②大を兼ねる
「今だ!」
ボーマが鎖を持つ手を波打つように振り上げると、建物の残骸の中で放置されていた大鉄球が空高く舞い上がり、空中で静止する。
同時にボーマが鉄球に吸い込まれるように、空高く鎖ごと跳び上がった。
「逃がすか!」
ようやく自由になったドリスは、これまでの屈辱を倍にして返そうと、起き上がるやすぐにボーマの位置を確認し、雷雲を呼び寄せた。
空へと逃れたボーマが、彼女に向かって中指を立てる。
「あんたが、素人で助かったぜ」
「何ですって!?」
見上げていたドリスの視界の側面が、太陽よりも明るい眩しさによって白くなった。
「し、しまっ―――」
巨大な光の束にドリスが包まれる。光の束は全てをくり抜くように直進し、東の大通りを削り、ついには巨大な東門を消滅させて外の地平線が見える程に見通しを良くさせた。
「………ぐっ」
魔導杖を地面に落とし、フォースィは震える手で膝をつく。二度目は撃つまいと決めていた消滅魔法を放ち、その反動で全身から悲鳴が上がっている。体内の細胞が無理矢理凝縮されていき、熱を生み出す。体を守ろうと、全身から汗が湧き出るも、熱は無慈悲にもそれらを蒸発させ、彼女の服の隙間から、白い煙が何本も生み出されていた。
「だ、大丈夫ですかい!?」
大鉄球を操り、空から降りてきたボーマが、さらに小さくなった彼女の傍まで近付くが、専門外の彼には言葉も手も出す事が出来なかった。
「ま、まだ………大丈夫、よ」
もはや少女と呼ぶべきかも怪しい程に若返っている。
外見だけなら、弟子のイリーナよりも一周り小さい体にまで縮んでいた。大魔王の魔法のおかげか、紅の神官服は彼女の体に合わせて大きさを変え始めていた。
息を切らしながら自分の身長よりも長い魔導杖を使って体を支えながら、フォースィは立ち上がった。呼吸は次第に落ち着きを取り戻し、定着した体からは急速に熱が逃げていく。
「………流石にこの魔法なら、あの鎧の能力を貫けるはず」
ボーマを支援しつつ、フォースィは負担の少ない魔法攻撃を繰り出していたが、『勇者の鎧』が物理的な防御だけでなく魔法に関しても絶大な抵抗力を誇る事を理解すると、二人の方針が変わった。
下手に魔法の威力を上げながら戦い、無駄に魔力を放出する位なら、最大の攻撃を。それがこの魔法であった。
ボーマとフォースィは、改めて解き放った先を見る。
そこには人も瓦礫も、街の壁も何もかもが残ってはないなかった。
「どうやら勝ったよう………何をっ」
突然、ボーマがフォースィを突き飛ばした。
遅れるように、ボーマの直上から強烈な雷の束が直線上に落ちた。
「うごおおぉぉぉああぁぁぁ!」
一瞬の出来事だったが、ボーマの体を覆う程の雷は体の至る所を焼き尽くし、体から肉や布が焦げる音と匂いを立てる。
「ボーマ!?」
小さくなったフォースィが差し伸べた手に間に合わず、ボーマは膝から地面へと倒れた。




