっていた。だが鎧の左半分も焦げており、その能力は明らかに衰えている。
彼女は火傷で左の目を開けられないまま、小さくなったフォースィを睨みつける。
「お婆様の仇を取るまで………私は負けられません」
戦いの中、フォースィ達はドリスの祖母、つまりこの街の訓練学校の校長であったマドリーが、蛮族の手にかかり、先の戦いで亡くなった事を聞かされていた。そして祖母を失い、勇者の鎧と共に王国へと避難したドリスに、クライル宰相が魔物の存在を話すと共に、勇者として王国に身を捧げる事を提案してきたのである。
「お婆様を利用していた貴方を許す訳にはいきません」
祖母の仇である魔王軍、そしてその魔物の側についたフォースィを、彼女は心の底から憎んでいた。
「本当におめでたいわね。一方の言い分だけを聞いて真に受けて、誰かの言われるがままに戦って………天国にいるお婆様が聞いたら、きっと悲しむわよ?」
大火傷を負ったボーマの様子を確認しながら、フォースィは少女の姿でドリスを鼻で笑う。彼女もまた、自分の叔父と同じ代の肩書で呼ばれる勇者、鎧の力に呑まれた勇者の存在を認める訳にはいかなかった。
しかし、とフォースィの表情が曇る。
ボーマは既に戦える状態ではない。すぐにでも治療を始めなければ命に関わる大火傷であった。
「あなたに勇者を名乗る資格はないわ。もう一度、学校で勉強し直しなさい」
フォースィにとって叔父の名が穢される事は、その妹である母を侮辱されるのと同義であった。勇者が国家にとって選ばれ、生み出されてきた事は歴史上の事実だが、それでも選ばれた者は、その名に恥じない実力と強い意思を満たしていたはずであった。
そう信じるフォースィの脳裏に、母との思い出が蘇る。
「母は、血の繋がっていない私に………人ではない私にこんなにも―――」
咄嗟に出た無意識に近い言葉に、フォースィは少しずつ言葉を詰まらせていった。
「良く、してくれたというのに………?」
最後まで言い終えながら、フォースィは自分の口元に手を当てて自分の発した言葉を反芻する。
そして記憶の片鱗を思い出した。
「成程」
フォースィは肩の力を抜くと、ボーマに手を当て回復魔法を唱え始めた。
「おいおい………それ以上、力を使ったら不味いんじゃないのか?」
ボーマが目を細めながら、か細い声で自分の身よりも彼女の方を安じる。
「大丈夫よ。消えてなくなる事はないから」
大魔王の言っていた意味が半分だけ理解できた。フォースィは体の縮まる苦痛に耐えながら、無理矢理笑みを作る。




