①戦場において平等なもの
「こいつ! いい加減に離れなさい!」
「いいや、絶対に離れないね!」
ボーマは全身に火傷を負いながらも、ドリスの細い胴回りに抱きつき、両手を硬く握り合わせながら半笑いの表情で耐えていた。
「あんたは雷魔法を扱えるようだが、こうやって密着していれば撃てねぇ! 撃てたとしてもあんたもタダじゃ済まないはずだ!」
二度、三度と頭上から雷を落とされ、自分の攻撃を躱され続けたボーマが身をもって学んだ唯一の対抗策であった。
ドリスは、あの短期間で勇者を名乗るだけの能力を持つ程に成長していた。正確には彼女の身に着けている『勇者の鎧』がそれを可能にさせていたのである。
多少の怪我を自動治癒し、さらに減った魔力を空気中から補充出来、魔力切れを起こす事がない。鎧としての防御力も申し分なく、ボーマの鉄球の直撃を受けても翡翠色の鎧は傷一つ付かなかった。
但し、フォースィやボーマにとって幸いと言うべき点もある。それは彼女の剣技が優秀ではあるものの訓練生並みである事、鎧の力以外の魔法はフォースィの足元にも及ばなかった事である。
実戦経験ではボーマ達に大きな利があった。
逆に言えば、鎧の力はそれ程までに強力であるとも言える。
ボーマは必死の形相で彼女の体に纏わり付きながら、自分の背後で詠唱を行っているフォースィに視線を向けた。
「まだっすか!」
「………もう少しよ!」
空気中に漂うクレーテルを体内に取り込み、魔力へと変換。フォースィはドリスに魔導杖の先を向けつつ、自分の魔力と外部から返還した魔力を操作しながら、杖の先へと集中させる。
「いい加減にっ!」
ドリスにも二人が何を狙っているのかが分かっていた。だが彼女の剣は、一つ前の打ち合いの中でボーマの大鉄球によって弾かれており、手元にはない。仕方なく左肩に巻き付けていた鞘から短剣を取り出した彼女は、逆手でボーマの頭部や首元を狙うが、フォースィが事前に付加させていた透明な障壁がそれを阻み、それ以上剣を押し込む事が出来なかった。
「はん! その程度の武器と腕前じゃぁ、十極の神官様の分厚い防御魔法を貫けねぇよ!」
身の丈に合わない者が強大な力を持てば、それは大きな油断を誘引する。多くの猛者達と戦い、タイサの横で多くを目にしてきたボーマだからこそ、彼女の弱点を突く方法を一早く見極める事が出来た。
「ボーマ!」
フォースィが叫ぶ。
「あいよぉっとあぁ!」
彼女の合図で、ボーマは自分の体重を利用してドリスに体重を預け、そのまま姿勢を崩させて地面へと押し倒す。
「へっ! こんな形で女性を押し倒すたぁ、あまり良い気分じゃねぇが!」
倒れると同時に、ボーマはドリスの両腕を掴み、抵抗出来ない姿勢を維持させる。
「この、豚がぁ!」
「ついに、優等生のお嬢さんが下品な言葉を吐いたかい! あぁ、そうさ! だから何だってんだ!」
ボーマの顔から血と汗が混ざった大粒が彼女の顔や鎧の上に滴り落ちる。
「こいつぁ、殺し合いなんだ! 絶世の美人だろうが、醜いデブだろうが、ここじゃぁ関係ねぇ!」
彼は右手を砕けた石畳の中に突っ込むと、中から鎖を引き抜いた。




